第43話 突然のキス。

「――――――――なおくんっ」


「うおっ、ゆ、結愛!?」


 なおくんの部屋に入ってすぐ、私はすぐになおくんをベッドに押し倒した。


 もう、耐えられなかったのだ。


 もう、自分を抑えられなかったのだ。


 だって、なおくんは私の恋人だもん。私だけの、恋人なんだもん。


 だから、いいよね?


 なおくん、これはわがままだと思わなくていいんだよね?


 私はなおくんにして欲しいことを言っていいんだよね? したいことを、してもいいんだよね?



 私は押し倒した勢いのまま、なおくんの上に覆いかぶさるようにしてキスをした。


 むさぼるように、濃厚なキスをした。


 何度も、何度も唇を重ねた。


「なおくん……なおくんっ……」


 なおくんは最初こそ動揺するように目を見開いていたけれど、何度も繰り返すうちに私を包むように抱きしめてくれた。


 私を拒むようなことは一切、しなかった。



 どのくらい、そうしていただろう。


 どのくらい、唇を重ねただろう。


 恥ずかしくて、まだ何回も重ねたことのなかった唇。だけど、もう絶対に忘れないだろうなと思った。それくらい、唇がふやけるくらいにキスをした。


 そうしてやっと、説明を求めるようになおくんがその口を開く。


「どうしたんだ……? 結愛……?」


「嫉妬…………です……」


「嫉妬……? ――――て、そっか。そう、だよな。……すまん。すまん結愛。俺がまた、バカだった」


 私が口にしたたった一言で、なおくんはすべてを悟ったように私を強く、優しく抱きしめる。とても、あたたかい。


「そんなことないです……私が、……私の心がちっちゃいから、それで……」


「いや、俺が悪い。今日はデートだったんだから」


 なおくんはいつでも、ぜんぶを自分のせいにしようとする。そうじゃないのに。恋人のんだから。きっと、お互いのせい、でいいはずなのに。


 でも、そんな優しいなおくんに甘えたくなってしまう。


 私は弱い。こんなときは、1年長く生きているなおくんが羨ましい。


 もし同い年だったら、私たちはもっともっと簡単に同じ速度で歩くことができたのかな。なおくんに、気を遣わせることもなかったのかな。


「なあ結愛」


「なんですか……?」


「今度、埋め合わせするよ」


「埋め合わせ、ですか?」


「ああ。まあ、まだ結愛が付き合ってくれるなら、だけどな。もう一度、ラーメンを食べに行かないか? 今度こそ、ちゃんとするから」


「何度でも、一緒に行きますよ……? なおくんとなら」


「ありがとう。……じゃあ今度は少し遠くへ行こう。電車に乗ってさ。行ってみたいラーメン屋があるんだ。それなら、きっと二人きりになれる」


「はい……はいっ。よろしくお願いします、なおくん♪」


 私はそう言って、なおくんの胸に顔をうずめた。


 たくさんたくさん、なおくんの匂いがする。少しだけ、汗のにおいもする。でも、全然イヤじゃない。とっても気持ちいい。


 でも、やっぱり甘えちゃったな……。


 なおくんはそれでいいと言ってくれるけど、やっぱりダメだと思う。私だけもらってばかりだ。


 そうだ、もう7月も下旬に差し掛かる。ということは以前に聞いたあの日が近づいてくるということ。


 その時こそ、いつもお世話になっているなおくんに……。



 ・


 ・


 ・



「ただいま~」


 そんな声が聞こえた気がして、私は意識を取り戻した。


「んんっ……?」


 いつも間にか、眠ってしまっていたらしい。


 窓を見るに、もう日は沈んでいるみたい。数時間は寝てしまっていたということだ。


 ふと、隣をみると同じベッドの上で恋人が静かに寝息を立てていた。


 そっか、なおくんはテスト勉強で疲れているんだった。


 起こさないようにゆっくりと、私は身体をなおくんの方に向ける。


 いつもより柔らかな表情をしたその顔が良く見えた。


「ふふっ。かわいい」


 ちょこっと魔が差して、ほっぺたをつんつんと突いてみたり。頬を撫でてみたり。唇を、なぞってみたり。


 このまま、何時間でも寝顔を眺めていられそう。


 あ、でもそろそろ帰らないと。正確な時間はわからないけれど、お母さんも愛奈も心配しているかもしれない。


 どうしよう……気持ちよさそうに寝ている恋人を起こすのは忍びない。だからって勝手に帰るのもどうかと思う。


 うーん、携帯にメッセージを残しておくとか?


 そんなことを考えていると――――


「ただいま~。直哉~? 寝てるの~? ――――――――って、お邪魔だったみたいね。おばさんリビングで静かにしてるからごゆっくり~」


 部屋を覗きにきたなおくんのお母さまが瞬時にドアを閉めて戻っていった。


 それを見て私もまた瞬時に立ち上がる。


「ちょ、ちょっと待ってください! そういうことじゃないんです~!」


 私たち、健全なカップルですから! 何にもやましいことはしていません。


 ちょっと数えきれないくらいキスをして。抱きしめあって。寝落ちしちゃっただけです!


 なおくんのためにもお母さまの誤解を解かないと!


 それにしても、このパターン何回目なの!?




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