第4話 世界に足りないもの
「――じゃあ、ほかの星を創って、そこにも文明を創れば、お互いに協力させることはできないか?」
この日も創造主たちは会議を行っていた。
「発想は良いけど、あまり現実的ではないわ。現時点では生命の維持に酸素を使うことになっているから、まず重力と酸素濃度を揃えないといけない。そうしないと、星に進入できても体が動かせなかったり、酸素中毒を起こして死んでしまったりするわ」
部屋の中央に簡易的なシミュレーションが表示された。
「片方は私の世界に居たタニシ? みたいにして、水の中に居させるのは? 水の中なら重力の影響は小さいんでしょ?」
「あなたは宇宙の彼方からタニシの騎士が来たらどう思う?」
「タニシの騎士様は……いや、無理です」
シルヴィアは貝の中の物体を想像し、身震いする。
「やっぱり、片方を違う姿にするとお互いを受け入れられない、っていうのが問題だよな。だからと言って2つの星で同じ姿の生命を同時に創るのは無理があるし……この発想はどうにかできないのか?」
「それはテレジアが研究していたはずよ」
イデアがそう言うと、テレジアは慣れた手つきで各データを統合し、研究結果として表示した。
「はい。結論から言うと、無理でした。やはり文明が繁栄するためには、ある程度の『恐怖』と『支配』が必要です。未知に対する恐怖から逃れるために知識が生まれ、誰かを支配するために技術が生まれる。そして『宗教』が、その方向性を決める――」
「うーん、そこまではいいんだけどな……何か足りない気がするんだよ。こう、調味料的なものがさ」
アイオンが腕を組み、足を伸ばす。
「調味料? 面白い表現ね。確かにテレジアが挙げたものは、現時点において最も有効な要素。けれど、それだけではすぐに繁栄は止まってしまう。今はそれに対応し、常に新しい繁栄の種を与えているけど……」
それでも人類は滅亡する。そう言って、イデアは人間を構成する生体物質の情報を睨んだ。
「そういえば、話は変わるんだけどさ。創造主ってどうやって創ったんだ?」
「遺伝性アルゴリズムよ。大体のイメージとしては、こんな感じね」
イデアは画面を切り替え、簡単な図形を表示し、シミュレーションを行う。
≪まず一定の時間ごとに区切った空間を用意し、そこに何の才能も、何の知能もない『子』を数1000対用意する。それを特定の時間まで放置し、彼らに数100万、数1000万の試行錯誤をさせ、より合理的な思考や行動を学習させる。最も出来の良い1対からまた数1000対の『子』を創り、次の空間に移す。それを繰り返して、より完全な『子』を創る≫
「これらを極限まで行って生まれたのが創造主、あなたたちよ」
「へえ。じゃあ、人間もそんな感じで創ってるのか?」
「基本は同じね。ただ、人間の場合は『進化』という特性を与えるために、人間の形になる前にその作業を切り上げるの。つまり最後の試行錯誤は実際に生まれてから、星の中で行うことになるわ」
イデアはいつものように腕を組み、窓に背を預けた。
「つまり、その時点で『調味料』を入れることができれば……」
「そうね。それが最も有効な手段だと思うわ。問題はその『調味料』が何なのかが分からないことだけど」
「だよな……」
会議室が沈黙に包まれる。皆、上を向いたり窓の外を眺めたりして思考を巡らせているようだが、答えは見つからない。
「これ以上は駄目ね。その『調味料』については改めて検討するから、あなた達はいつも通りにデータを取り続けてちょうだい。以上」
イデアは情報を閉じ、会議の終了を告げた。創造主たちは立ち上がる。と同時に、彼らが座っていた椅子は光に包まれ、そのまま分解されるように空中に溶けて消えた。
「では、各自、世界の管理に戻って」
「はーい、じゃあまたね!」
ふわっ。シルヴィアが扉に触れ、小さな風と共に消える。
「では、失礼します」
ふわっ。シルヴィアに続いて、テレジアも元の部屋へ戻った。
「じゃあ、俺も――」
「待ちなさい」
「え?」
「あなたはここに残りなさい。いいわね?」
さりげなく帰ろうとしたアイオンを止めるイデア。
「い、いや、俺は帰ります! 生命たちが気になるし!」
「駄目よ。あなたにはこの後の、特別な会議に参加してもらうんだから。――私は、忘れていないわよ」
イデアの浮かべる妖しげな笑みが、アイオンの願いを打ち砕いた。
「うわ、殺される……」
「安心しなさい。この後の会議には輪廻も参加するわ」
「な、なんで輪廻が?」
「何かの間違いであなたが死んだら、無かったことにしてもらうためよ」
「嫌だ! こんな危険なところには居られない、俺は部屋へ戻るぞ!」
「はい、転送」
こうしてアイオンは、別世界との接触点を創ったことと、情報漏えいの危険を冒したことで転送された。この後、彼が恐ろしい目にあったのは言うまでもない。
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