第17話
近代オリンピックの父が広めた言葉を使ったりして、体育祭に参加することへの異議を唱える気はさらさら無いのだが、何のためにやるんだ、とは思ってしまう。
こんなことを思う原因になったのは
「何にするんだ?」
俺が参加希望種目アンケートを眺めていると、正面に座る篠崎がそう聞いてきた。
「障害物競走だな。個人的には一番マシだ」
「一番マシって、おい」
「目玉種目やらが軒並み無くなった以上、この中で目玉種目になるならリレーだろ。それは無理だし、走るの速くない俺が短距離走やって、実況に頑張ってくださいって言われながら一人遅れて走るのもなかなかにしんどい。その点、障害物競走なら、みんなグダグダだからな」
芽衣にかっこ悪いところはあんまり見られたくないし。その点、篠崎は体育祭かっこいいとこ見せる場所になるから羨ましい。
「理由が消極的すぎる」
「てか、なんで目玉種目とか楽なのなくなったんだろうな?」
「それはね、あちこちに配慮したり、色々あったからなんだよ」
昼休み。中庭の片隅で、篠崎とともに芽衣と若宮さんを待つがてら駄弁っていると、やってきた若宮さんが会話に声が割り入ってくる。
「配慮ってなに? 台風の目は、台風で被害にあった人にあれだから、とか?」
「そうそう。借り物競争は紛失事件につながるとか、パン食い競争は不衛生だ、みたいな感じ。で、目玉種目の騎馬戦は、生徒が怪我したらどうするんだっていう保護者からの声があって」
若宮さんと一緒にやってきた芽衣が買ってきてくれたお茶を一口飲んでから、やめちまえよ、と口にする。
なんだよ、もうそこまでいろいろ言われるなら、体育祭やめようよ。その分、休みを伸ばしてくれ。走るだけならマラソン大会やるんだし、それでいいじゃん。
「なんていうか、アレだね」
「行き過ぎた配慮の末路だよ。あちこちから寄せられたそういうのが、実行委員だけじゃどうしようもなくて、先生と私たち生徒会まで加わって話し合ったんだから」
「その結果がこれか」
次は、なにに配慮するんだろうか。なんかもう、行きつく先が、手をつないでゴールする徒競走とかいう都市伝説とかになりそうだ。生徒の主体性をはぐくむ、とかなんとかを校風にしている学校とは思えないぜ。
「部活対抗リレーが残ってただけマシかもね」
「その部活動対抗リレーにもいろいろ制約が」
「もうやめようぜ、この話。考え出したら頭が痛くなってきた」
芽衣に弁当箱を渡して、手を合わせてから弁当箱を開く。莫迦な話は飯食って忘れるに限る。
「このハンバーグが、昨日壮太が作ってたやつ?」
「そうそう。ロールキャベツのタネの余りで作ってたやつ。かさ増しでレンコン入れてるけど」
レンコンの食感がいい感じのアクセントになってる一品だ。祐奈の好物だから、というのもあって、我が家でハンバーグと言えば、こっちの方が真っ先に出てくる。
「美味しい。あっさりしてて、食べやすい。何個でも行けそう」
「そっか、良かった」
「なんで、廣瀬さんは雨音が昨日作ってたのを、見てたみたいなことを? まさか、同居でも始めたのか」
「なんでそうなるの? 違うからね」
「まあ、ちょっとあって、芽衣と唯織ちゃんに夕飯をふるまったんだよ。その時にな」
「なるほど。しかし、美味そうだな」
「なんかと交換なら、まあ、1個くらい良いけど」
マジで、じゃあこれと、と言いながら、ミニトマトを1個差し出してきた篠崎に、おい、とツッコミを入れる。唐揚げが追加されたので、まあ、と交換する。
「おお、美味い。食感が面白いな」
「そりゃどーも」
「俺も料理作れるようになって、雨音たちみたいに菜々香と弁当交換したいな」
「包丁を握ったことは?」
「ないな」
俺の質問に元気よく答える篠崎。
「普段家で親の手伝いをしたりはするの?」
「してないな。部活で結構遅くなるし」
「いまからやるのはやめよ、ね? お弁当なら私作るから」
真剣な表情で、篠崎の両肩をつかんでそういう若宮さん。まあ、そうなるよな。
「お、おう。そういえば、二人ってそろそろ付き合って1か月じゃないか? なんかするの?」
篠崎が若宮さんに気圧され、逃げるようにこちらに話を振ってきた。
「なんかってなんだよ」
「なんだ、その、記念日だからーって物を送りあったりとか?」
「そういうのって1か月ごととかにやるの?」
「もっとまとまった単位でやるものだと思ってた」
篠崎の言葉にそう返す俺と芽衣。この間3週間だね、みたいなことを言ったが、アレはたまたま、あの時みたく花火見れたからしただけだしな。1か月ごとに記念日とか、ソシャゲじゃないんだからさ。もしかしたら、普通なの?
「いや、そういうのをやらないと気が済まないカップルも、世の中にはいるから聞いてみただけだ」
「途中から義務っぽくなって疲れそうだし、そんなに金がない」
「身も蓋もないな」
「私も毎月とかになると厳しいかな。それに、記念日ってなんか特別じゃん。だからそういうのは年に1回とかの方が特別感が保たれると思うの」
「そこは、ちゃんと祝うとかすればな」
「二人はそういうところも息ピッタリなんだね」
芽衣と顔を見合わせてると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
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