第2話 交際1日目・朝。
ピンポーン。
一軒家にインターホンの音が響き渡る。
誰か出るだろ、と思ったがすでに両親は家を後にしているらしい。
俺・
まったく、朝っぱらから誰が何の用だというのか。
微睡む頭を少しだけ苛つかせながらも俺は玄関の扉を開いた。
すると、そこにいたのは————
「おはようございます、せんぱい♡」
俺の先輩、もとい後輩で、学園一の美少女で、俺の恋人になった少女。
苛立ちは一瞬で吹き飛んだ。
「お、おはよう……って。え? なに? なんでいんの?」
「なんでって、彼女だからですよ?」
動揺する俺に、きょとんとしながらも笑顔で答える美咲。
なんだかその表情にドキッとした。
あれ、なんだろ。こいつってこんなに可愛かったっけ。いや可愛いのは知っているけど。ここまでだったか?
肩ほどまでに揃えられた、さらりと流れる綺麗な黒髪。くりんと大きな黒茶色の瞳。長いまつ毛。
今日は学園の制服であるブレザーを着込んでいて、その上からでもほのかに伝わるスタイルの良さ。柔らかそうな胸の膨らみ。腰のくびれ。しなやかな足。
そして袖口から覗かせるカーディガンがまた、彼女の可愛らしさを強調している。
しかしそれでいてスカートの長さなんかには気を使っているようで、清楚な雰囲気も忘れていない。
やばい。めちゃくちゃ可愛い。
この子が恋人だと思うと、こんなに違うものなんだろうか。
ボーッと美咲を見つめてしまっていた俺に、美咲がまた不思議そうに首を傾げながら声をかけてくる。
「せんぱい? おーい。どうしたんですか〜?」
「…………可愛い(ボソッ)」
「……ふぇ? せ、せんぱい? 今、可愛いって……? せんぱいが、私に可愛いって……」
急に頬を真っ赤にして、両手で顔を覆う美咲。
あ、顔が見えなくなってしまった……。
てか俺、今なんて言った? 無意識に漏れてしまって思い出せない。
「せ、せんぱい? 恋人になったからっていきなりそんなことを言われるとですね、私もびっくりしちゃうというか、恥ずかしいというか……。い、いえ嬉しいんですよ? 嬉しいんですけど、まだ心の準備が出来ていないと言いますか……」
「お、おう……? そんなたいしたこと言ったか?」
そう言う俺に、美咲はまたボンッと顔を赤くして、「せんぱいにとってはふつうのことなんだ……」とか言いながら俯いてしまった。
俺、マジで何言ったんだ?
分からないが、とりあえず話を進めることにする。
「うちに来たってことは学園に一緒に行こうってことだよな?」
「え? あ、はい。そうですけど……」
「そか。わざわざありがとな。急いで準備するから、ちょっと待っててくれ」
「ご、ごゆっくりどうぞ〜」
俺が背を向けて玄関を後にすると、また美咲がボソボソと何か呟いていた気がするが、あまりよく聞き取れなかった。
告白の時と同じように、また緊張していたんだろうなと思う。
かくいう俺もかなり緊張というか、嬉しさというか、色んな感情が抑えられなくなりそうだった。
朝から恋人と一緒に登校とか。どんなラブコメだ。
まともな友人ひとりいなかったはずの俺に、どんなミラクルだというのか。
幸せすぎるんじゃなかろうか。
「よし、行くか」
「はい。エスコート、よろしくお願いしますね。桜井せんぱい♪」
「いやいつも通ってる道だろうが」
「そうですけど〜、気分ですよ。気分」
そんなこんなで、俺と美咲の交際一日目が始まった。
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