第4話 交際1日目・昼休み①

 俺・桜井直哉さくらいなおやは学園において、陰キャボッチ街道をひた走るクール(自称)な男である。


 ついたあだ名はキングオブボッチ。教室に循環する空気にすらなれない男。


 いや俺が勝手に決めただけなんだけど。


 俺のことを話題にするやつなんていないからね!


 

 ところで、ボッチは寂しいと、惨めだと、一般ピーポーは思うだろう。


 しかしまあ、慣れてしまえば案外気楽なものである。


 独りだって読者したりポエム書いたり精神統一したり、やることはいくらでもある。


 学生の本分である勉強にだって集中できる。


 学園生活だって、先生と話した楽しい思い出でいっぱいだ。


 あれ? いいこと尽くめじゃないか?


 みんなもボッチになろう!


 とまあ、そんな感じで俺の人間関係なんていうものは家族や親戚を除いたらバイト先くらいにしかなかったわけなのだが。


 俺はつい昨日、バイト先の先輩であり学園の後輩である少女・美咲結愛みさきゆあに告白された。


 俺と美咲は去年、ほとんど同じ時期にバイトを始めた。


 ほんの一週間程度だっただろうか。先にバイトを始めていた美咲が一応は先輩だったわけである。


 バイトを始めてからは、美咲とそれなりに交流を重ねたんだろうか?


 人間関係なんてどうでもいいと思っていた俺には、よく分からない。


 だけど美咲の告白には、想いがこもっていると思ったから。あの鼓動に嘘はないと思ったから。


 俺は学園一の美少女である美咲結愛と付き合うことにした。


 正直に言えば、まだまだ思うことはある。


 なぜ美咲のような可愛い女の子が、俺のことなんかを好きになったのか、とか。


 俺なんかではやっぱり釣り合わないだろう、とか。


 そもそも俺は美咲のことが好きなのだろうか、とか。



 女性を見て、エロいとか可愛いとか綺麗だとかはもちろん思う。


 美咲だって、可愛いと思う。おっぱいにはもちろん興奮した。キスだって未遂とはいえしてしまいそうになった。

 それに彼女はきっと俺の前でだけ、あんな表情を見せてくれている。


 だけど、それで俺が抱いた気持ちは『恋』なのだろうか。


 あの感情は愛情と呼べるのだろうか。


 そんな、陰キャ特有の捻くれた思考を展開してみる。


 まあ、たいして地頭の良くない俺に答えなんてすぐに導けるはずもない。


 とりあえずわかること。それは俺に必要なのは、美咲と過ごす時間だということだ。


 今はただ、あの可愛くて、小悪魔で、愛おしいとまで感じてしまった彼女と時間を積み重ねていきたい。


 そうすればきっと、答えなんて自然と見つかるはずだ。




 気づくと、昼休み前の授業が終わりを告げていた。


 美咲にしっかり勉強しろとか言っておいて、まったく集中できていなかったな……。


 これでいいのか、受験生。



 そしてさらに、昼休みを迎えた教室の騒めきが一際大きくなったことに気づく。


 クラスメイトが注目しているのは、教室前方の出入り口。


 あまり興味もなかったが、俺もそちらを見てみる。

 

 するとそこには、現在進行中で俺の脳内を浸食している少女。



「桜井せんぱーい。お昼、一緒に食べましょ♪」


 

 いかにも「来ちゃった♡」といった感じで、今朝の宣言通りに行動する彼女がそこにはいた。


 お昼休みを楽しみにってそういうことだったのかよ……。


 それから美咲の言葉を皮切りに、クラスメイトの注目が俺に集まる。


 その視線から感じるのは驚愕や嫉妬、憤怒などなど。あまり受け入れたくない類の感情ばかり。


 そうですよ〜、朝から美咲結愛と一緒に登校してたのも、今呼ばれたのも俺ですよ〜。


 ……主に男どもが怖すぎてハゲそう。


 美咲と恋人になった以上遅かれ早かれだとは思っていたが、俺の平和なボッチライフは終わりを告げたらしい。


 


 

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