第40話 充電。
――――――――眠い。
期末テスト2日目。3時間目前の休み時間にして、身体は限界を訴えていた。
やばいな、これ。頭がくらくらする。さすがに睡眠時間削りすぎたか?
しかし、受けた屈辱は必ず返す。陰キャなめんじゃねえ。よくも彼女とその友人の前で恥をかかせてくれたな。
負けばかりの人生な陰キャの俺だけど。
単純な勉学の実力でリア充に負けたくはない。学歴でリア充に笑われるような人生は送りたくない。学歴が本当に重要なのか、なんてどうでもいい。笑われる隙を見せたくないのだ。
いや、模試で負けてたってことは普段のテストから負けてたってことだけど!
なんだろう、知ってしまったからには。負けを受け入れたくはないのだ。それは下手くそで歪なプライドですらない。ただの意地なのであった。
「しかしこれは………ねみぃ………」
「大丈夫かい? 桜井、随分眠そうだけれど」
一人ごちると、クラスメイトの
「うっせえ。悪は滅びろ」
「悪って……テストに善も悪もないだろう? この前のことをまだ怒ってるのか?」
うるさい。マジうるさい。俺はいつでも自分の物語の主人公で正義のヒーローなんだよ。
「……ひどい顔してるよ。顔でも洗ってきたらどうだい?」
「………………そうする」
さすがに限界を迎え、話すのも億劫になった俺はおとなしく席を立って廊下へでたのだった。
***
「ふう……」
顔を洗い、一息つくと少しだけ頭がすっきりした気がした。
あまり休み時間も長くない。さっさと戻って次の教科の復習でもするとしよう。
そう思って歩き出した。
――――が、
「うおっ……!?」
突然空き教室からでてきた腕により、俺はその教室へ引き込まれた。
なに!? 悪の組織!? 悪の生徒会!? リア充に成績で勝っちゃいそうな陰キャの俺を排除する気なの!?
「って…………
俺が身構えるように態勢を整えると、目の前にはひとりの少女がいた。
それは俺のよく知る女の子で、俺が今もっとも会いたかった女の子だった。
少しだけ不安そうに、恥ずかしそうに、はにかみながら彼女は口を開く。
「えへへ……来ちゃいました」
「来ちゃったって――――――――なっ、おいなにして!?」
俺が困惑していると、結愛はなぜか俺の頭を自らの胸に押し付けるように抱きとめた。
柔らかい胸が顔に押し付けられる。ふわっと、結愛の香りが舞う。
なんだこれ、気持ちいい。いつもならもっと動揺しそうなものだけど、疲れた頭は急速に安らいでいく。
「なおくん、ひどい顔してました」
「それは……」
「だ、だから私がこうやって、抱きしめてあげます。これでは元気、出ませんか……?」
「いや、………その」
空き教室で、彼女に抱きしめられているなんて。まるで逢引きでもしているかのようで。それを認識するとやっぱりわずかな緊張と興奮が俺を包んだ。
だけど、――――。
「もう少し、こうしててもらってもいいか?」
「はい。いくらでもどうぞ」
さっきの結愛の声は震えていた。それにあの時みたいに、結愛の心臓も近くて。鼓動が早くなっているのを感じた。彼女も緊張している。
俺のために勇気を出してくれている。
だからもう少しだけ、甘えたいと、そう思ってしまった。
「ふふっ。なんかこうしてると私の方がお姉さんみたいですね」
「……そうか?」
だとしたら随分と頼りないようにも見えるけど、でも優しくて格好良いお姉さんだ。情けない俺の危機に、こうして駆けつけてくれるのだから。
もしかしたら、愛奈ちゃんの前ではこんな一面もあったりすのだろうか。
「…………ううん。やっぱり、私はなおくんの前ではダメ見たいです。」
「え?」
「………………私も、なおくんからチカラ、もらいますね。いい点数が取れるように」
そう言うと結愛はさっきまでよりも少し強く、俺を抱きしめた。頭の上にも、少しだけ体重がかかるのを感じた。
それはとても、心地よい重さだった。
「……ごめんな、あんまり勉強見てやれなくて」
「いえ、なおくんにはなおくんの勉強がありますから。あの勉強会だけで十分です」
「そうだ。テスト終わったら、デート行こう」
「いいんですか?」
「ああ」
まだ行けてないラーメンデートとか、どうだろう。
テストを乗り越えた自分へのご褒美に彼女とラーメンを食べるのも悪くない。いや、それが楽しいのはラーメン好きな俺だけだろうか。結愛には退屈だろうか。
やっぱりデートの場所はまた、二人で話し合おう。テストを最終的に受けるのはひとりで、それはひとりひとりの闘いだけれど。デートは二人で作るものなのだから。
「楽しみです」
それから結愛は少し笑うと、名残惜しそうに俺の頭を離した。
「なおくん、少しはリフレッシュになりましたか?」
「ああ、完璧だ。もうテストとか余裕だな」
「それなら、よかったです。私もなおくんパワー充電ばっちりです! 100点獲っちゃいますよ~!」
結愛はおどけるように手をグーにして掲げ、「えいえいおー」と控えめに叫んだ。
俺も小さめに、廊下の生徒に気づかれないように、「おー」と叫んだ。
もう疲れなんてすべて吹っ飛んだ。眠気なんてすべて吹っ飛んだ。とはさすがに言えないけれど。それでも、コンディションは最高だった。
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