やっと魔窟攻略が始まった件

~サイド 永井弘樹~

 そして,一週間がたった。その間も弘樹は戦い続けてきた。ある時は牛の魔物と,ある時は虫の魔物と。そして,弘樹は思った。敵,よっわ,と。


「なーなー。俺ってだいぶ深くまで潜ってきたよな」

「はい。マスターはだいぶ潜られました」

「一つ聞いていいか」

「はい,構いませんが」

「じゃあ聞くけどよ,何で魔物が全然強くならないんだよ」


 そうなのである。俺,こと弘樹はスライムにあってからというもの,強くなるためにあほみたいに階層を下がってきた。それも強いモンスターに会う,ということのためだけに。そしてあれからだいたい百階層は下がった。だが一向に魔物が強くならないのだ。


「はじめのうちは良かったよ。どんどん下がっていけたし,景色もたまにだけとはいえ変わったから楽しめたさ。魔物も新しくて見たこともないようなのばっかだったけど飽きはしなかった。だけどもういい加減飽きたんだよ」


 ちなみにこの世界でダンジョンは下の階層に行くほど一階層が広くなっていく。これも弘樹を苦しめる原因の一つである。今ではあのスライムと戦った階層の二倍以上の広さを攻略しなければならない。


「俺が百階層降りてきて,上がったレベルはたった3だぞ。俺のモチベが持たんわ。そこんとこどうしてくれるんですか」

さながら日本で言う悪質なクレーマー客である。だがそうでもしないと弘樹の精神が持たなかった。


「それにさ,次の進化まであとレベル37あんだよ。このペースだといつまでかかるか」

「そう言われましても。それにこのダンジョン,なかなか深いようですし,もっと潜っていけばより効率の良い狩場があるかと。それに何度も言いますが,ここら辺のモンスターは決して弱くありません。むしろもしここら辺のモンスターが地上に溢れたら地上はモンスターの楽園になってしまいますよ」

「はー。君もお世辞を言うのがうまいね。まあ,そのおかげで今までやる気が続いたんだし,今もちょっと頑張ってみようと思えたからダメとは言えないんだけどね」

「はぁあ。お世辞,ですか……」

「よし,もうちょっと頑張ろう!」


 余談だが,鑑定の言っていたことは決してお世辞などではなく,れっきとした事実である。


「ここら辺の魔物もだいぶ強くなってきたな」

「そうですね。炎の海では一発で倒せない魔物が出てきましたね」


 いま,弘樹たちがいるのは弘樹が魔窟攻略飽きた発言からだいたい五十階層下に進んだところである。ついに,炎の海で倒せない魔物が出たことに弘樹はかなり喜んでいた。

「炎の海じゃ倒せないってことはここら辺から魔物との戦闘ありの攻略が始まるってことだよなぁ」

「そうですね。大幅な時間のロスです。それにここら辺の魔物は強さのわりに経験値が少ないので効率も悪い」

「そうだけどよ,やっとダンジョン攻略って感じがするじゃんかよ」

「そうですね。ところでなんでそんなにはしゃいでいるのですか」

「だって,ワクワクするじゃん」

そう,弘樹はワクワクしていた。なぜならここから本当の魔窟探索が始まるからだ。


 もともと弘樹はRPGも好きで特にド〇クエなどは大変気に入っていた。特にⅦなどは数々の職業を極めたもんである。つまり,弘樹はダンジョンなどを攻略するのが大好きである。


 今までは周りの魔物と比べると弘樹があまりにも強すぎてLv99でRPGを進める感じであった。そう言ったゲームはレベル上げをしてから攻略する人もいるが弘樹はそうではない。どっちかというと適性レベルギリギリで勝つということに快感を覚えていた。


 つまり,今までも魔窟攻略は弘樹にとっての邪道。ここからが本当の攻略である。


「よっしゃあ。ガンガン攻略していくぜ」

「全く,人間というのは分かりません。なぜこんなに無駄なことを楽しめるのか」

「ん? 何か言ったか」

弘樹は難聴主人公である。


 ここからは魔窟攻略をはしゃぐ弘樹とともにダイジェストでお送りする。


一~十階層まで(弘樹がはしゃいだ階層をゼロとする)


 永遠に続くかのような砂の地獄。吹きすさむ砂の嵐。沈まぬ太陽はこの灼熱の大地を照らし続ける。そう,砂漠である。そんな地獄の中を一人の,いや一体のトカゲが爆走していた。

「やべーー」

弘樹である。

「やばいよ,ここ。なんでただ立っているだけでダメージを食らうんだよ。これはもしかして常時ダメージ床なのか」

ここは砂漠は砂漠でも魔窟の砂漠。踏破するつらさは普通の砂漠の何十倍では収まらないであろう。その要因の一つが常時ダメージである。この砂漠に足を踏み入れた瞬間,あまりの熱さから常にダメージを追うのだ。

「マスター,このダメージ,炎耐性でもなくなりません。あと前にアリジゴクです」

「まじかい」


 ここに住む魔物はただ一種。その名もアリジゴク(仮)。生態は日本のアリジゴクと変わらないがその巣の規模がすさまじく,一キロもの範囲の巣穴を持つ。つまりそれはその範囲に入ればつかまってしまうということであり,すなわち死を意味する。


「これ,ド〇クエよりハードだよ」

そんな弘樹の声は砂の嵐によってかき消された。



十一~二十階層まで


「俺さあ,こういう形,無理なんだよね。鑑定さん,どうよ」

「(無)」

「ねえ,鑑定さん? ここでだんまりとか一番怖いよ。ねぇ」


 そう,ここは砂漠を抜けた階層。砂漠の熱さを相殺するかのようにここの気温は常に一桁であった。そう,ここはアンデットたちが住む根城。


 そして,今弘樹の目の前には大きな洋館が建っていた。


「今までの攻略階層からしてここを攻略すれば違うステージになるよな」

「ソウデスネ」

「よし,ここを急いで攻略するぞ,って鑑定さん,さっきから思ってるけどもしかして怖いのかな?」

「まさか,そんなわけは。マスターこそこの階層に来てから動きが鈍いですよ」

「そ,そ,そ,そんなことは」

お察しの通り,ここは魔物というより怖がらせに来ている階層。そしてその効果は二人にとって効果抜群であった。 


 ギィ。ドアが勝手に開いた。

「ひぃ。なんで。え,何が起こったん」

「マスター,怖がりすぎです。ただ勝手にドアが開いただけじゃにゃいですか」

(は! 鑑定さんが怖がっている。しかも噛んでるし。これはレアなチャンス)

「なんか今良からぬことを考えられた気がするのですが」


 そして弘樹たちは洋館に入った。

「どこだ,どこに通路はあるんだ。早く,速く,はやくでてこいや」

怖さが爆発して怒ってきた弘樹。だが,そこに更なる脅威が襲い掛かる。


「ふっふっふ。この館に来客なんて何年ぶりでしょう。これは盛大にもてなさなくてはいけませんねぇ」

そんな声が聞こえるといきなりきりが辺りを覆い始める。

「誰だっ。ていうか霧?」

「おかしいです。ここは館の中だったはずなのに」


 霧が晴れると辺りには墓が並んでいた。そう,墓地である。

「おい。ここって,墓地だよな」

「ええ,そのようですね」


 すると上から声が響いてくる。

「かかったな,トカゲ」

「お前はっ」

「わが名はアークバンパイア。この階層をすべるものなり。久しぶりの来客がトカゲというのは嘆かわしいが,せいぜい遊んでいくしよう」

そういうとアークバンパイアは弘樹の前に姿を現した。そして真っ二つになった。

「また,つまらぬものを切ってしまった」

「何馬鹿なことを行ってるんですか。それより,霧が晴れませんね」


「フハハハハハ。そこは我の固有結界の中。故にそこは我にとって都合のいいことしか起きんのだよ」

「マスター,あいつの言っていることは本当みたいです。ここではあいつは死にませんし,私たちも本来の力が出ません」

「なんだって」

 そう,それが固有結界である。それは自分に都合のいいことしか起きさせない結界。作るのは難しいが一度かかってしまうと,使用者とかなりの実力差が無いと抜け出せない,恐ろしい結界である。


「なんだ,なるほど。だいたいわかったよ」

「どうしたのですか,マスター」

「俺の種族,何魔法が得意か知ってるかい」

「炎ですよね。それがどうしましたか」

「物は捉えようさ。この魔法は何かを燃やすことが得意な魔法。つまり,この固有結界だろうと,燃やせる!」

「とち狂ったか。そのような暴論,できるはずがなかろう」

「はー。|次元燃脚(ディメンジョン・バース)」

「マスター,そんなことしてもって,嘘? 固有結界が燃えてる」

「ば,ばかな。そんなはずはない。そんな暴論が通るなどーー」


 そして,霧が晴れた。そしてそこには元通りの洋館があった。ただ一つ違うのは扉から入ってすぐのエントランスにバンパイアが倒れていることだろうか。


 倒れているバンパイアに弘樹が近づく。

「終わりだ,バンパイア」

バンパイアの表情はどこかすっきりとしていた。



「マスター,感動の展開の中悪いのですが,通路を見つけないとこの階層から抜け出せませんよ」

「そうだー。忘れてた」


 その後,弘樹は近くの部屋に階段を見つけて無事下の階へ行くことができるのであった。


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