極寒の地も寒くなかった件
四十一~五十階層
そこは極寒の地だった。平均気温-三十度。そこに昼も夜もなくただただ吹雪が吹き荒れるだけであった。
「うをぉぉ,何だここは。寒すぎるだろ」
「そうですね。それにこの階層は仲間とはぐれさせる効果もあるようです。私たちには関係ありませんが」
「だな。早く抜けちゃおうぜ」
弘樹は今猛吹雪の中にいた。ここは四十一階層。吹きすさむ風は攻略者のやる気をそぎ,その寒さで帰らぬ人とする。そして攻略に置いて一番の障害は仲間とはぐれること,つまり遭難であった。
「だが,今の俺には全く効かねぇ」
そう,弘樹にはこの手の物は効かない。少し前ならどうなっていたかはわからないが今の弘樹は鑑定さん(仮)と出会えたことにより軽く覚醒していた。なので鑑定さんと話しながらのんきに攻略していた。
「なあなあ,今妖精の姿なわけじゃん。何か変わったことはあるの?」
「変わったことですか。そうですね,実態を持ったことへの実感がまだありません。不思議な感じです。それに私に気持ちというものが生まれたような気がします」
俺はそれは単純にいいことだと思う。気持ちが生まれたということは自分で行動できるということ。生きる上で大事なことだ。
「でもさ,どうやって進化したんだ?」
「どうやって,ですか。それは愚問ですね。進化したかったからですよ」
これには弘樹も驚きを隠せない。
「進化したかったからって,そんな理由で進化できるのか」
「できました。私が進化したかったというのと弘樹が進化を願っていたようなので」
「ほー。そうなのか。じゃあスキルの鑑定はなくなったのか」
「いえ,そういうわけではありません。スキル鑑定は今までどうり使えます。前までのように話しかけてはこないと思いますが」
「そうなのか。やっぱり鑑定さんが話しかけてきていたのは特別なことだったのか」
「そうだと思います」
「じゃあさ,今の妖精スタイルの鑑定さんて何ができるの? 俺と会話するだけ?」
「えっと,私のできることは主に戦闘のサポートです。周りの警戒であったり,魔法の開発などですね」
「そっか。それは良かった」
「それに解析鑑定の権限も持っているので鑑定と同じようなこともできますよ」
「鑑定の権限?」
「はい。好きな時に弘樹の鑑定を自由に使うことのできるという権限です」
「つまり,鑑定と同じようなこともできるわけだ」
「そういうことですね」
「すげぇ」
そうこうしているうちに下の階への通路が見えてきた。
「さて,この階層もぱっぱと攻略しますか」
「だな」
弘樹は炎を吐き目の前にいる熊を蹴散らす。
「よし,これで戦闘終了だ」
「ですね。だいぶここでの戦闘もなれてきましたね」
なぜこのようなことを言うのかというと,ここでは吹雪が魔法を妨害してくるので簡単な魔法を使うのにもかなりの魔法制御が必要になるからだ。その点,弘樹は魔力こそあれども魔力制御能力はあまりなかった。だが,この階層で戦闘していくにつれだんだんとうまくなっていった。
「最初は私の助けも必要だったのに,本当にスポンジのように新しいことを吸収しますね」
「ああ。なんと言っても強くならないといけないからな」
「十分強いのですが」
「そうだ,その妖精の姿ってさ,変えられるの?」
「どういう意味ですか? まさか私に変な恰好をさせるつもりですか?」
弘樹は不覚にもその恰好を考えてしまい,それもいいなと思ってしまったが,それを振り払うと改めて質問する。
「そういう意味じゃなくてだな,外に出たら,その妖精の恰好ってかなり目立つだろ。だから大丈夫なのかなって」
「そんな心配ですか。全く問題ありませんよ。なぜならこの体はいわば仮の体。消滅して弘樹と一体化できるんです」
「へー。一体化? それってどういう状態なの?」
「一体化はその名の通り一緒になることのことです。簡単に言えば解析鑑定だったころに戻るみたいな感じですね」
「そうなんだ。もし一体化したら妖精スタイルに戻れないなんてことはないよね」
「ええ,大丈夫です。弘樹から魔力を少しもらえばまたこの姿に戻ることができます」
「それは便利だな」
そして二人は五十階層まで来た。
「やっとここまで来たな。この階層で出てきたモンスターは弱いわけじゃなかったし,これは次の階層に期待だな」
「ですね。これでこの魔窟も弘樹が生まれた場所から二百階層下まで来たことになりますね」
「そうだな。なんだか感慨深いな」
「どういえばレベルはどうなったんですか。さすがに少ししか上がってないと思いますけど上がってるんじゃないですか」
「そういえば一回もレベルアップの音を聞いてないな」
「あ,それならば私が勝手に消しました。戦闘に邪魔だと思い,無音状態にしてあります。もとに戻しますか?」
「いや,いいや。この方が戦闘に集中できるし。でも無音状態なんてあるんだな。知らなかった」
「ええ。あまり知られていることではないですからね」
「じゃあ,一回もレベルアップの音を聞いてなくてもレベルアップしているかもってことか。早速見てみよう。ステータスオープン」
ファイアリザード
Lv 15
HP 75000
MP 27500
攻撃力19500
物理防御力5000
魔法防御力5000
素早さ4500
スキル
炎魔法上級Lv4
炎魔法中級Lv4
炎魔法下級Lv6
解析鑑定
スキル管理
炎系竜流体術Lv5
炎耐性Lv8
炎魔力操作Lv4
進化可能経験値(15/40)
なかなか上がっていたな。特にスキルのレベルがすごく上がっている。
「これはいいですね。この調子ならスキルの進化も近そうです」
「だな。これはもっと使うしかないぜ」
「それでは下の階に行きましょうか。おそらくですがもう少し下がったらいい狩場があると思いますよ」
「ん? そうなのか」
「はい。この魔窟は百階層ごとに魔物は大きく強くなっています。ですから次の階層に行けば魔物は大きく強化されている可能性が高いです」
「そうか! やっとこの長い旅に終わりが見えたな」
「はい。ですが同時に用心もしてください。敵が強くなれば死ぬ可能性も高くなります」
「だな。安全第一で行こう」
そして弘樹はより強き敵を求めて下の階へ降りていくのだった。
~サイド ???~
「あいつらもだいぶこの世界になじんできましたね」
「ああ。そうだな」
「次の作戦を手つだわさせますか?」
「いやまだ早い。もう少し強くさせてからの方がいい」
「分かりました。ですが,もしあの都市がなくなればエンラルドは壊滅しますね」
「ああ。勇者がいるからと言ってもあの国は終わりだ」
「では,私たちの栄光に,乾杯」
「乾杯」
今日もこの世界の夜は深い。
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