第27話
聞きなれないアラームで早めに目覚めた今日は修学旅行二日目。携帯の持ち主はアラームで起きることはなく、朝食の時間ギリギリにようやく目を覚ました。
起きられないなら目覚ましは設定しないでいただきたい。そんなことを思いながら一汁三菜が揃ったボリューミーな朝食を食せば、一休みする間もなく班行動がはじまる。
「今日はどの辺行く?」
「東の方は昨日回りきった感じがあるし、別のとこならどこでもいいよ。雨音君と和也君は行きたい場所あったりする?」
芽衣と若宮さんに話を振られ、まずは篠崎がいつもの調子で、旨いものが食えればどこでもいい、と答えた。
ここまで平常運転だと安心感がすごい。もちろん残念さがだけど。
「俺は北野天満宮に行きたい。まあ、無理そうなら行かなくてもいいが」
今年は祐奈が受験だし、来年は俺らも受験だ。神に頼まずともいいくらい勉強するつもりだが、それはそれとして祈っておきたい。
「今年は祐奈ちゃんが、来年は私たちが受験だもんね」
「そうなんだよ。だからな」
お土産は美味しいスイーツと芽衣との思い出話でって言われてるが、北野天満宮には行けなかったらしいし、祐奈の分も祈ってお守りと鉛筆でも買って渡せば喜ぶだろう。
「いいんじゃない。その辺だと金閣もあるし」
「じゃあ、行こっか」
若宮さんと芽衣が賛成してくれたのもあって、午前中は俺の案が取り入れられた洛西エリアの散策となった。
目的地が定まれば移動がはじまる。ほかの班も今日の予定が定まったのか、揃ってホテルのロビーから見慣れた制服姿がいなくなり、少し歩いた先にある駅前のバス乗り場で観光客とともにバスを待っている。
「混んでるね」
「まあ、一日乗車券安いし、バス網発達してるからな」
やってきたバスに乗り込むが、ぎゅうぎゅう詰めだ。酸素薄くない、大丈夫? とか心配しちゃうレベル。乗車率は分からんが、都内の通勤ラッシュに匹敵すると思う。
「芽衣、大丈夫か?」
「うん。おかげさまで」
なんとか腕の中に避難させた芽衣に声をかけると、少し上目遣いになる形でそう答えてくれた。俺の正面では、俺と似たような状態で若宮さんを守っている篠崎が若干参った顔をしている。
まあ、さっきから踏まれそうになったり、肘入れられたりしてりゃそういう顔にもなるだろう。まあ、背中合わせに立っている芽衣と若宮さんは、ノーダメージみたいだし、これは名誉の負傷ってことで。
まだ最初の移動だというのに疲れ果て、ボロボロになった体を引きずってバスの外へ出る。最初の目的地は鹿苑寺になった。北野天満宮に行く予定だったが、バスから降りそびれた結果だ。
芽衣に大丈夫か聞かれ、かろうじてな、と答えたりしつつ境内を散策した。見える景色は紅葉も相まってすごいものだが、目的の金閣を見てしまえば、何となくやり切った感が心を満たしだす。
それはほかの面々も同じだったようで、鹿苑寺の散策は比較的あっさりとした感じだった。寺に詳しいわけでもなければ、興味がすごいあるってわけでもないし仕方ない。修学旅行前に篠崎が言った、景色とかスゲーくらいしか感想浮かばないって話はどうやら俺もらしい。
金閣から10分ちょっと。ゆったりとした坂を歩いて下っていくと見えてきたのは俺が希望した北野天満宮。
「ここが雨音が来たがってた場所か。すごい場所って感じはしないけど」
「学業を司る神ってことで菅原道真が祭られてるからな」
「ほーん。でも、そういうのを祈るタイプじゃないだろ」
もう3年近く友人をやってるだけあって、俺のことを少しは理解してるな。
「だから、さっきも言ったけど祐奈が受験だからな」
「あー。そういえばそんなことを言ってたな。俺も祈っといてやるよ」
「お前はまず自分の頭がマシになるよう祈れ」
篠崎の気持ちはありがたいが、マジで自分の頭をマシになるように祈っていただきたい。この間の試験もスレスレだった訳だし。
そんな話をしながら参拝を済ませ、お守りを買うために列に並ぶ。
「唯織にも買っていこうかな?」
「いいんじゃない。勉強頑張ってるみたいだし、応援されてるってわかったらもっと頑張れるんじゃないの?」
「確かにそれはあるかも」
そうこうしているうちに、俺たちの順番が回ってきた。とりあえず、ささっと買い物を終え、なにも買っていない篠崎と若宮さんのもとへと戻る。
「すまん、待たせた」
「ごめん、おまたせー」
俺と芽衣に、そんな待ってないからな、と篠崎が返すと、二人は何買ったの? と興味を示す若宮さん。
「お守りと鉛筆だな」
「私もそんなもんかな」
「まあ、そんなもんだよね」
「終わったなら次行こうぜ。そろそろ腹減った」
篠崎の台詞で時計を見れば、もう昼を回っている。いい時間だということで駅に戻って軽く食べる運びとなった。
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