第45話 迷子の女の子。
俺たちはゆっくりとかき氷を食べさせ合いながら、道行く人を眺めていた。
「あっ、なおくん、あの子……」
「ん……?」
「……迷子か?」
「そうみたいです……」
通りすがりの人達は女の子に道を譲りこそすれ、助けようとはしない。べつにそれについてどうこう思うつもりはない。
だが、結愛は心配そうに女の子を見つめていた。
それから自然と一歩踏み出して、ふと気づいたように俺を振り返った。
結愛は様子を窺うように俺を見て、おずおずと口を開く。
「あ、あの、わた――――って、なおくん?」
「あ? どした?」
「い、いえその、あの……」
俺は結愛が口を開くのと同時に、歩き出していた。もちろん、泣いている女の子の方へだ。
「ほれ、さっさと行くぞ」
「い、いいんですか?」
「いいって、何がだよ。幼女が泣いてたらそりゃ、助けるだろ」
「……なんですかそれ。ロリコンですか」
結愛はジトーっと俺を見る。
「いや、幼女は天使ってだけだ。オトナの女、コワい」
初音とか。あと、いつかのあや、……あや〇かみたいな名前の女とか。
「天使……それはまあ、そうですね。ふふっ。じゃあ行きましょうか」
「おう。でもあの子の相手は結愛に任せる。俺が話すとさらに泣かれそうだし」
泣かれたらわりとマジで俺のガラスのハートが崩壊しそうだし。
幼女くらい俺に優しい世界であってほしい。
「はい。任されました♪」
そうして俺たちは女の子の元へと駆け出した。
大方、デートを中断してしまうことを気にしていたのだろう。駆け出す結愛の顔は晴れやかで、それでいてそれはお姉さんの表情だった。
女の子の前までやってくると、結愛は目線を合わせるようにしゃがむ。
俺は適当に少し離れたところに立ち、様子を見ることにした。
「お嬢ちゃん、どうしたの? だいじょうぶ? 迷子かな?」
「ふぇ……? おねえちゃん、だあれ……?」
女の子は驚いて、少し不安そうな様子で結愛を見た。
結愛はそれに動揺した様子もなく、怪しい人じゃないと伝えるように両手を広げたりしながら優しく、笑顔で話しかけていく。
「あ、ごめんね。とつぜん話しかけちゃって。私は
「えりはね、……えりだよ」
「えりちゃんだね。えりちゃんはお母さんとお祭りに来たのかな?」
「ううん、おにーちゃん……。おにーちゃん、迷子なの……」
「あはは、そっか。お兄ちゃんが迷子かあ。それは大変だね」
「うん。おにーちゃん、ほーこーおんちなの」
「そっかそっか。しょうがないお兄ちゃんだね~」
「でもね、とってもやさしいんだよ。今日もえりのお願い聞いてお祭りに連れてきてくれたの」
「……そっか。じゃあ、結愛お姉ちゃんが一緒に探してあげる!」
「……ほんとに?」
「ほんとだよ! だから、ほら。手を繋いで、一緒に歩こう? そうしたら、もう寂しくないよね?」
「うん……!」
女の子、えりちゃんは結愛の手を取ると、初めて笑顔を見せた。
それにしても、手慣れたものだ。俺ではああはいかないだろう。
それから結愛がこちらを見て「あっちのおっきなお兄ちゃんも一緒にさがしてくれるからね~」とえりちゃんに告げた。
目が合ったので俺がにへらぁっと笑うとえりちゃんは一瞬ビクッと背筋を震わせたが、その後ちょこんと頭を下げてお辞儀をしてくれたので俺もお辞儀を返した。
するとえりちゃんはまたビクッとして、慌てた様子でペコペコともう一度お辞儀をする。
それがなんだか面白くて、俺はまたお辞儀を返してみる。さらにお辞儀が深くなっていくえりちゃん。
無限のお辞儀合戦だ。
なんだこれ、可愛いな。教育は行き届いているらしい。
「こらなおくんっ。からかっちゃいけません」
「あ、はい……ごめんなさいでした……」
珍しく恋人に怒られた。
怒られる俺を見て頭上にクエスチョンを浮かべるえりちゃんがこれまた天使だった。
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