第4話
クリスマスをかけた期末試験はあっさりと終わり、週明けの月曜日。人だかりができた廊下に芽衣と俺、篠崎と若宮さんは来ていた。
こちらの人だかりは、
隣にいる篠崎がそうならなければいいのだが。
「篠崎君、大丈夫かな?」
前の悲鳴を聞いた芽衣が袖を引いて、そんなことを聞いてきた。篠崎は顔色を二転三転させながら、人だかりに視線を向けては背けてを繰り返している。
「知らん。見てやれるだけ見たけど、それ以外でどこまでやったかだな」
少し意地悪くそんなことを言えば、篠崎は壊れたロボットのように首をギギギと回してこちらを見てくる。
進級早々留年にリーチをかけたりもしたが、最近は安定して点数が取れてきたし、七割くらいは冗談のつもりだ。
「和也君、ちゃんとやってたんだし平気だよ」
若宮さんが篠崎を元気づけようとするが、少しサボったりもしたのか、顔色はあまりよろしくない。まあ、大丈夫だと思うよ、多分ね。
そうこうしているうちに補修者リストの目の前にやってきた。
現代文、古文、数学……と横に並んだ教科名の下にそれぞれ数人の名前が書かれている。隅から隅までしっかりと目を通していくが、見知った名前は見当たらない。
「雨音! 俺はやったぞ」
俺が確認を終えて安どのため息をはこうとしたその瞬間隣から衝撃がやってきた。肩をつかまれ激しく揺さぶられる。入試の合格発表の時を思い出すような衝撃を与えてきたのは、一番の不安要素だった篠崎。
「分かったから離れろ。ってかなんで真っ先に俺に飛びつくんだよ」
「いや、雨音に一番世話になったしな」
「さようで。まあ、良かったな」
満足げに頷く篠崎と真っ先に飛びついた相手が俺であったことに文句を垂れる若宮さんは放っておいて、もう一方の成績表を見に芽衣と足を進める。
「とりあえず皆補修回避できて良かったね」
「だな。まあ、俺も芽衣もよっぽどのことがない限り平気だとは思ってたけど」
「あれだけ勉強したもんね。もしかしたら、今回は壮太がトップなんじゃない?」
「だといいんだけどな」
毎回満点の委員長に勝てるかといわれたら、自信はほとんどない。とはいえ、いつものメンバーで成績あがってないの俺だけだし、順位を上げたいとは思っているけれど。
リノリウムの床を鳴らしながら歩いていると、先ほどより大きな人だかりがざわめきと共に待ち受けていた。
「すごいね、これ」
「だな。なんかもう見ないでもいい気がしてきた」
「えー、せっかくここまで来たんだし、私は名前があるか探したい」
芽衣の言葉に折れる形で、人だかりの最後尾に就ける。
眼前の人だかりのせいで息苦しさと暖かさを感じながらも、少しずつ前の方へと進んでいく。
「え?」
ようやく紙が見えるあたりまでやってきたところで、思わず声が出た。
尋常じゃない人混みとざわめきの理由は、一番上にある名前がいつもとは違うかららしい。信じられずに何度か見てみるが、書かれているものは変わらない。
「壮太、おめでと!」
先ほど感じた衝撃よりかはいくらか柔らかいが、似たような衝撃が呆然としている俺を祝福の言葉と共に襲ってきた。
「お、おう。なんか実感湧かないけど、ありがとな」
「実感湧かないって、一位だよ、一位」
張り出された紙の一番上には雨音壮太900点の文字。9教科の期末試験で取れる最高点だ。いつもこの場所に名前を連ねていた委員長は、一つ下に900点をぶら下げて書かれていた。五十音順のおかげで一番上になったらしい。
「これはもうお祝いでしょ。私も32位まで上がってたし」
「マジで? 頑張ってたもんな。おめでとう」
「うん、ありがと。でも、まだまだ頑張るから」
やる気に満ちている芽衣をみながら、今度一緒に参考書でも見に行こうかと思っていると、遠くからもうすぐ授業だぞと聞きなれた声が聞こえてきた。
「おっ、雨音に廣瀬か」
人ごみを散らしながら声をかけてきた宮野先生に軽く会釈すれば、背中をドンと叩かれる。
「試験お疲れ様。二人ともいい結果だったようで何よりだ。篠崎も補修を回避してくれたし、私としては良かったよ。本当によく頑張った」
「はぁ、ありがとうございます」
「やっぱり君たち二人は互いにいい影響をあたえあっている気がするよ」
「そうですかね」
「まあ、多少は人目を気にしてほしいが」
宮野先生の視線の先には、俺の手を握りしめている芽衣がいる。その視線に気づいて慌てて手をほどく。
「最初は雨音が廣瀬にいじめられているのかと思ったが、こうなるとはね」
「私が壮太をいじめるって、先生にはどう映ってたんですか」
いや、なんというか、スクールカーストの差もあったし、突然関わりだしたからじゃないですかね。俺もいじめられるのかと思ってたくらいだし。
「なに、ちょっとした冗談だ。もう授業だし、二人も早く教室に行くんだ」
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