第49話 プレゼント。

「なおくんなおくん」


「ん?」


「これ、どうぞ」


 ケーキを食べ終わった後、結愛はきれいにラッピングされた長方形の箱を俺に差し出した。


「これは?」


「私からのプレゼントです。受け取っていただけますか?」


「あ、ああ。もちろん」


 受け取ってみると、その箱はあまり重くないことが分かった。


 何が入ってるんだろう?


「開けてもいいか?」


「はいっ」


 快諾を受けて、俺は出来る限り丁寧に包装を解いた。


 そして出できた長方形のケースに入っていたのはひとつの眼鏡だった。スクエア型のフレームのシンプルなデザインだ。


「これ……眼鏡、だよな」


「その……なおくん、最近少し視力が下がってきたみたいだったので」


「俺、そんなこと言ったっけ」


「いえ、私が見ててそう思っただけなんですけど……もしかして、違いましたかっ?」


「いや丁度さ、勉強するときくらいは眼鏡した方がよさそうだなと思ってたとこなんだよ。だから、ちょっと……驚いた」


 誰にも言っていないのに、そんなに俺のことを見てくれていたのかと思うとそれだけで言いようもない嬉しさがこみあげてくる。


「ありがとな。嬉しいよ、最高のプレゼントだ」


「ど、どういたしまして……ですっ」


 俺が言うと、結愛は少し安堵したようにホッと一息を吐いた。


「あ、でもでもレンズの度はまだ入っていないので。また今度一緒にお店へ行きましょうね♪」


「ああ。でも試しにかけてみていいか?」


「ぜひぜひ! 私もみたいです! なおくんの眼鏡姿!」


「いや、見て楽しいものでもないと思うけどな?」


「私にとっては眼鏡をかけてるなおくんを見ることが本題まであるんですっ!」


「お、おう……そうなのか……」


 なぜか力説されてしまった。俺なんかの眼鏡姿を見たいと言ってくれるのはきっと、世界のどこを探しても彼女だけだろうなと思う。


 少しだけ恥ずかしさを覚えながらも、俺は眼鏡をかけた。


「ど、どうだ?」


 目の前の結愛に声をかけるが、返事がない。フリーズしてしまっている。


 そんなに似合ってなかっただろうか。


「結愛……? ごめん、似合ってなかった……か? い、いやべつに良いんだけどさ。俺は結愛の気持ちが嬉しいしそれだけで――――」


「ふえ……?」


 なんとかフォローしようと言葉を連ねていると、結愛が素っ頓狂な声を上げた。その瞳に色が戻ってくる。


「ち、違います!」


「えっ?」


「そ、その、あまりにも似合ってて、カ、カッコ良くて……ちょっと言葉を失っちゃいまし……た……」


 結愛は顔を真っ赤にして、直視できないとでも言うように視線を逸らした。


「いや、そんなにか……?」


 このフツメン以下くらいの陰キャの顔で?


「そんなに……です……。とっても、カッコイイ……です……」


 慣れるまでしばらく、結愛は目を合わせてくれなかった。




 それからしばらくすると、もうよい時間だったので結愛を家に送り届けた。


 その後、俺はさっそく眼鏡をかけて自室の机に向かう。度数は入っていないが、気分だ。これだけで勉強のやる気も増すというもの。


 と思ったのだが、そのやる気はまだまだブーストされる運命にあるらしい。


「これ……」


 机の上にあったのは小さなメッセージカード。


 いつの間に置いたのだろうか。ポップなイラストが描かれたそれには、見覚えのある丁寧な結愛の文字でこう書かれていた。


『なおくんへ』


『お誕生日おめでとうございます』


『私たちが付き合い始めてから、もう3ヶ月近くが経ちましたね。私にとっては毎日がとても、とっても楽しい日々で。煌めきが止まらない、幸せな時間でした。なおくんもそう思ってくれているなら、嬉しいです』


『これからもずっと、ずーっと、一緒にいましょうね♪』


『あなたの愛しの結愛より♡』


 最後には「なんちゃって」と小さな字で可愛く書かれていた。


「もらいすぎだな……今日は」


 こんなに嬉しいことだらけの誕生日は初めてで、このメッセージカードを読めば何だってできる気がした。


 結愛の誕生日が俺にとってどういう時期なのかは分かっているつもりだが、それでもこれ以上の誕生日にしてあげたいと、本気でそう思った。


「よっし……やるかっ」


 俺はひとまず、そのときを明るい気持ちで迎えるためにと気合を入れてテキストに向き合うのだった。




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