第42話 嫉妬。
私、
なぜか。
それは今私の目の前で起きていることに由来します。
カウンターしかないラーメン屋さん。私たち3人以外にお客さんはいない。
私の左隣には当然、大切な恋人であるなおくんがいる。
そしてその恋人のまた左隣。そこには――――
「桜井先輩もここのラーメン屋を知ってるなんて感激です!」
「いや
嬉しそうに手を合わせて私のなおくんと語り合う御代玲奈ちゃんがいた。
私たちがラーメン屋に入った数刻後、彼女もまたこのお店の暖簾をくぐったのだ。
私たちの姿をみてパッと顔を輝かせた彼女だったが、すぐにデートであることを察して話しかけてよいものかどうかと逡巡しているように見えた。
私としてはせっかくの、久しぶりのデートだ。なおくんと二人きりの時間を過ごしたいという気持ちもある。
でも、このカウンターしかない狭い店内で、知り合いの、しかも大事な友人である彼女を無視する理由もなかったのだ。
だから、私となおくんは快く彼女を迎え入れ、なおくんの隣に座ってもらった。
それはいい。二人きりでないのは少し残念だけど。やっとできた同性のお友達もとっても大切だから。
でも、問題はそのあと。注文を済ませ、少し会話に花を咲かせようという今という時間。
「やっぱここは塩だよな! あっさりしてるんだけど鶏ガラとあごだしがしっかり効いててさ、何度でも食べたくなるんだよなあ~」
「まさに! ここはどのラーメンも美味しいですが、やっぱり塩が一番だと思います! 好みまで気が合いますね! 桜井先輩!」
「(私だけ、蚊帳の外……)」
楽しそうに談笑する二人と、話に入り込めない私。夢中になっている二人はそんな私に気づいてはくれない。
なおくんがあんなに楽しそうに話すの、初めて見るかも……。
玲奈ちゃんもとっても笑顔で、なんだか二人の世界が出来上がっているようにまで見えてしまって。
なおくんと玲奈ちゃんがお似合いみたいまで見える。
そりゃあ私はラーメンに詳しくないけど。お店でラーメンを食べたことだってほとんどないけど。だからこそ、もっとエスコートしてほしかったのに……。
今玲奈ちゃんに話しているようなことは、私に語ってほしかったのに。
なおくんの話なら、私はどんな話でも聞くのに。
やっぱり、最初から同じ趣味を共有している女の子の方がいいですか?
これから好きになろうとしてる私なんかじゃ、ダメですか?
なんか、ちょっと悲しくなってきた。
なおくんと趣味を共有している玲奈ちゃんが羨ましくて、ちょっとだけ、恨めしい。
私、嫌な女の子だ。せっかくできたお友達にこんなことを思うなんて。
でも結局、いろんな気持ちがせめぎあってしまって。
美味しいはずのラーメンの味なんて、ぜんぜんわからなかった――――――――。
◇ ◇ ◇
ラーメンを食べ終わり、店の外へ出ると玲奈ちゃんはすぐに帰っていった。
玲奈ちゃんからは帰り際、少しだけ私を気遣う様な視線を感じた。私の様子に気づいたのかもしれにない。彼女は本来、気遣いのできる女の子だから。
彼女も彼女で、趣味の共有できる人と出会えてうれしかったのだろう。
玲奈ちゃんを見送ると、なおくんがやっと思い出したように私のことを見てくれた。
「いやほんと驚いたな。御代のやつ、俺よりここら辺のラーメンに詳しいくらいだったぞ?」
「そう……ですね」
ダメだ、やっとなおくんが私を見てくれるのに。なおくんに悪気はなかったはずなのに。まだ、笑顔が作れそうにない。
「今度御代が教えてくれた店にも行ってみるか! ああでも、まずはこれからどこに行くかだよなあ~」
興奮冷めやらないらしく、いつもよりテンション高めに言うなおくん。
私はそんな恋人の袖を、少しだけつかんで、控えめに引く。
本当に、ほんのちょっとだけだ。今はそれしか勇気がでなかった。
「なおくん……」
「お、なんだ? どっか行きたいとこあるか?」
やさしく聞いてくれるなおくんに、私は残り僅かなちっぽけな勇気を振り絞って告げる。
「………………なおくんの家、行きたいです」
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