第29話
修学旅行も早いもので三日目。今日は修学旅行でも一番楽しみにしていた嵐山周辺の散策という名の食べ歩きだ。芽衣は特に楽しみにしていたらしく、昨日の疲れを感じられないほどテンションが高い。
終点の嵐山駅で観光客とともに電車から吐き出されて少し歩けば、どの季節も人気の観光スポットたる渡月橋が見えてくる。渡月橋の紅葉と言えば、見た目は子供な名探偵の映画の主題歌のイメージだな、などと思いながら、楽しそうに会話を繰り広げている芽衣と若宮さんの後ろを篠崎とついていく。
「和菓子とか抹茶味が多いね」
最初の目的地に着いたのか、店の前の行列に並びだした二人の後ろに並ぶと、芽衣が振り向いてそんなことを言ってきた。
「まあ、京都っていえば和って感じするし、そういうのもあるんじゃないか?」
「確かに。京都の空気でキラキラした感じのって合わなそう」
「まあ、落ち着いた雰囲気の街だしな」
そんなことを話していると、列が進んで店内へと案内される。
「この後はどうするんだ?」
注文を済ませスイーツを待っている間に、この後の周り方の話になった。芽衣と若宮さんはそれぞれ気になるところはあるみたいだが見事に逆方向らしい。
「いっそ分かれて回るってのはどうだ? せっかくだし菜々香とデートしたい」
「ちょっと和也君」
篠崎ナイスだ。俺も芽衣と二人で回ったりしたかった。修学旅行がはじまってから、俺の中の篠崎の評価が上方修正され続けてるよ、やったね篠崎。
「まあ、いいんじゃないか。その提案は俺としても魅力的だし」
「二人でって修学旅行中は無かったもんね」
「だなー」
甘々を見せつけられるのも疲れてきたしな、と篠崎がボソッとこぼしたが、それを拾う前にスイーツが机に並ぶ。
「壮太のも美味しそうだね」
「少し食べるか? こっちも気になってたみたいだし、頼んでみたんだけど」
「いいの? じゃあ私の少しあげるね」
おう、と返事をしながらパフェを交換すると、若宮さんが何か言いたげな視線でこちらを見てくる。
「えっと、なに?」
「いや、芽衣ちゃんの事よく見てるんだなぁって」
完全に無意識にやってた、なんて言えばまたなんか言われるんだろうな。そう思いつつ、そうだなと答えて差し出された抹茶パフェをいただく。抹茶のちょうどよい苦みが甘さを引き立てて美味しい。可愛らしい見た目もあって、人気なんだというのが疎い俺でもわかる。まあ、お値段はちっともかわいくないが。
「どう? 美味しい?」
「美味しいな。甘さがくどくないから結構パクパク食べれそうだ」
「だよね! 壮太のも美味しかったよ」
だな、と返しつつわらび餅パフェをいただく。わらび餅の主張強すぎじゃない? もうわらび餅だけでいいまである、といった見た目とは裏腹に、わらび餅を引き立てつつも、しっかりとほかの食材も口の中でその存在を主張してくる。
どっちもおいしいが、抹茶の苦みがない分こっちは子供向けなのかもしれない。
そんなことを考えながら、食べては喋ってを何度か繰り返しているうちにスイーツが盛られていた器は空になった。
「じゃあ、またあとで」
「なんかあったら連絡するね」
会計を済ませ外に出ると、間もなく2人はこの場を後にした。
高校生の班行動が崩れるのなんてよくあることだろうし、点呼にそろっていれば何も言われないだろう。
「じゃあ行こー!」
「おー」
いつものように仲良く腕を組んで去っていった二人の背中が見えなくなったのを確認してこちらも、芽衣のコールとともにこの場を後にする。
せっかくだからということで、人力車に乗って渡月橋の向こう、嵯峨野の方へと向かう。人力車を引くお兄さんは、豆知識やこの辺のまわり方のコツなどを教えてくれる。一番気になるのは、なんで結構な速度で走りながら普通に喋れるんだってとこなんだが。
人力車に乗って赤く色づく嵐山を見て回れば、昔ながらの寺社も多く目につき、そのたびにタイムスリップをした気になる。ちょっと高めだからと却下されたレンタル着物を芽衣が着ていたなら、写真を撮りまくって短歌とか詠みだすまである。
「いやー、面白かったね」
「ああ。豆知識とか普通に感心したしな」
そう距離のない移動はあっという間に終わり、オルゴール館のあたりに降り立つ。辺りはこぎれいに舗装されており、少し向こうからは連なった食べ物屋から食欲を掻き立てるいい香りが。先ほどまでの俺たちと同じように威勢の良い人力車に揺られる人たちの姿も珍しくない。
「とりあえずこの辺散策しながら戻っていくって感じでいいか」
「そうだね。気になってるお店もこの通りにあるし」
「じゃあ行こうぜ」
昼飯を諦めた俺たちは、香りに釣られるがままに肉まんやコロッケを買っては頬張り、工芸品屋に土産物屋を覗いて回り、思い出したように喫茶店でスイーツを楽しむ。
京都じゃないと出来ないって訳じゃないが、流れていく時間はとても心地よい。
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