第11話

「ただいまー」

「お、お邪魔します」


 私の言葉に続けるように少し遠慮がちな声が耳をついた。別に遠慮しないでいいのに、と思いつつも、先日私も同じようなことを言ったんだっけかなんて思い出して少し笑ってしまう。


「お姉ちゃんおかえり」

「にーちゃんだ!」

「おにーちゃん」


 唯織の声をかき消すようにはしゃぎだす拓弥と朱莉。帰ってきた私には興味も見せず、二人は壮太の元へと突っ込んでいった。その様子に少しムッとしてしまった。誰のおかげで壮太がここにいると思ってるのよ。

 まあ、今日の主役たちなんだし、それに免じて許すけど。


「久しぶりってほどでもないけど、みんな元気だな」

「雪合戦とかしようぜ」

「えー、ゆきだるまつくりたい」

「雪遊びかぁ……体力持つ気がしないんだけど、大丈夫かなぁ」


 少し情けない声を上げだした壮太を助けるように、みんなをリビングの炬燵まで連れていく。


「あっ、そうだ。芽衣、これ」


 炬燵の魔力で少しおとなしくなったみんなの飲み物を用意していると、壮太が持ってきた手提げをそのまま渡された。


「なに?」

「クリスマスだし、一応なんか持ってきた方がいいかと思ってローストビーフ作ってきたやつ。あと、昨日選んだやつ」

「ありがと、みんな喜ぶと思う」

「ローストビーフは芽衣も食べてくれよ」

「食べるつもりだけど、何でそんなこと?」

「いや、主役は下の子たちだとかそんなこと考えて遠慮しそうだし」


 その言葉にドキッとする。私が考えていることをしれっと見抜いて、優しくしてくれるのはずるいでしょ。私のことながらベタ惚れだと思う。


「じゃあ、遠慮なく食べちゃおっかな」

「おう、そうしてくれ」

「二人でイチャイチャしてる。手伝いに来なかった方が良かった?」


 壮太と話していると、そんな声と共に壮太の影からツインテールがぴょんと出てきた。


「別にイチャイチャなんかしてないから」

「えー、本当? あぁ、でも、お姉ちゃんが普段妄想して――――」


 余計なことを口走ろうとする唯織の口を無理やり手でふさぐ。それから壮太の方を見れば、苦笑いを浮かべる顔が。


「き、聞こえた?」

「いや、聞こえなかったよ」

「そっか。まあ、それならいいけど。炬燵で二人が呼んでるから行ってあげて」

「はいよ」


 壮太が炬燵で二人に捕まったのを見届けてから、腕にすっぽり収まっている唯織を開放して視線を向ける。


「唯織、変なこと言わないでよ」

「変なことっていうか事実だよ」

「事実でも壮太の前では言わないでってこと。恥ずかしいじゃん」

「じゃあ、今度からはお姉ちゃんが気持ち悪い話にするよ」

「そんなことばっかり言ってると、壮太からもらったローストビーフ、唯織の分をみんなで分けるよ」

「言わない、言わないから。それはやめて」


 本気で焦る唯織に、じゃあこれ持ってとお盆に乗せた飲み物を持たせ、手提げはキッチンに隠して炬燵へと戻る。


「姉ちゃんたち遅い」

「おそいー」

「ババ抜きするんだってさ」


 炬燵の上には二人分の手札が配られており、準備は万端らしい。膝に朱莉を乗せた壮太の隣には拓弥がしっかりと陣取っている。我が家に壮太が馴染んできたことに少しの嬉しさを感じて壮太の前の手札を手に取った。





「遊んだねー」

「まあ、そうだな」


 朱莉と拓弥が負けないように、でも、それを悟られないようにと手を尽くしていた壮太はそれなりにお疲れのようだが、二人はまだまだやる気らしい。


「今度は何する?」

「まあ、ちょっと待ってよ」


 私が声をかければ二人は、少し不満げな目を向けてくる。しかし、それも言葉を続けた瞬間に輝かしいものに変わる。


「クリスマスだし、壮太と私からプレゼントがあるから」

「おぉ!」

「やったー。おねえちゃんもおにいちゃんもだいすき」


 素直な二人ともらえるとも思っていなさそうな唯織に、壮太から預かってたプレゼントを順番に渡していく。

 二人は元気よくありがと! と言って壮太に頭をなでられているが、唯織は目をパチクリとさせるばかり。


「私にもあるの?」

「そうだよ。唯織はなんだかんだで我慢する側だけど、こういうときくらいはね」

「ありがと、お姉ちゃん、雨音さん」

「ま、気に入ってもらえれば何よりだ」


 楽しげに開封作業に入った三人を見ながら、壮太の横に座る。


「喜んでもらえてよかったね」

「そうだな」

「そういえばさ、祐奈ちゃんからもらってたペンなんだけどさ」

「あー、芽衣も気づいたか」

「多分そうじゃないかなって思っただけなんだけどね」


 壮太は少し笑いながら、その予想通りだぞ、と件のペンを見せてくれる。そのシルエットは私が愛用しているペンと同じで色が違うだけ。


「芽衣の誕生日に俺がプレゼントしたやつの色違いだよ」

「名入れのフォントまで一緒って、どれだけ仲良いの?」

「いや、俺もびっくりしてるんだけど。まあ、でも、こんな形でお揃いが増えるなんてな」

「それ、祐奈ちゃんが聞いたら不機嫌になるよ」

「まあ、本人の前では言わないでおくけど」

「でも、アレだね。あの時からだいぶ変わったよね」

「そうだな。あの時の俺にこうなるって言っても信じないと思うわ」


 それは多分私もだと思う。そう答える代わりに、壮太の手をぎゅっと握りしめれば、また二人の空間作ってると唯織からのヤジが飛んできて、玄関からはただいまー、と二つの声が聞こえた。

 クリスマスはもう少し続くようで、のんびりと過去を懐かしむ時間はなさそうだ。

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