ボスを倒さないと進めなかった件

「いやあ,怖かったな」

「私はそんなことなかったですけどね」

「いや,めちゃビビってただろ」


 今はちょうどアークバンパイアを倒して洋館の二階に通路を見つけ,下の階に下がっているところ。

「それにしてもこのダンジョンって不思議だよな」

「そうですね」

「第一に景色が十階層に一回しか変わらなくなった」

「そう言えばそうですね。今までは五階層で変わるときもあったのに」

「なんでだろうな。もしかして階層が下がったからかな?」

「そうだと思われます」

「次にだよ,普通ダンジョンってさ,通路を抜けたらいきなりフィールドにほっぽり出されなくない?」


 そうなのである。このダンジョンでは,通路を抜けるといきなり下の階のどこかに転移させられるのだ。つまり,下の階に行ってしまえばすぐには元の階に戻ることはできない。元の階に戻りたければ下へ行く階段とセットになっている上へ行く階段のを探さないといけない。


「そういう意味ではここ,難易度高いよな」

「ですね。マスター,無駄話もいいですが,そろそろ次の階に着きますよ」

「だな。前なんか降りたら目の前に魔物がいて大変だったよな」

「ですね」


 そういうと弘樹の目の前が光り始めた。そして光が収まると,そこには石畳の通路があった。

「ここが次の階層か」



二十一~三十階層


「ここは何なんだ」

「分かりかねます。しかしどこか不気味ですね」

「ああ」

今弘樹たちがいるのは二十階層である。そこは石畳の舗装された通路が一本,ずっと続いていた。

「これは今までにないタイプだな」

「ですね。魔物も出てきませんし」

ここでは魔物も出てこない。それが余計に弘樹たちを怯えさせていた。


しばらく歩くと,そこには大きな扉があった。

「まるでボス部屋だな」

「ですね。まさかここが本当にボス部屋なのでは」

「そうなのか。ていうかダンジョンにボス部屋があるのか」

弘樹は疑問に思った。

「はい,そうです。全ての魔窟にはボスが一体います。そしてその魔物を倒せば地上に上がることができます。ボスはその魔窟の名前に関係することが多いようです」

「ほー。つまりここがボス部屋? ここを抜ければ地上か」

弘樹はワクワクするとともに少し怖がっていた。

(このまま地上に行っても大丈夫なのだろうか。地上にはもっと強い奴がいっぱいいるんじゃないか)


「とりあえず,入ってみましょう」

「だな。まだボスだと決まったわけじゃないから」


 扉を開けるとそこは広い部屋だった。

「うわ。いかにもボスじゃないか」

「違います」

「ん?」

「この気配は,来ます,マスター」


 その瞬間,目の前に大きな狼が出てきた。

「この気配,もしかしてエリアボスか」

「はい」

「ボスはボスでも少し格下でした」

「だけど,こいつ強そうだぞ」


「よく来たな,トカゲ。そしてさらばだ」

狼はそんなことを言うといきなり接近してきた。

「こいつ,強いぞ」

「ですね。用心してください。こいつはフェンリルです」

「まじかよ。あの伝説の?」

「はい」


 そして弘樹とフェンリルの戦いが始まった。


 魔法が飛び交う。一方が水の槍を放てばもう一方はそれを炎で撃ち落とす。反撃とばかりに片方が炎のブレスを放てばもう一方はそれを軽く避ける。そんな一進一退の攻防が続いていた。


 弘樹は焦っていた。

「これは,勝てるのか」

「分かりません。お互いに一進一退で決め手がない状態です」

「じゃあどうすれば。このまま相手の魔力切れを狙うのか」

「忘れたんですか,マスターが前私にした命令を」

「えっと,何だっけ」

「それは,炎魔力操作を手に入れたとき。マスターは私にすごい魔法を作ってくれといったじゃないですか」

「そういえばそういうこともあったな」

「あれから私は暇を見つけては新しい魔法を考えてきたんです。そして,今この瞬間に完成しました。もしかして弘樹が私にあの命令をしたのって,こうなる未来を予想していたんですか」

「う,うん。そうだよ」

嘘である。弘樹は全くそんな未来考えていなかった。ただ,新しい魔法があったらいいなぁと思っただけである。ただここは鑑定の信頼を得るチャンス,と思い便乗したのであった。


「それで,どんな魔法なの?」

「その名も炎神,です」

「炎神? なんか名前はかっこよくてすごそうだけど,どんな効果なの?」

「それは,炎まといの上位互換です。しかし性能は段違い。炎まといよりも攻撃力の上昇値が上がったのはもちろん,炎まといでは上がらなかった素早さや物理,魔法防御力も上がるんです」

それはすごいな。ただ,解析さんが何やらどや顔をしてそうだが,それは置いておこう。


「そんなにすごいのか。?じゃあ,逆にデメリットは?」

「はい,それは二重掛けできなくなったことと,ダメージが非常に大きくなったことです」

「二重掛けはいいとして,ダメージってどのくらいになったんだ」

「それはですね,毎秒十ダメージです」

「問題ないな。それで攻撃力が上がるなら」

「では,さっそく使って見てください」

「おう」


 鑑定さんにそういわれたので,さっそく使って見る。

「発動,炎神」

その瞬間,弘樹の体が炎で燃え上がる。いた,燃え上がるというより,

「俺が炎と同一化している?」

「よくわかりましたね。この魔法は自信を炎と同一化する魔法。つまり弘樹自身が炎になるわけです」

そして,完全どうかした。その姿はまさに炎の神。今はトカゲ状態だからハ〇ルの動くなんちゃら(ジ〇リ)のしゃべる炎みたいだが,もしこれを人型や龍の形で行ったらさぞかっこよかったろう。


 だが,たとえかっこ悪かろうと,その強さは本物である。

「すげぇ。俺,炎が手をとるように分かる。今ならどんな炎魔法だって使える気がするぞ」


 話は少しずれるが,この世には魔素というものが存在する。それは生き物から漏れ出たMPだったり,自然発生した魔素だったりであるが,それは本来生き物は有効活用できない。なぜならそれを魔力にすることができないからだ。


 だが,もしそれを活用できるようになったら? そう,それこそがこの炎神という魔法である。鑑定はすさまじいものを作ってしまったのだ。まあ,そんなこと知る由もない弘樹は単純に自分の使えるMPが増えたと思っているようだが。


 余談終了。


 そして,この場にその魔法の恐ろしさを,異常さを感ずいたものがもう一体いた。フェンリルである。


(なんなのだ,あれは。まさか,大気中の魔素をも味方につけたのか。ありえない。もしそうなら,我などがかなう相手ではない)


 だが相手がそう思っている等鈍感な弘樹が気付くはずもなく,攻撃を開始する。


 ふっ,っと弘樹の姿が消えた。そして,現れたのはフェンリルの前。そしてその速度を失わず尻尾を叩きつける。


 ふっ,っと今度は弘樹に尻尾にあたった瞬間フェンリルの姿が消える。そして,ズゴーンという音とともにこの部屋の壁に激突する。


「すさまじいな」

弘樹がつぶやく。その通りである。その戦いには先ほどまではあった攻防はなく,ただただ蹂躙である。

二度,三度とそれが繰り返されていくうちにフェンリルは理解する。こいつには敵対してはいけなかったと。無条件で次の階層への通路を開けるべきだったと。そして,こいつこそが,このトカゲこそが,

(魔王だ)

と。




「ここが最後だな」

「ですね」

「骨のあるやつだといいんだが」

「行ってることは悪役ですよ」


 ここは三十階層。弘樹はフェンリルを倒した後,すさまじい速度でこの階層まで来ていた。そして,この階層にはエリアボスしか存在しないということを学んでいた。おそらくここは度重なるエリアボスとの連戦で体力と精神力を消耗させることが目的だったのだろう。現にエリアボスを倒さなくては次の階への通路が見つからなかった。


 ただ,それは今の弘樹にはプラスにしか働かない。エリアボスはもうすでに雑魚であるし,通路は一本だけで,丁寧にその奥にエリアボスがいるので探さなくてもいい。まさに弘樹のために作られた階層であった。


 現に今も蛇のエリアボスを倒したところであった。


「よし,これで終わりか」

「ですね。これでだいぶ攻略しましたね」

「おう。だけど本番はこっからだぜ。がんばろうな」

「はい」


そう言って次の階に進むと,

「うそーん」

そう,そこには見慣れた町,日本の東京があった。



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