スライム(敵)が強すぎた件
俺が六回目の下り坂を下ると,そこには草原が広がっていた。なんでだ。そこには洞窟があるものと思っていた俺は拍子抜けしてしまった。
「どういうことだ」
「お知らせします。魔窟とは魔力が集まってできた場所。そのため通常ではありえないようなことがあり得てしまいます」
なるほど。これは楽しそうだ。今までずっと普通の洞窟だったからいいリフレッシュになる。それに深くまで潜ったらより強力な魔物がいるだろう。そうなれば早く強くなれる。ますます楽しくなってきたな。ていうかさっきから俺としゃべっているのは誰だ。もしかして魔物か。
「違います。私は魔物ではありません。私は解析鑑定。気軽に鑑定さんとおよびください」
「そうか。ってそういうことじゃなくてだな。まずおまえは解析鑑定か。それは分かった。だがどうして解析,さん? が喋れるのかっていうことを知りたいな」
「そっちですか。それは簡単です。マスターが喋る相手がいてほしいと思っていたからです」
「そんなこと思ったかな」
「表では思っていなくても実は思っているのです。まあ,私にはまるわかりですが」
「はずかしいな」
「そんなことありませんよ。気軽になんでも相談してください。お答えできることであればお答えしますよ」
「分かった。とりあえずダンジョン攻略をするか」
「分かりました。全力でサポートします」
「ありがとう」
「いえいえ」
鑑定か。まさかしゃべりだすとは。だが,これは好機。いいことだ。単純に話し相手がいるだけでも気分がまぎれるし,何より優秀そうだ。
「一つ聞いていいか。鑑定さんは何ができるんだ」
「はい,私は目の前の物の鑑定ができます」
「それだけかよ」
「はい,それだけです。ですが考えてください。目の前の鑑定,それは空間の鑑定もできるってことです」
「つまり?」
「周りに魔物いないかの察知もできるんです」
「おお。それはすごい。つまりあんたは魔物が近づいてきたら教えてくれるんだな」
「はい,そうです。まあ,もちろん普通の鑑定もできますがね」
これは棚ぼただな。これでだいぶ戦いやすくなった。それにスキルだから寝なくても大丈夫だろう。つまり夜番とかも任せられるってことだ。よし,これからはこき使っていこう。俺は人使いが粗いのだ。
◇
気を取り直して俺が草原に出ると,さっそく魔物が襲ってきた。お,最初はスライムか。て,弱すぎないか。スライムって雑魚中の雑魚。キングオブ雑魚じゃないか。そんな奴が一体どうして。
そうだ,鑑定してみよう。もしかしたらとてつもなく強いのかも知れない。
「解析」
スライム
雑魚モンスター。弱い。適当に殴れば死ぬ。強さはランクE。
なるほど。ってやっぱ雑魚じゃないか。まあいい,とりあえず攻撃だ。えっと,尻尾攻撃。あ,死んだわ。
なんでこんなに弱いんだ。逆に違和感しかないぞ。もしかして階層を下がると魔物って弱くなるんじゃ。だとしたら大問題だぞ。
「それに敵を鑑定したときはステータスって出ないんだな」
「出せますよ。ですが必要ないと判断し私が文字に置き替えました」
「そうか。それはいいことだ。いちいちステータスが出てきても面倒だからな」
その後も雑魚モンスタ―,ゴブリンなどが出てきた。ただ普通じゃないのは,倒した魔物が消えてしまうことだ。普通であれば何かドロップが出る。だがここではそれがなかった。
ここで,魔物のドロップについて説明しておこう。魔物のドロップとは,魔物が死んだときになのを落とすかである。そもそも,魔窟以外の,たとえば地上では魔物は死んだらドロップという形ではなく,そのまま死体になる。だが,魔窟であればその原則は当てはまらない。魔窟で死んだ魔物はドロップというものを残してそれ以外の肉体は魔窟に吸収されてしまう。原因は不明。
だが,そんな常識を弘樹が知るはずもなく,異変に気づくことはできなかった。
「あー。イライラする。もっと強い奴はいないのか」
これだけ聞けば頭のおかしい戦闘狂である。
「ただ,誰かに見られている気がするんだよな」
「そんな気配,私は感じませんけどね」
「そりゃそうだろ。スキルなんだから」
そう,弘樹は人一倍人の視線に敏感だった。そのおかげで今,自分が視線を感じていることに気づくことができた。そして強烈な殺気を感じる。弘樹はとっさに右へ転がった。すると,もともといた場所に水の渦が生まれた。
「なんだ,あぶねえな」
弘樹は訳が分からなかったが,このままではまずいと言うことだけ分かった。そして,自分が愛用する魔法を唱える。
「炎まとい」
弘樹の体がみるみる燃えて巨大な火の玉のようになった。これで身体能力が大きく上がることだろう。
「さあ,かかってこい化け物め」
そう叫ぶと弘樹はぼ応戦準備を整えた。
「ウガァァァァ」
そう咆哮が聞こえると,目の前に金色の巨大なスライムが現れた。まじかよ。てゆうかこいつがこの階層に雑魚しかいなかった原因なのか。
「うわっ」
またあいつ俺のいたところに水柱を立ててくる。これは早いとこ攻撃しないとな。
「ファイアボール」
だが,弘樹の打ったファイア―ボールは金色のスライムにあたるとジュッという音だけがして消化されてしまった。俺の放ったファイアボールがあたってもあいつにはダメージがなさそうだった。
くそ。どうしたらいいんだ。まさか,炎系の魔法がきかないのか。そうだ,一回解析してみよう。
「解析」
解析不可
相手が自分と同等又は自分より強いため解析できません。
「まじか」
じゃあほんとに打つ手なしかよ。ってあぶねえな。
弘樹が解析をしている間も金色のスライムはひっきりなしに連続で攻撃を仕掛けてきていた。弘樹は今はまだ避けられているが,これもいつまでもつかわからない。それに一発でも当たれば動きが鈍くなって連続で食らってしまうだろう。つまりこのままではじり貧だ。
「くそ。こうなったらいったん引くか」
弘樹がそう思った瞬間,スライムの行動が変わった。なんとスライムがスライムでできた魔物を作ってきたのだ。
「なるほど,こうやってここら辺の魔物を作っていたのか。じゃあここは普通の魔物は出ないということか」
「お答えします」
「わあ,解析さん?」
「ええ,マスターがなにやら質問をお持ちの様でしたので」
「おお,助かるわ」
「それで回答ですが,あのスライムがここら辺の魔物を全て倒しているものと見られます」
「てことは,もともとここは普通に魔物が出る平原だったってことか」
「そういうことです。そこにあのスライムが出現しレベルを上げ,強くなったと思われます」
なるほど,そうか。じゃあ打つ手なしかよ。いや,待てよ。ここには魔物は普通に出るんだよな。なら,この案が使えるかも。
「なあ,一つ聞いてもいいか」
「はひ,いくつでもどうぞ」
「じゃあ聞くけど,エリアボスを出現させることって可能か」
「はい?」
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