7話.いただきます
4限目までの授業が終わって今から給食の準備をしようと職員室での作業を一度
中断して教室に戻ろうとしていた時、初等部1年生の国語教師が職員室に入って
来た。私を見るなり近付いてくる。
「さっき能力科の授業だったんだけど、意味わからない発言をする子がいて凄く
困るの。舞海 言葉って子。当てたら訳の分からないこと言い出して。」
あの子の事か。でも令君が何か言うはずだし、意味は分かると思うけど。怒って
いるのは自分がただ気に食わなかっただけなのでは無いかな。
「すいません。私の方から指導しておきます。」
まだ波風立てていい時では無い。いずれ特進科のお前が受け持つクラスと全面戦
争してやるから覚えておけよ。
「本当に嫌だわ。」
わざわざ私に聞こえる様に吐き捨てる必要無いと思うけどね。人間としてどうか
と思う。私は無理やり心を落ち着かせて能力科クラスに戻る。
「先生、今から給食だよ。遅かったね。」
教室に入った途端に私に話し掛けてくれたのは令君だった。私は皆にごめんねと
謝った。遅れてしまったのは本当に申し訳ないと思っていたから。給食はワゴン
に載せられて各教室の前に運ばれてくる。まだ給食の準備の仕方が分からない子
たちだ。私がいなければ給食の準備は滞ってしまう。
「じゃあ給食の準備をしようか。」
私はワゴンを教室の中に引き入れる。給食当番の子達に配膳の方法を教えて1つ
ずつ丁寧に皿へと配膳させる。時間が掛かってしまう分綺麗に皿へと盛られるた
め、見栄えは完璧。20人分の配膳は結局10分ほどかかってしまったが、皆が
楽しそうな顔をしているのを見ると嬉しい気持ちになる。
「手を合わせて、いただきます。」
今日は今年度初の給食。峰万理ヶ丘学園の給食は本当に最高だ。食の世界でも有
名なほどの給食が提供される。私はこの給食を人生の半分食べて来た。12年間
また食べるのだ。中々幸せ。
「先生、お代わりってありますか。」
蚊の鳴く様な声で私に話し掛ける彼は桐野 安嶌君。内気な男の子だ。彼は自分
から動くことが苦手な子。安嶌君が自分から言うってことは余程食事が好きなの
かも。
「あるよ。何をお代わりしたいの?」
安嶌君は皿を指さす。コーンスープが入っていた皿で、私は彼の皿を取って配膳す
る。お代わりを入れた皿を彼に返すと笑顔になってくれた。
「ありがとうございます。」
安嶌君にお礼を言われて私も嬉しくなる。児童たちはまだまだ小さな子供。可愛く
ないはずがない。私は残っていた自分の給食を食べ終えると児童達を見渡す。何だ
か火が見えた。見間違いかと2度見すると本当に火が焚かれていた。
「藍月さん、何で火を焚いてるの?」
不知火 藍月さんは皿を熱しているようだ。冷めたスープを再加熱しているっぽい
けど皿ごとは破天荒な子ね。
「冷めてしまったから食べにくい。」
端的な言葉を投げかけられると反応に困る。まあ良いでしょう、別に誰かに危害を
加える様な行為でも無いし面白いから咎めたりはしない。火にかけられて焦げたり
融けたりする材料で出来た皿じゃ無いしね。
「食べ終わった人から食器なおそうか。」
私は教卓から説明した。食べている途中の子も食べながら聞いてくれていた。
「手を合わせて、ごちそうさまでした。」
一度全体で給食を終わりと区切るチャイムが鳴ったため皆で言う。しかしまだ食べ
きれて無い子は食べ続ける。どうしても無理な子は残しても良い事になっている。
私は職員室に必要な物を取りに行く。美味しかったな。
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