第31話
ついに修学旅行も最終日。長いと思っていた修学旅行も、ちょっとお土産を買って帰るだけとなってしまった。
朝食をササっと済ませ、まとめた荷物の最終確認を。そのまま荷物を持ってロビーへと降りれば、最後の自由行動で一緒にお土産を買う約束をした芽衣が待っていた。
「悪い。待たせた」
「私もさっき来たところだから平気だよ」
篠崎と若宮さんは昨日の段階でお土産も買っていて、ホテルのラウンジで仲良くお茶をしてから駅に行くらしい。この自由時間は他の生徒も俺たちと同じように慌ててお土産を買うか、篠崎たちのようにゆっくりするかで二分されてる。稀に駅周辺の観光スポットに行く猛者もいるが……。
前者は皆一様にロビーで集合し駅へと向かっていく。
「じゃあ行くか」
「だね。お土産まだ全然買えてないもん」
俺らも周りに倣って駅へと足を進める。自由時間は2時間近くあったはずだし、焦らずとも最低限は買えるだろう。
「壮太は何買うの?」
「なんだっけな」
携帯を操作し昨晩寝る前に送ったメールの返信を表示させる。母さんからの返信は祐奈が買わなかった有名どころの京土産がつらつらと。全部は買えないだろうし、買ってくるとも思ってないだろうから適当にピックアップして買えばいいだろ。そんなことを思いながら最後まで適当に流していく。
最後の数行には、芽衣と祐奈、ついでに俺の顔を見に行くからお土産は送らなくていい旨と、修学旅行中の芽衣との色々を渡したお金の分しっかり話してもらうと書かれている。なんなら、お土産買うのもそっちのけで楽しんだんだろうし、これだけでいいまである、とか書いてあるよ。ってか息子の俺はついでか。
「何書いてあったの?」
画面をそのまま芽衣に見せてスライドしていくと、あー、という声がいくらか出た後、ふふふと笑みをこぼす。
「あれだ。母さんに付き合ってやってくれ」
「うん、絶対予定空けとく。約束してたし」
「いや、都合がいいならでいいんだぞ。ってか、約束してたって何?」
俺の知らない間に二人でなんか約束してたの? いや、祐奈も含めて三人かもしれん。なにそれ、俺の周り完全に囲まれてるじゃん。
「夏休みに遊園地行ったじゃん」
「ああ」
そういえば、集合の時に母さんと少し話してたっけ。初見じゃないのね。
「その時にね。壮太と付き合うことになったらお茶しましょって約束してたの」
あの時はそんな話をしてたのか、へー、くらいに思っていると京都駅についた。
「芽衣は何買おうと思ってるんだ? 俺はあんな感じだから適当でいいんだけど」
「ちゃんと選んであげなよ」
「どうしてもってのは祐奈に頼んでたみたいだからなぁ。芽衣について行って気になるのがあれば俺も買うって感じにはしようと思う」
まだ消化が終わってない京都土産うちにあるからね。
「私はたくさん入ってるお菓子とあぶらとり紙買おうかなって思ってるけど。頼まれてるし」
「じゃあ、あれか。お菓子と言ったら八つ橋とか」
「そうだね。朱莉と拓弥も食べそうなやつがいいんだけど」
まあ、あの二人の口に大人っぽいのは合わないだろうな。
「二人の地域限定版とかでもいいんじゃない? 大人っぽいのはまた今度ってので」
「あー、その方がいいかもね」
そんな会話をしながら土産物屋をいくつか冷やかしては、たまに買ってを繰り返す。
「あっという間だったね」
買い物はひと段落付き、集合時間までに残された時間もそう長くはない。どこかでゆっくり、なんてことはもうできそうにないので、チェーン店で買ったコーヒー片手に京都駅の屋上へと来ていた。
「そうだな。なんだかんだあったけど楽しかったし」
「良かったね」
おう、と返してコーヒーをあおる。
見渡せる街並みは、かつてこの国の中心だったころからの碁盤状に走る道と寺社仏閣、そして空いた隙間を埋めるように近代的な建物が並んでいる。
今と昔が交じり合う非日常チックな街をどんな感じに廻ったのかと視線で追えば、いつも変わらぬ笑顔が隣にある。
「壮太、もうすぐ時間だよ!」
「マジで?」
非日常の中にもある当たり前をしみじみと噛みしめていた俺だが、そんなことより、土産物も追加されすっかり重くなった荷物を両手に抱え、大階段を下るのが急務みたいだ。
最後の最後で締まんないなぁ……。
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