第35話 彼女のいない昼休み。
昼休み。
さて、結愛はいないけどいつも通り屋上で時間をつぶしながら底辺飯と行こうか。そう思って席を立とうとすると、思わぬ人物から声をかけられた。
「今日は一人なのかい? 桜井」
「あ?」
いつのまにやら目の前に立っていたのは先日ダブルデートを共にした相手。ボーリング勝負で悲しくも惨敗を喫した因縁の相手。
リア充グループのイケメン、
しかし当の長谷川は気にした様子もなく続ける。
「
「………今日は休みなんだよ」
うるせえな一人で悪いかよ。本来飯を食べるのに誰かと一緒である必要なんかねえんだよ。いやそれが彼女なら別ですけどね? イケメンは消えろ。
「休み? 風邪かな? それは心配だね………」
「いやおまえが心配するようなことはねえから」
「そうかい? それならまあ、彼氏の君にお任せするとしようか。美咲ちゃんにお大事にと伝えてくれるかい?」
「まあ、それくらいなら………」
なに? なんで風邪引いてる結愛に俺が伝言できると思ってんの?
いやまあそういうことなんですけどね!
俺の返答に気を良くしたのか、爽やかな笑みを浮かべている長谷川。
やっぱり気に入らないやつだ………。
「それで、ひとりなら今日は僕と一緒にお昼を食べないかい?」
「は? 普通に嫌なんだけど………」
「正直だね………」
「それだけが取り柄なんだよ」
「まあまあ、そう言わずに。少し話でもしながら、さ」
そう言うと長谷川は勝手に手近な椅子に座ると俺の机にお弁当を広げた。
なんでこのイケメンは俺にちょっかい出してくるんですかね………。ふと周りを見ると、少し離れた場所から初音がチラチラとこちらの様子をうかがっていた。
初音の差し金か? いや、そういうわけでもない気がする。
「ほら、君も食べよう。あ、美咲ちゃんが休みということは今日は学食だったかい? それなら一緒に――――」
「いや、あるから気にすんな」
俺はどんっと風呂敷に包まれたそれを取り出す。
「それは? もしかして君の手作り?」
「そんなわけあるか。俺が料理上手に見えるか?」
「いや、悪いけどそうは見えないね………」
そこはもう少しお世辞を使いませんかねイケメンさん。まあいいけど。
俺はドヤ顔を作って長谷川の問いに答える。
「これは結愛の妹の
「へえ………。妹さんがいたんだね。ご家族とも仲良くしているなんてすごいじゃないか」
「ふっ………まあな」
今日が初対面だけどな!
実は家を出る前に、笑顔の愛奈ちゃんからお弁当を受け取っていたのだ。
俺はドヤ顔を保ちつつ、包みを開ける。するとそこには、げんこつ大のおにぎりが二つ入っていた。ほかのおかずなんかは一切ない。
「なかなかワイルドなお弁当だね………」
「い、いやまあ愛奈ちゃんはまだ中学生だし? こんなもんだろ」
結愛だってこの2ヶ月で随分と上達してきたものの、最初は決して上手いわけではなかった。姉が今まで出来ていなかったのだから、妹が出来ていなくって仕方がない。
俺はおにぎりの一つを手に取る。すると手にズシッと重さが伝わった。
ふむ………この重さ。力を込めてガッシガッシと握ってくれた感じがして非常に微笑ましいではないか。
美少女から渡されるお弁当というのは、その拙さまでもがスパイスのひとつである。最初のころの結愛のお弁当を思い出すなあ………。
少ししみじみと思いつつも、俺はおにぎりにかぶりついた。
「………うまい」
いや、まだ塩がほどよく効いた白飯部分だけだけど。あのかわいらしい愛奈ちゃんが握ってくれたというだけでこの美味さはどんな高級料理にも勝るだろう。
「それはよかったね。あ、僕にも一口もらえるかい?」
「あ?」
いい加減にしろよこのイケメン。米粒ひとつでもくれてやるものか。
「はは。冗談だよ。だからそんなに睨まないでくれ」
「ふん。それならいいんだ」
「妹さんにお礼を言わないとだね」
「おまえに言われなくてもちゃんと言うわ」
「そうだね」
なんだか妙にニコニコしている長谷川。
妙に温かい視線を少し離れた位置から向けてくる初音もなんだか少しだけ癇に障る。
しかし愛奈ちゃんのおにぎりのおかげで俺は概ねご機嫌な昼休みを過ごしたのだった。
まあ、たまにはこういうのも悪くない。
でも、はやく結愛に会いたい。授業はさっさと終われ。
~~~~~~~
久しぶりの更新なのに男しか喋らなくてごめんなさい………。
次回からは美咲姉妹無双のはずです。
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