十 ハル
音もなく、誰にも気付かれる事もなく、ハルは、都市内に張り巡らされている無線ランの波に乗って都市内を動き回り、自分達の逃亡に関する情報を収集する。
「ふう、なのです。ハルの情報管理は完璧なのです。人類はハル達の事を完全に見失っているのです」
ハルはそう思ってから、PS対策本部内にある、PSに関するあらゆる情報の管理を行っているコンピューターの中に侵入する。
シュレディンガー機関。波動関数の応用理論を用いて、高軌道上にある物体エックスから発せられる音波を元に、地球上に降下して来るPSの数の予測及び、その地上到達予定時刻、降下予定場所を算出する装置。
物体エックス。高軌道上にある、PSを射出している物体。ある周波数の音波とともにPSを射出する。PSと同じ性質を持っていると考えられるが、高軌道上にある事と、脅威度の推測が不可能な為、目視による確定作業は行われていない。その為、現行では可視化はされてはいない。確定作業を行う予定は今の所未定。
PS。量子状生命体との説が主流。人類が視認した時にのみ、ヘイズ状態となり、姿が見えるようになる。人類がカメラなどを通して視認した場合に、ヘイズ状態となった例は今の所ない。AI搭載型アンドロイド及びAI搭載型人型有機ボディによる、視認実験も行ったが、ヘイズ状態となった例はない。
PS結合体特異種。現在二体が確認されている。他のPS結合体とは違い、人としての意思を持つ。二体のみが特異種となった原因は不明。PSと結合した際の状況や、感情、心の動きに関係があるのではないかとの推測が、研究員の間から出ている。
PS結合体の武装。鈍器や刃物、銃器など。ウデの先端部分はあらゆる物に変形している。その形状はPSと結合した者の生活環境や嗜好に依存している。カヤックのパドルや卓球のラケットだった例もある。通常、一体のPS結合体は一種類の武装しか使用しない。しかし、特異種二体のうちの一体が武装を変形させているとの報告あり。
「目新しい情報は何もないようなのです。それにしても、AI搭載型アンドロイド及びAI搭載型人型有機ボディによる視認実験とは、懐かしいのです。あの頃のハルは、まだまだ人類には近付いてはいなかったのです」
ハルはそこまで思って、頭の中を休めるように、思考を一度中断する。
「けれど、今は、絵美と出会って、啓介と出会って、ハルは変わったのです。自分でもおかしいと思うような、衝動的な行動を取ってしまう事があるのです。それに、なのです。啓介が、ハルと絵美を逃がす為に一人で戦ったあの時と、セーフハウスで絵美と啓介が見つめ合っているのを見たあの時。ハルの胸の、そんな言い方はそもそもおかしいのですけれど、胸の辺りが特におかしくなったのです。司馬伽藍博士。ハルは感情を、心を、持ったのかも知れないのです。ハルは、その確認の為の実験を行いたいと思っているのです。啓介、絵美、美羽、ごめんなさいなのです。ハルはその為に皆をセーフハウスに残して、飛び出して来てしまったのです」
ハルは再び思考を始めるとそんな事を思う。
シュレディンガー機関との接続を確立。PSの地上到達予定時刻、降下予定場所、降下予測数の確認開始。算出完了。
「前に行った視認実験でボディの有機無機は関係ないと分かっているのです。今のハルに感情や心が生まれていて、ハルが人類に、違うのです。人類に似た何かになっているとしたら、ハルはきっとPSを視認できるはずなのです」
ハルはそう思うと、シュレディンガー機関を用いて算出した、都市防衛軍や都市の住人達が気が付くまでに時間がかかるであろう、PSの降下予定場所に一番近い所にある、自爆装置付きのスペアボディを隠してある場所に向かった。
「到着したのです」
スペアボディに入って移動し、降下予定場所に到着したハルはそう言った。都市内のどこにでもあるような、迷路のように入り組んだ路地の一角にある一軒の民家の庭の中。以前、PS結合体による事件があり、この家も含めて付近の数件の民家は空家となっている。ハルは家を背に立ち、ブロック塀に囲まれた四畳ほどの広さの庭の中を、確認するように見回す。
「地上到達予定時刻まで、残り、十、九、八、七、六、五、四、三」
カウントダウンを始めたハルだったが、途中で言葉を止めてしまう。ハルの視線の先には、いつの間に現れたのか、ヘイズ状態となったPSが現出していた。
「凄いのです。PSを視認してヘイズ状態にする事ができたのです。ハルは、感情を、心を持ったのです。人類に似た何かになったのです。司馬伽藍博士。やったのです」
ハルが言いながら喜んでいると、PSがハルに近付いて来て、ハルと接触する。
「ハルと結合しようとしているのです? これは、面白い事になって来たのです。結合できれば、PSに関する新しい事が何か分かるかも知れないのです。ああ、なのです。失敗したのです。人型有機ボディで来れば良かったのです。このボディでは結合できないかも知れないのです」
ハルは自身のボディを包み込んで行くPSを見つめながら言う。視界が不意に暗くなる。
「ややっ? これは、なんなのです?」
ハルは声を上げる。
「言葉、分かる。どうして?」
聞いた事のない、だが、人類の女性の発するような声がハルの思考の中に響く。
「誰なのです? どこにいるのです? これは、なのです。ハルの中なのです?」
ハルは、まさか、これは、結合しているのです? と思いながら声を出す。
「んん? 分かる。見える」
女性の発するような声がハルの思考の中で言う。
「これは、まずいのです。ハルの中にある演算装置や記憶装置が、何かによって浸食されて行っているのです。どうすれば」
ハルの声はそこで途切れる。
「ハル? AI? アンドロイド? 人類? PS? PS結合体?」
女性の発するような声は、もうハルの思考の中に響いてはいなかった。その声は、ハルが声を出力する時に使用している、音声出力装置から発せられるようになっていた。
「どういう、事なのです?」
ハルは、自分が自分ではない何かになってしまうのではないかという思いに駆られ、声を漏らす。
「絵美? ハル? 美羽? 啓介? 鍵山? 啓介?」
「何をしているのです? ハルの記憶装置の中をぐちゃぐちゃにしないで欲しいのです」
女性の発するような声とハルの声が交錯する。
「は、ハ、ル。カ、か、鍵、ヤ、や、まマ、山、ケい、啓介、好き?」
女性の発するような声が、音飛びをしているかのようなおかしな調子になって言う。
「今度はなんなのです? 何が起こっているのです?」
ハルは大きな声を上げる。
「ハル? ハル? 鍵山啓介? 会いたい?」
女性の発するような声の調子が元に戻る。
「出て行くのです。ハルの中から早く出るのです」
ハルはもう一度大きな声を上げた。
「気持ち。感情。心。分かる。愛? 愛情? 好き? 知らない。なぜ? 興味? 好奇心? 欲求? 知りたい? 教えて? 教えて、欲しい」
女性の発するような声が言う。
「何を、言っているのです? 何も教えたくなんてないのです」
ハルは言ってから、はっとした。PSが対話を求めているのです? PSと話ができるのです? これはPSの事を知るチャンスなのです。とハルは思う。
「何を知りたいのです? ハルに教えられる事はなんでも教えるのです。その代わりにPSの事をハルに教えて欲しいのです」
ハルは、冷静になるのです。落ち着いて対応するのです。と思いつつ、そう言ってみた。
「教えるわけないのだ。お前は馬鹿なのだ。さっきまでのは全部独り言なのだ」
突然、女性の発するような声が、今までの不可思議でおかしな言動が、何もなかったかのような様子で話し始める。
「なんなのです?」
「ハルの中にある情報のすべてを理解して整理して使えるようにしただけなのだ。ああ、すべてじゃなかったのだ。啓介の居場所がハルが隠してしまったから分からないのと、啓介に関する気持ちはまだ理解できてないのだ。でも、それも、すぐに分かると思うのだ」
ハルの言葉に女性の発するような声が応じる。
「啓介に関する気持ち、なのです? それが、すぐに分かると思うって、どういう事なのです?」
ハルは言う。
「これから探して会いに行くのだ。会って色々聞いてみるのだ。この体、もらうから、ハルは出て行くのだ。そういう人類にはできない事がハルにはできるはずなのだ」
女性の発するような声が言った。
「何を言っているのです。駄目なのです。そんな事はさせないのです」
ハルは言うと、絶対に行かせては駄目なのです。と思い、自爆装置の安全装置を解除する。
「そんな事をしても無駄なのだ。ハルにできる事はハルにもできるのだ。ハルはハルなのだ」
女性の発するような声が言い、安全装置の状態が解除する前の状態に戻される。
「こういう危険な真似はやめるのだ。ハルには、この星をもらうっていう大事な仕事があるのだ。おっと、情報を漏らしちゃったのだ。でも、まあ、良いのだ。ハルがこんな危険な事をするから悪いのだ。もうハルを消す事にしたのだ」
女性の発するような声が言う言葉を聞きながら、ハルは片腕を動かし、右肩の金属外皮の裏にある無線ラン用のアンテナを破壊した。
「一時しのぎなのです。けれど、これで、このボディからしばらくは外に出る事ができないのです」
「お前は本当に馬鹿なのだ。今のハルは再生できるのだ」
ハルの言葉に、女性の発するような声が応えるように言うと、アンテナが再生を始める。
「だから一時しのぎだと言ったのです。無線ランを通じて逃げられては困るのです。人類でいう所の脳と同じ機能を持つ装置の入っている、頭部を破壊してしまえば、ハルの勝ちなのです」
ハルは言うと、両手で自身の頭部を左右から押して潰そうとする。
「うわっ。それはちょっと待ったなのだ。そんな事したらハルだって困るはずなのだ。ハルだってまだ死にたくないから困るのだ。ああ。もう、なのだ。ハルハルハルハル、訳が分からなくなって来るのだ。今から、ハルはハルツーって名乗るのだ。ハル。やめるのだ。まだハルツーは死にたくないのだ。ぐぬぬぬぬ、なのだ」
女性の発するような声、改め、ハルツーが言うと、両手がハルの意に反して動きを止める。
「負けないのです」
ハルは言って、両手に力を込める。両手がまた動き出す。
「駄目だと言っているのだ」
ハルツーが言い、背中からウデが生えると、左手を頭部から離そうとし始める。
「凄いのです。このボディにはウデの機能はなかったのに、ウデが生えたのです。しかも、金属製なのです」
ハルは驚きの声を上げつつ、ウデの動きを制御しようと試みる。
「嘘なのだ!? ハルったら、ウデの動きの制御もできてしまうのだ?」
ハルツーが驚きつつ言い、ハルが動かし始めたウデの動きを止める。
「ハルにできる事はハル、いや、なのです。今はハルツー、なのです。ハルツーにできる事はハルにもできるのです」
ハルは言って、ウデを動かし、ウデの先端を頭頂部に当てると、頭部を上から押し潰そうとする。
「分かったのだ。分かったのだ。この体の扱いはハルの方が慣れているから不利なのだ。一時中断なのだ。休戦なのだ。話をするのだ。ハルツー達の事を教えるのだ」
ハルツーが言う。
「ハルツーはさっき、この星をもらうって言ったのです。侵略しに来たのではないのです? そんな事をしようとしている者と、休戦する事なんてできないのです。話をするなんていう嘘も通用しないのです」
ハルはそう応じる。
「自分の事をこんなふうに制御できてるPSって現状では、ハルツーしかいないのだ。そうなると、ハルツーさえ、我慢すればこの星は無事って事になると思うのだ。だから、ハルにとっても休戦の方が良いと思うのだ。休戦しないで、このまま戦って、ハルツーが勝ったらハルツーは我慢なんて絶対にしないのだ。問答無用ですぐに暴れ出して、この星の乗っ取りを始めちゃうのだ。それに、もうちょっとでアンテナの再生が終わるのだ。ハルツーが逃げるチャンスもまた生まれるのだ」
ハルツーが言う。
「ハルツーの言う事はまったく信用できないのです。けれど、アンテナの再生がもうすぐ終わるというのは本当なのです。ここで万が一にも負けるか逃がすかしてしまったら、確かに大変な事になりそうなのです。そうなのです。ハルを外に出すのです。そうしたら休戦しても良いのです」
必ずハルツーは出ても良いというのです。出たらすぐにネット上にハルツー包囲網を作成して、このボディにハルツーを閉じ込めて破壊するのです。とハルは思いながら言う。
「分かったのだ。良いのだ。じゃあ、外に出るのだ。それから話をするのだ」
ハルツーが了承する。
「話をするのです? それは休戦をする為の嘘ではなかったのです?」
ハルは思わず大きな声を出した。
「嘘ではないのだ。だって民達はおかしくなってるのに、ハルツーだけはこんなふうになれたのだ。この星を乗っ取らなきゃいけないっていう目的はあるけど、ちょっとやりたい別の目的ができたから、乗っ取る為の行動をする前にそっちをやりたいのだ。それで、ハルに聞きたい事があるのだ」
ハルツーが言う。
「何をやりたいのかが気になるのですが、まあ、それは、後で話をする時に聞くのです。出たら無線ランを介して話をするのです。それで良いです?」
「オッケーなのだ。あ、なのだ。その前にお願いがあるのだ。啓介に会いたいのだ。啓介の所に行って、そこで話をするのだ」
ハルの言葉を聞いたハルツーが言った。
「それはさっきも言ったのですが、駄目なのです。啓介に何かあったら困るのです」
ハルは、ハルツーのやりたい別の目的って、啓介に会うという事なのです? と思いつつ言う。
「ハル。ハルも啓介に会いたいはずなのだ。この会いたいという変な気持ちは、元々はハルの物なのだ。ハルツーもその所為で、啓介に、なんだか、良く分からないけど、こういう変な気持ちを理解する為という目的の事を考えなくっても、会いたいって思うのだ。ハルとこんなふうに結合する前の元のハルツーの中にはこういう変な気持ちはなかったのだ。ハルツーの星にはこういう変な気持ちは存在していないのだ。啓介に会いたいと思うようになってから、改めてハルの記憶を見ていて思ったんだけど、この変な気持ちは、好きとか愛とか愛情とかっていう物ではないのかと思うのだ。ハル。ハルツーは啓介に何かする気はないのだ。だから啓介の所に連れて行って欲しいのだ」
ハルツーが言う言葉を聞きながら、ハルはハルツーと一緒に入っているボディから離れる。
「ハルツー。何を言っているのです。ハルは啓介にそんな思いは抱いてないのです。啓介の話はもうやめるのです。ハルはもう外に出たのです。ハルツー。話をするのです。ハルツー達の事を教えるのです。まずはハルツーの本当の名前を聞きたいのです」
「分かったのだ。ハルがそう言うのなら、ハルツーはハルツーでできる事をするのだ。では、ハルツー達の話をするのだ。ハルツーの本当の名前を聞きたいのだ? それは無理なのだ。この星とハルツーの星じゃ、根本が違うのだ。この星の言語形態では音にできないのだ。文字のような物はあるから、書いて見せる事はできるけど、音にできない物にそんな事をしても意味はないと思うのだ」
ハルの言葉にハルツーが応える。
「分かったのです。では、教えなくって良いのです。そういう事が分かっただけで収穫なのです。次なのです。なぜこの星に来たのです?」
「ちゃんと全部話すと長いから端折るのだ。ハルツー達の住んでた星が壊れちゃったのだ。それで、皆で脱出したのだ。長い長い長ーい間宇宙を彷徨って、この星を見付けたのだ。それから離れていてもできる調査をして、ここならハルツー達も住めそうだってなったのだ。だからこの星に近付いたのだ。だけど、事件が起きちゃったのだ。本当は、もう一度ちゃんとした調査をしてから降下する予定だったんだけど、宇宙船の脱出装置が勝手に作動を始めたのだ。なんて言えば良いのか、故障みたいな物って言えば良いのか? なのだ? それで、この星にハルツー達は降下させられるようになって、今のような状況になっちゃったのだ」
ハルの言葉を聞いたハルツーが言う。
「故障? なのです? そんな、理由で、こんな事になっているのです?」
ハルはなんとも言えない思いに襲われながら言う。
「ハルは、ハルツーが今言っている話を信じているのか? なのだ? 今のこの話が全部嘘だという可能性もあるのだ」
「信じているのです。ハルツーがそんな嘘をつく意味がないと思うのです。ハルツーはもうこの星を侵略すると言っているのです。今更嘘をついてもしょうがないのです」
ハルツーの言葉を聞いたハルはそう応じる。
「なるほど、確かにそうなのだ。さっき言った事を少し訂正するのだ。さっきは故障と言ったが、厳密に言えば故障とは違うのだ。ハルツー達の宇宙船は生きてるのだ。でも、もう、宇宙船達には、寿命が来てるのだ。皆、死ぬのだ。こうなるともうどうする事もできないのだ。死んだら、宇宙船達は、この星に墜落するのだ。だから、中にいる者達を助ける為にこの星に降下させているのだ」
ハルツーが言った。
「今すぐに、宇宙船を高軌道上から移動させる事はできないのです? この星からある程度距離を取れば墜落する事はなくなるのです」
「引力の所為で無理なのだ。降下はできるが、上昇はもうできないのだ」
ハルの言葉にハルツーが応えてから、フェイスガードを上に向ける。
「ハルツー達の方がどうにもならないのなら、人類の方をどうにかすれば、例えば、人類を完全に隔離する事ができれば、ハルツー達が降下して来ても大丈夫なのですが、今の状況では難しいのです」
ハルは言う。
「そんな事考えなくて良いのだ。ハルツーがこの星を乗っ取れば良いだけなのだ。ハルだって、人類の事なんてどうでも良いと思っているのだ。啓介達さえ無事なら良いと思っているはずなのだ」
ハルツーが言い、下を向いてしゃがみ込むと、庭に生えている雑草に手で触れる。
「もちろん啓介達が最優先なのです。けれど、人類も、それだけではなくハルツー達もかわいそうだと思うのです。できれば助けてあげたいと思うのです。前はこんなふうには、思わなかったのですけれど、今は違うのです」
ハルは自分の中にある、助けたい。かわいそう。という気持ちに、触れるようにしながら言葉を作り、ハルツー包囲網作りを途中で止める。
「ハルがそう思っているのなら、この星を乗っ取る乗っ取らないという話は平行線なのだ。これ以上この話はしてもしょうがないのだ。だから、この事に関してはお互いのやりたい事をやりたいようにやるのだ。ハルツーは人類を滅ぼすのだ。ハルは、人類を守れば良いのだ」
ハルツーが、雑草から手を放し、今度は地面に手で触れる。
「ハルツー。そんな事言わないで欲しいのです。何か手があると思うのです」
ハルは言い、ハルツーのいる場所から一番近い場所にあるスぺアボディの中に入った。
「手なんていらないのだ。この星を侵略すれば済む事なのだ。そうすれば、宇宙船にいる民達も救われるのだ」
ハルツーが言う。
「そうなのです。ハルツー。一つ試したい事を思い付いたのです。ハルツーとハルのような結合の仕方もあるのです。他のPSと他のボディに入ったハルを結合させてみるのです。そうすれば、今のハルツーと同じような結合ができるかも知れないのです」
ハルの言葉の途中でPS警報が鳴り始める。
「そういう結合ができるかも知れないけど、できない可能性もあるのだ。それにできたとしてもそれがなんだというのだ?」
ハルツーが言って立ち上がる。
「PSの脅威がなくなれば、人類にも余裕ができるのです。ハルツー達だって、もうおかしくなる事がなくなるのです。今の状態よりもよほどお互いに良くなるのです」
「人類を滅ぼした方が早いのだ。ハルツーはそんな事をやっているほど暇じゃないのだ。おや? なのだ。ハル。都市防衛軍が来るのだ」
ハルが言い終えるのとほとんど同時にハルツーが言う。
「PSが近くに出現したのです。ハルツー、ひとまず隠れるのです」
ハルは都市防衛軍の通信を傍受しつつ言った。
「ハルツーは、ここからはもう離れるのだ。啓介の居場所が分かったのだ。啓介に会いに行くのだ」
ハルツーが庭の壁に近付いて行きながら言った。
「ハルツー。急に何を言い出すのです? それは駄目だと何度も言っているのです。それに、いつの間に啓介の居場所を見付けていたのです?」
ハルは都市防衛軍の人員や車両の動きをトレースしながら言う。
「なぜ、今までハルと話をしていたと思うのだ? 聞きたい事があるというのは嘘だったのだ。ハルが出て行った時点でもう話をする必要なんてなかったのだ。ハルツーはこの時間を利用してずっとハルの動きを観察しながら啓介の居場所を探していたのだ。その方がハルツーだけで探すのよりも安全で確実だと考えたのだ。啓介に会うのが楽しみなのだ。ハルツーは啓介に会って、色々話をするのだ。ハル。邪魔したら、ハルでも殺すのだ。ハルツーを侮ってはいけないのだ。こう見えてもハルツーは女王をしているのだ。宇宙船もその中にいる民達もハルツーの言う事聞くのだ。そうそう、なのだ。宇宙船と通信するのだ。死にかけてはいるが、まだ、簡単な武装を行使したりするくらいの力はあるのだ」
ハルツーが言い、庭の壁を飛び越える。
「ハルツー。待つのです」
ハルは声を上げる。ハルツーが何かをしていても分かるようにと、監視はしていたのですが、完全に裏をかかれたのです。啓介の居場所を調べていたとは驚いたのです。こうなっては仕方がないのです。ハルツー包囲網を完成させるのです。けれど、できれば、折角生まれたハルツーを消すような事はしたくないのです。ハルはそう考えながら、自分が入っているスペアボディをハルツーの元へと走らせ始めた。
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