幕開け

 深夜、海岸沿いの駐車場に青年達が車やバイクで集まり騒いでいる。

 車からは爆音で音楽が流れ、青年達の声で静かな海を騒がしく彩る。


 車のヘッドライトに照らされ1人、誰かが近付いてくる。


 10人程いる男達が注目するなか姿を表したのは、金髪の外国人、スタイルの良い美しい女性。


 その突然の訪問に、ここに来た疑問より男の欲望の方が先立ち、女性を囲みその欲望の視線を隠しもせず上から下まで余すとこなく向ける。


 そんな視線にもどこか艶のある微笑みを返し、男達の気分を盛り上げてくれる。


「この子を知らないかしら?」


 外国人と思ったその口から流暢りゅうちょうな日本語が流れ、女の子の写真を見せてくる。


「名前は橘花、またはこの子に関わった男を3人探しているのだけど、だれか──」

「そんなことより──」


 1人の男が女性の言葉を遮り喋ろうとしたが、その頭が地面に転がってしまい最後まで話すことが出来なくなる。


 辺りを切り裂くような風が吹いたと思うと、爆発音と共に車やバイクが真っ二つに切り裂かれる。

 さっきまでご機嫌に鳴っていた音楽も車のライトも消えて、闇と静寂が支配を広げ始める。


 目の前で起こった事にパニックになった男達は悲鳴をあげ、散り散りに逃げ出すが見えない何か壁のようなものに阻まれてしまい、その見えない壁を叩きながら必死で叫ぶ。


「結界の中だから逃げられないわよ。それよりわたしの質問に答えてくれないかしら」


 女性は1人1人近付き質問しては辺りを血で染め上げていく。

 ただ暗くて何が起きているかは男達には分からず、暗闇の中に断末魔が響くだけである。

 その断末魔が聞こえる度に男達は怯え震えることしか出来ない。


 1人の男が逃げようとするが、足が言うことを聞かず、逃る意思に逆らうようにもつれ地面に転がってしまう。

 背中の切られた傷が熱い痛みとなって夢で無いことを教えてくれる。

 首にあたる冷たい刃が自分の命を握っているのだけは理解できた。

 そんな中、必死に思い出す。この女性の求める答えがないか……。


「か、かり、苅山、けん、憲治がなんか言ってた気がする、こ、この間、女を襲ったとかどうとか……その写真の子かはわ、分かんないけど」


 男が女性に対し自分の知っていることを祈るように目の前の女性へ伝える。


「あら、有益な情報ね。居場所も教えてもらえるかしら?」


 この後必死で居場所を教えた男が逃がされる事はなく、愛をもってゆっくり解体されていく。


…………

……


 ここまでの一部始終を近くの防風林の松林から見ていた。


 天使による粛清しゅくせい。初めて見た日は吐き続けたけどもう慣れた。

 今は冷静に見れる程だ。


 トリスが使う結界は何をしても周囲に気づかれることはなく、死んだものは結界の破棄と共に消せる。故にこの惨劇の証拠も残らない。

 それに天使は武器が召喚出来て出し入れ自由なので凶器が見つかる事もない。


 ***


「はい、これ住所。今度は当たりだと良いわね」


 赤く染まった手から一枚の紙が渡される。

 紙には住所と名前が書いてある。震える手で必死に書いたのだろう、何度も塗り潰して訂正した後がある。


「ありがとう。これが始まりだと嬉しいな」


 血に染まった紙を大切そうに抱きしめ、これからの事に思いを馳せる私を見てトリスは優しく微笑んでくれる。

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