八 人類と人としてのすべてを持ったPS結合体

「絵美。何をしようとしているのか分かっているのか? 今なら、まだ、お前だけは助けてやる。武器を捨てて投降しろ」

 拡声器から発せられた声を聞いた絵美は、この声は士魂の声。と思った。

「どうして啓介の妹さんをシュレディンガーの猫の中に入れた」

 絵美は車体前面の右端に白字で士魂と書かれている、一台の装甲車に目を向けながら言う。

「ハルの言っていた通りだ。だが、それももう意味はない。この程度の事でこれほど取り乱すとは話にならない。鍵山啓介は危険分子として処分する。それと。ハルもだ。ハルは人類に対する反逆を企てているからな」

 士魂が絵美の言葉に応える。

「勝手な事を言う。これだけの事をされれば、誰だって取り乱す。ハルは、そんな啓介の為に行動しようとしているだけ。あなたはどう? 家族や仲間にこんな事をされて黙っている?」

 絵美は言った。

「俺と、お前らのような輩を一緒にするな。お前らPS結合体は散々人類を殺して来ているんだ。これくらいの事で何を言っている。我々はお前達を制御しなければならない。その為に必要な事はなんでもやる」

 士魂が言う。

「俺はさっき、学校でPS結合体を一人殺した。制御なんてされなくたって、ちゃんと人類の為に戦ってる」

 啓介が絵美の傍に来て言った。

「啓介。来てはいけない。妹さんの所に戻って」

 絵美は、啓介の横顔を見つめて言う。

「絵美こそ戻ってくれ」

 啓介が絵美の方に顔を向けて言う。 

「人類の為に戦っている? まだまだだ。この地上にいるすべてのPS結合体を殺すくらいはしてくれないとな。まさか、知らないなどという事はないだろうが、ドーム都市の外にはドーム都市に避難する前にPS結合体となった者達が大勢いる。そいつら全部を殺してからそういう事を言え」

 士魂が言った。

「そんな事できるはずないだろ」

「できるはずない、か。今まで絵美は一度も命令を拒否した事はない。黙って我々の出すすべての命令に従って来ていた。お前のそういう認識の甘さが今の事態を生んだのだ。お前の妹はああなって当然だったんだ」

 啓介の言葉を聞いた士魂が言う。

「美羽は関係ない。美羽に手を出すな」

 啓介が、大きな声を出す。

「お前の家族だぞ。関係ないなんて事があるか。ここにいる兵士達はな。皆、家族をPS結合体に奪われた者達だ。こいつらにお前の妹が無関係かどうか聞いてみるか?」

「俺だって、父さんをPS結合体に殺されてる。美羽だって、母さんが、母さんがPS結合体になってしまったからあんな体になったんだ。俺達は何も悪くない。なのにどうしてこんなに酷い事をするんだ」

 士魂の言葉を聞いた啓介が、叫ぶようにして言う。

「お前がPS結合体になったからだ。恨むならお前をそうしたPSを恨め」

 士魂が言った。

「なんだよそれ? そんなのおかしいだろ」

 啓介が怒りに顔を歪めながら言う。

「啓介。何を言っても無駄。すぐに妹さんの傍に戻って欲しい」 

「絵美。こんな事になってるのは俺の所為だ。俺は戻らない。絵美こそ、装甲車の中に戻ってくれ」

 絵美の言葉を聞いた啓介が言う。装甲車の横に一列横隊で並んで立っていたキ三号型原動機付甲冑を身に纏った者達が、装甲車の前に走り出て来て、そこまでまた一列横隊を作り、携えていた銃器を一斉に構える。

「啓介。啓介の所為ではない。後はこれがなんとかする。妹さんの傍に戻って」

 絵美は言い、片手に提げていた刀を両手で持ち直し、正眼の構えを取ると、刀の切っ先を士魂の乗る装甲車の方に向ける。

「絵美。やめておけ。お前に勝ち目はない」

 士魂が言う。

「絵美。待ってくれ。戦わないでくれ。防衛軍の人。どうすれば良い? どうすればハルと絵美を助けてくれる? 俺と、俺と美羽が、俺達二人が、死ねば良いのか? そうすれば、二人を助けてくれるか?」

 啓介が言った。

「PS結合体とは交渉はしない。命令するだけだ。絵美。最後通告だ。武器を捨てて投降しろ」

 士魂が言う。

「これは投降などしない」

 絵美は言って、背中から十数本のウデを生やす。

「そうか。絵美。残念だ」

 士魂が言う。

「絵美。やめてくれ。戦うな。人類と戦ったら、人を殺してる他のPS結合体と同じになる」

 啓介が言った。

「同じにはならない。これはこれの為の剣。これは、これが正しいと思った事をやっている。啓介。妹さんの傍に戻って欲しい。後から必ずこれも行く」

 絵美は啓介の方を見て言ってから、顔の向きをゆっくりと戻し、士魂の乗る装甲車を見る。

「絵美、駄目だ。ハルの所に」

「目標はPS結合体特異種二体。一斉射始め」

 啓介の言葉を遮るようにして士魂が言う。

「啓介。ウデを出して体を守って」

 絵美は構えを解きながら言いつつ、啓介の傍に行き、啓介の体をウデで覆う。様々な銃器が撃ち出した、様々な口径の銃弾が、絵美達を襲う。啓介のウデの展開が遅れたが、絵美のウデが啓介の体を守り、銃弾が啓介の体に到達するのを防ぐ。

「絵美。撃たれてる」

 啓介が声を上げる。

「大丈夫。啓介。装甲車の中に戻って欲しい。このままではいずれやられてしまう。そうなる前に撃って来ている者達を斬る」 

 絵美は周囲を見回し、キ三号型の人数を頭の中で数えながら言う。

「嫌だ。戻らない。俺が、俺が、戦う。絵美に戦わせるのも、これ以上、俺の所為で誰かが傷付けられるのも我慢できない」

 啓介が声を上げ、啓介の背中から生えていたウデ達の先端部分が、アンチマテリアルライフルに変形し始める。ウデの変形が終わると、突然、啓介が絵美のウデの中から外に飛び出した。

「啓介。いけない。それでは撃たれる。もっとしっかり体をウデで守って」

 絵美は、銃弾の雨の中を啓介の傍に向かいながら言う。啓介の体を守っている啓介のウデの隙間から、啓介の体に銃弾が撃ち込まれ、啓介が悲鳴と血飛沫を上げながら、地面の上に倒れる。

「啓介」

 絵美は啓介の傍に片膝を立ててしゃがむと、啓介の体をウデで覆いながら言った。

「痛い。痛い。痛い。痛いよ。絵美。撃たれるって、こんなに痛いのかよ。殺してくれ。殺してくれよ。痛くて、痛くて、気が狂いそうだ」

 啓介が荒い呼吸の中で言葉を漏らす。

「大丈夫。頭部は撃たれてない。体は再生する。痛みは、最初は特に辛い。だが、ある程度の痛みには慣れる事ができる。これは、最初に撃たれた時は気を失った。啓介は、気を失っていない。これよりも強い」 

 絵美は言い、自分の体を撃ち抜いている銃弾の痛みに耐えながら、啓介の上半身を抱き上げた。

「痛い。痛い。再生するって言われても、この痛みは酷い。なんでこんなに痛いんだ」

 啓介が言っている途中で、啓介の頬に絵美の体から流れ出た血の雫が数滴落ちる。

「血? 絵美? また、撃たれてる。ごめん。俺の所為だ。ごめん。絵美。ごめん。俺、俺、自分ばっかり痛がって。何やってんだ。俺が戦うって言ったのに、全然駄目だ」

 啓介が言い、体を震わせながら、自身の力で上半身を支えようとする。

「大丈夫。啓介は駄目ではない。焦らなくて良い。体が再生し、動けるようになったら、妹さんの所に戻って欲しい」

 絵美は言いながら、自身に命中した銃弾によって新たに作られた、傷口から溢れ出る血を手で拭う。

「絵美。まただ。また、撃たれてる」

「大丈夫。心配ない」

 啓介の言葉を聞いた絵美は啓介の顔を見つめながら言った。

「絵美。なんでだよ。こんなに痛いのに。どうして、そんなにまでして」

 そう言った啓介の目から涙が溢れ出る。

「啓介。これは平気」

「守ってもらってばかりで。絵美が傷付いているのに、何もできないで。口ばっかりで。やってやる。あいつら、皆殺してやる。許さない。俺は、仲間を傷付ける奴らを、絶対に許さない」

 啓介が涙を拭いながら言い、立ち上がる。

「啓介。駄目。また撃たれる」

 絵美は立ち上がり、啓介の体を守る為にウデで動かしながら言う。

「絵美がこうやって、俺の代わりに撃たれてるより、そっちの方がずっと良い」

 啓介が声を上げると、啓介のウデ達が形作っているアンチマテリアルライフルが一斉に射撃を始める。

「これは? これほどの力を持っているのか?」

 士魂が言った。

「啓介。凄い」

 絵美は言葉を漏らす。啓介のウデから発射された銃弾は、立っていたすべてのキ三号型を薙ぎ倒していた。

「絵美。やった。俺、あいつらを倒した」 

 啓介が言った瞬間、啓介の額が朱色に染まる。

「啓介」

 絵美は言いながら、啓介の体に飛び付き、啓介の体をウデで覆う。

「啓介。じっとしていて欲しい。傷口を見る」

 絵美は、地面の上に啓介を寝かせると、啓介の傷口を見つめながら言う。

「俺、死ぬのかな? 絵美。ごめん。俺が駄目だったら、美羽の事、頼む」

 啓介が絵美の顔を見つめながら言う。

「啓介。良かった。大丈夫。弾はかすっただけ。これなら問題ない。だが、この状況はまずい。どこから狙われているか分からない。ハルと話ができれば、狙っている相手の位置をハルに調べてもらう事ができるが、声を上げてハルを呼んで、ハルが装甲車の扉を開けたら、ハルが撃たれてしまうかも知れない。装甲車の傍まで行ければ、いや、それも、今度は、装甲車の傍に行くまでの十数メートルの間に、こっちがまた撃たれてしまうかも知れない」

 絵美は言葉の途中から周囲を見回しながら言った。絵美の言葉を聞いていた啓介が、急に何かを思い出したような顔をすると、片方の耳に手を当てる。

「そうだ。これは?」

 啓介が言い、片方の耳からインカムを取り出して、絵美の顔の前に差し出した。

「どうして、これを?」

「ハルに渡されてたんだ。さっきから、ずっと、ハルが何か言ってるんだけど、この状況だから、ずっとちゃんと聞かずに無視してた」

 絵美の言葉を聞いた啓介が言う。

「啓介。啓介。聞こえているのです? 返事をするのです。大丈夫なのです? ドーム都市内にある監視カメラと装甲車の外部監視用カメラの映像で二人が撃たれているのが見えていたのです。お願いなのです。何か言うのです」

 絵美が右耳にインカムを入れると、すぐにハルの声が聞こえて来る。

「ハル。ちゃんと聞こえている」

 絵美はハルの乗る装甲車の方に顔を向けて言った。

「絵美? どうしたのです? 大丈夫なのです? なぜ啓介は返事をしないのです? 映像で二人が撃たれているのが見えていたのです。絵美も、啓介も無事なのです?」

「これの方はまったく問題はない。だが、啓介が頭部を撃たれた。弾は額をかすっただけで、啓介の意識もはっきりとしているから大丈夫だが、その弾を撃った相手のいる場所が分からない。このままではまた頭部を撃たれるかも知れない。ハル。済まないが、撃った相手のいる場所を調べて教えて欲しい」 

 ハルの言葉を聞いた絵美はすぐに言葉を返す。

「頭を撃たれたのです? 額をかすったのです? 念の為なのです。すぐに戻って来て欲しいのです。ああ。でも、絵美の言う通りなのです。狙っている相手を倒さないと動くのは危険なのです。とにかく、二人とも無事で良かったのです。任せるのです。居場所は今から探すのです。ドーム都市内にある監視カメラを駆使すれば分かると思うのです。ハルが脱出路を開いて欲しいなんて言ったからこんな事になっているのです。絵美。ごめんなさいなのです。こうなったらハルはハルのスペアボディを起動するつもりなのです。今都市内には十体のハルのスペアボディが隠してあるのです。それらをすべて起動して戦闘に参加させるのです」

 ハルが言う。

「ハル。スペアボディの起動は待って欲しい。こちらの数が増えたら、人類側がどう出るか分からない。戦闘が拡大すれば、都市に住む者達に被害が及ぶかも知れない」

「けれど、二人を放ってはおけないのです。スペアボディが出せないのならハルが行くのです。自動運転できる車両などをハッキングして戦うのです」

 絵美の言葉を聞いたハルの声が大きくなる。

「ハル。ハルが今壊されてしまったら、これと啓介は逃げる事ができなくなる。啓介の妹さんだってどうする事もできなくなってしまう。それに、さっきも言ったが戦闘を拡大させるような事はしない方が良い」 

 絵美がハルに向かって言っていると、啓介が体を起こす。

「絵美。撃って来た奴の居場所が分かったらすぐに教えてくれ。俺が狙撃する」

 啓介が言う。

「啓介。ありがとう。その時になったらお願いする。今は、体を動かさない方が良い。体の再生が遅くなる」 

 絵美は啓介の額の傷口に目を向けながら言った。

「怪我は絵美だってしてる。俺と一緒だ。俺ならもう大丈夫。それと、絵美。気が付かなくてごめん。ウデに隙間を作ってくれ。居場所の分からない相手から攻撃されるかも知れないんだ。俺のウデをそこから出して、君の体を守る」

 啓介が周囲に目を向けながら言う。

「ありがとう。啓介。さっきも言ったが、これはこういう事には慣れている。啓介は、まだ慣れてはいない。今は何もしないでじっとしていて欲しい」

 絵美も周囲に目を向けながら言った。

「絵美」

 啓介がそう言いながら、絵美の方に顔を向け、分かった。と言う。

「皆、動けるようになったか」

 士魂の声が聞こえて来る。

「死んでなかったのか? 俺の撃った奴らが動き出してる」

 啓介が、緩慢な動きで、起き上がったり、立ち上がったりしている、自分が撃ったキ三号型達を見ながら言う。

「啓介。無理に殺す必要はない。大丈夫。これがなんとかする」

 絵美は再び銃を構え、銃撃をしようとしているキ三号型達を見ながら言葉を出す。

「絵美。居場所が分かったのです。相手は三人なのです。三時方向、距離二百二メートル。白い壁の三階建ての民家の三階の窓に一人。十二時方向、距離百十一メートル。紺色の瓦屋根の二階建ての民家の二階のベランダに一人。最後の一人は、六時方向、かなり離れているのです。距離五百三メートル。鼠色の六階建てのビルの屋上にいるのです」

 ハルが言い終えたのと同時に絵美はハルにお礼を言うと、啓介の顔を見る。

「啓介。本当はこれが行って倒せば良いのだが、キ三号型達の事もあって今はここから離れられない。こんな事をさせて済まない」

 絵美はそう言ってから、啓介にハルの言葉を伝える。

「絵美。大丈夫だ。俺に任せてくれ。一人、二人、三人。全員見付けた」

 啓介が、一つのウデの先端部分のアンチマテリアルライフルを、狙いを付けるように動かしながら言う。

「啓介。ありがとう。今隙間を空ける。そこからウデを出して欲しい」

 絵美は言って、ウデを動かす。啓介が、絵美が作ったウデの隙間からウデを二つ出す。

「もう一度あの鎧みたいなのを着てる奴ら、キ三号型達も撃つ。今度は立ち上がらないように、威力を強くって命令に付け足してみる」

 啓介が言うと、啓介のウデが連続して発砲する。キ三号型達全員が再び地に倒れ伏し、建物の中から狙っていた三人も倒れた事が、ハルからの通信で絵美に知らされる。

「二人とも装甲車に戻るのです」

 装甲車の後部扉が開き、ハルが声を上げる。

「啓介。ありがとう。行こう」

 絵美は言って立ち上がり、啓介に向かって手を伸ばす。

「うん」

 啓介が言い、絵美の手を握って立ち上がる。

「二人とも動くな。お前ら、何をしたのか分かっているのか? 今度は、全員死んだぞ」

 士魂が言う。

「そんなの、そんなの知った事かよ。お前達だって俺達を殺そうとしたんだ」

 啓介が大きな声を上げる。

「啓介。行こう」

 絵美は握ったままの啓介の手を引きながら言う。

「逃げられると思っているのか」

 士魂が言うと、士魂の乗っている装甲車の後部扉が開く。

「出て来るな。お前も死ぬ事になるぞ」

 啓介がすべてのウデの先端部分のアンチマテリアルライフルの銃口を、士魂の乗っている装甲車の方へ向けて言う。

「それはどうかな。お前がウデを使って絵美を傷付けたと聞いて、念の為にと、開発中のキ三号型原動機付甲冑重装甲仕様を身に付けて来た」 

 士魂が言い終えると、ボディ全体に丸みと厚みがあり、今まで戦っていたキ三号型よりも、明らかに各部の強度が上がっていると、一目で分かる形状をした人型の物体が、装甲車の陰から姿を現した。

「絵美。啓介。あれはまずいのです。今データを見ているのです。装甲の厚さも力の強さも通常のキ三号型の三倍以上あるのです。それに、通常のキ三号型には武装はないのですが、このモデルにはロケットランチャーが装備されているのです。早くこっちに」

 ハルの言葉が終わらないうちに、士魂が動き出し、絵美達の方に向かって走って来る。

「これが相手をする」

 絵美は言いながら、啓介の手から手を放すと、片手に提げていた刀を両手で持ち、正眼の構えを取りつつ、啓介の前に出る。

「この重装甲仕様に近接戦を挑むとは愚か奴だ」

 士魂が言い、走りながら三段式の警棒のような武器を、左前腕部にある収納部から取り出す。

「絵美。さがってくれ」

 啓介が言ったと思うと、啓介の姿が絵美の視界の端に入り、啓介のウデが一斉に発砲を開始した。

「この厚さの装甲は貫けないようだな」

 士魂が言って、啓介の方を向くと、啓介との間合いを一気に詰め、警棒のような武器を振り上げる。啓介が銃撃をやめ、ウデで体を守ろうとする。

「させない」

 絵美は声を上げながら、啓介と士魂の間に割って入る。

「絵美」

 啓介が叫ぶ。

「絵美」

 ハルも叫び声を上げた。警棒のような武器と絵美の刀がぶつかり合い、火花を散らす。

「まだまだだ」

 士魂が言うと、警棒のような武器を、何度も何度も絵美に向かって打ち付ける。絵美はその攻撃を、刀身にこれ以上ダメージを与えないようにと、刀身の角度を変えながら受け、うまくいなしさばいて行く。

「いい加減にしろ」

 啓介が叫び、銃撃を再び始める。

「なかなか頑張るじゃないか。だが、これならどうする?」

 絵美に対する攻撃を続けながら士魂が言うと、キ三号型重装甲仕様の右肩の部分から、ロケットランチャーの発射ポッドが、機械音を鳴らしつつ生えるようして出る。

「撃たせるか」

 啓介が声を上げ、銃弾がロケットランチャーに集中する。

「残念だったな。こいつのロケット弾は対PS結合体用だ。撃ち出さなくても任意のタイミングで起爆できるようになっている」

 士魂が言い、警棒のような武器を振るっていない方の手で、発射ポッドを強引に肩から外すと、体の前に持って来る。

「絵美。啓介。逃げるのです。ロケット弾を爆発させるつもりなのです」

 ハルが叫ぶ。

「絵美。逃げてくれ」

 銃撃をやめた啓介が叫び、士魂に向かって行こうとする。絵美はウデを数本、刀の棟に触れさせると、自身の腕とウデの力を使って、振り下ろされる警棒のような武器を打ち払い、啓介。と声を上げながら啓介を守る為にウデを広げつつ、啓介を抱き締める。

「絵美」

「絵美」

 ハルと啓介の声が、ロケット弾の炸裂音と重なった。

「絵美は? 絵美はどうなった? ハル? ハルは? 二人とも無事なのか?」

 啓介が声を上げる。

「啓介。絵美が。絵美が大変なのです」

 ハルの声が上がり、絵美の体が抱き起こされる。

「絵美が? 今そっちに行く」

 啓介が言う。

「これは、平気。ハル。何が起きている? 何も見えない。啓介は? 二人とも怪我は大丈夫?」

 絵美は必死に二人の姿を探す為に顔を動かし、口を動かす。

「絵美? 目が見えていないのです? ハルはここなのです。絵美。声が出ていないのです。聞こえないのです。なんと言っているのです? 絵美。絵美」

 ハルが叫ぶ。

「頭を壊せばPS結合体は死ぬ。絵美はもう駄目かも知れないな」

 士魂が言った。

「こいつ、無傷、なのか?」

 啓介が言う。

「啓介。そんな事よりも今は絵美なのです。頭からの出血が酷いのです。ロケット弾の破片も頭に刺さっているのです。破片を早く除去した方が良いのです」 

 ハルが言う。

「ハル。絵美を連れて逃げてくれ」

 啓介が言う。

「啓介? 何を言っているのです? 何をする気なのです?」

「俺の事は良い。ハルは早く絵美を」

 ハルの言葉を聞いた啓介が言う。

「啓介。いけない。一緒に逃げよう」

 片方の目がぼんやりと見えるようになり、啓介の姿を見付けた絵美は口を開くが、声はまだ戻って来てはいなかった。

「自己犠牲が好きな連中だ。だが、お前に何ができる? お前に俺を止める事ができるのか?」 

 士魂が言う。

「俺のウデは、どうしてかは分からないけど、俺のやってたゲームに出て来る武器になる。今まではナイフとか銃とかだったけど、そのゲームには戦車とか戦艦とか戦闘機とかも出て来る」

「面白い事を言う。できるのならば、やってみろ。この甲冑を破壊できる物を出してみろ」

 啓介の言葉を聞いた士魂が言った。

「言われなくてもそうする」

 啓介が言うと、生えているすべてのウデが、啓介の体の正面、胸の辺りに集まり、溶け合うようにして合体を始める。

「初めて見るな。ウデはそんな事もできるのか。だが、それがなんだというんだ?」 

 士魂が言う。

「黙って死ね」 

 啓介が声を上げたの同時に、合体したウデの先から砲弾が発射され、士魂の体が爆炎に包まれる。

「百二十ミリ滑腔砲という所か? 残念だったな。戦車砲なら耐えられる」

 士魂が言った。

「これならどうだ」

 啓介が言い、砲弾が連続して発射される。

「この程度か? まだまだだ。こんな物で止められると思うな」

 砲弾を連続して受けた士魂が、爆炎に飲み込まれながら言うと、両腕を体の前で交差させ、砲弾をガードしつつ、啓介に向かって走り出す。

「連装砲、来い」

 啓介が叫び、啓介の腹部の辺りから、今生えているウデとは別のウデが数十本生える。新たに生えたウデが、新たな百二十ミリ滑腔砲を形作ると、砲弾を連続で発射し始める。爆炎の中を走っていた士魂の体が大きく揺らぎ、動きが止まる。

「やった、のか?」

 啓介が言い、その場に倒れ込んだ。砲撃がやみ、徐々に薄くなって消え去って行く爆炎の中から、両腕を失い、地面に両膝を突き、胸部から腹部にかけての部分に大きな穴の開いた、士魂の姿が現れた。

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