美少女ギャルの罰ゲーム告白見抜いて許したら絡まれるようになった件

第１６話

　普段より少し早めだが、台所に立つ。とりあえず米を炊飯器にセット、エプロンを着て、食材を冷蔵庫から取り出す。芽衣は自分のカバンから取り出したエプロンを身にまとって準備万端だ。

「私はどうすればいい？　ロールキャベツ初めて作るけど」

「とりあえずキャベツを軽く茹でる」

「軽く？」

「１、２分かな。芯が少し柔らかくなるくらいまで」

　なるほど、と言って芽衣がキャベツをゆでる。

「何作るんですか？」

「ロールキャベツだよ。唯織ちゃんの好物って芽衣が言ってたし」

　リビングからそう聞いてきた唯織ちゃんに答えると、楽しみです！　と少し弾んだ声で返ってきた。

「まあ、期待に応えられるように頑張るよ」

　キャベツが茹で上がったので、少し粗熱を取る。その間に、芽衣にはタネの材料をボールに入れてもらう。芽衣が色々と軽量してる間に、玉ねぎをみじん切りにしておく。横に並んで作業していると、一緒に料理しているんだなぁって実感が湧いてなかなかに嬉しい。

「壮太すご」

「何が？」

「包丁さばきだよ。調理実習の時、莉沙たちがすごかったって言ってたけど、これほどとは」

「まあ、慣れればこんなもんだよ。はい、玉ねぎ。これも入れて混ぜてその間に、キャベツの芯を巻きやすいように削いどくから」

「任せて」

　そんなに難しいものでもないし、分担しちゃうとやることもうほとんどないな、とか思いながら作業する芽衣に目をやる。

「なんかミスっちゃった？」

「いや、そんなことはないよ。ただ終わったから見てただけ」

「早いよ。こっちも、もう混ぜ終わるけど」

「じゃあ、包むか。そんなに難しいわけじゃないから、凝視しないでも平気だ」

「家でも作りたいし、覚えないと」

「お母さんも作ったりするんでしょ？」

「お義母さん呼びはさすがに、その、まだ、気が早いっていうか、嬉しいけど」

　プシュー、という擬音が似合いそうな感じに芽衣が顔を赤らめ、ぼそぼそと言っている。

　芽衣さんや、俺は芽衣のお母さん的意味で言ったんであって、そういう意味じゃないよ。そう呼んでもいいって言われたけど。

「おーい、芽衣、大丈夫か？」

　芽衣につられて照れないように、一呼吸おいて冷静になってから声をかける。

「う、うん」

「じゃあ、やっていくぞ」

　広げたキャベツにタネを乗せ、四角く畳む。ほぐれ防止のために、折ったパスタ麺でとめてやる。

「はい、完成」

「おお、すごい」

　芽衣と一緒に残りも作っていく。とはいえ、大した労力でもないから、あっさりと出来ていく。包んだのは、鍋に入れていく。

「全部できたけど、あとはどうするの？」

「鍋に水入れて、沸騰したら味付け。火を弱めてしばらく煮込めば完成だから、もうほとんど終わり」

「えっ、それだけ？」

「そう。思ってたより簡単でしょ」

「これくらいなら、パパッと作れちゃいそう」

「芽衣なら、すぐにパパッと作れるようになるよ。軽く、サラダとちょっとも作っとこうか」

　芽衣と一緒にまた料理に取り掛かる。そんなにがっつり作るわけじゃないが。

　盛り付けが終わったロールキャベツやご飯を机の上に並べて席に着く。いつも祐奈が座る俺の正面には芽衣が、その横に唯織ちゃんといった感じの席順だ。揃って手を合わせ、いただきます、と一言。

「美味しい」

　ロールキャベツを一口食べた、唯織ちゃんがそう口にする。

「それは良かった。おかわりもあるから遠慮しないで食べてね」

「本当ですか！　ありがとうございます」

「もう、唯織ったら。でも、ほんとにおいしいね」

「ありがと」

　俺もロールキャベツを一口食べる。別にいつもと作り方も分量も変えてないのに、いつもより少しおいしい気がしたのは、芽衣がいるからだろうか。

「そういえば、さっき壮太が作ってたやつは無いんだね」

「あれは明日の弁当用だからな。楽しみにしといてくれ」

「夕飯の余りをお弁当のおかずにアレンジって、料理できるって感じですごいね」

「芽衣もそのうち、これはアレンジできそうだな、とか思うようになるから。最近は料理も頑張ってるのは分かるし」

「そうかな？」

「ねえ、お二人さん。私もいるから、二人の世界に入り込むのはちょっと」

　唯織ちゃんの言葉に、そんなことないから、と言う芽衣。

　この間も、祐奈に同じようなこと言われたし、そんなことはない、という自信が少しずつ揺らいでいく。ただ、入り込んでる自覚はないんだよなぁ。打ち上げの後のは自覚あったけど。

「でも、良かったじゃん、お姉ちゃん。夕飯作るのとか手伝って、朝も早起きした甲斐あったんじゃない？」

「壮太はいつも美味しいって言ってくれるし、褒めてくれるよ」

「そりゃ、毎朝起きて作るの大変なのは俺も知ってるし、美味しいもんは美味しいって言うよ」

「雨音さんのそういうのが自然に言えるのって、すごいモテそうですよね」

「全然モテないよ。まあ、俺には芽衣がいるだけでいいけど」

　顔を赤らめる芽衣に、そういうところですよ、と言いたげな視線を向けてくる唯織ちゃん。その視線から逃げるように、残り僅かなご飯を食べて、手を合わせる。

　食後の一服も済ませたところで、時計を見るともういい時間だ。

「送ってくよ」

「仕事終わったお父さんが迎えに来てくれるって言ってるから大丈夫だよ」

「それ、挨拶した方がよかったりするよな」

　昨日茶化されたような話がいつか現実になるなら、確実に対峙しなきゃいけないラスボスになるんだろうけど、さすがに対面が早くない？

　そんなことを考えていると、無慈悲にもインターホンの音が鳴る。モニターに映るのは、人のよさそうなかんじのおじさん。とりあえず、返事をして荷物をまとめた二人とともに玄関を出る。

「娘たちが世話になったね。ありがとう」

　芽衣と唯織ちゃんが車に乗り込む中、お父さんが話しかけてきた。

「いえ、そんな。こちらこそって感じです」

　少し沈黙ができ、なんかやらかしてしまったのか、と冷や汗が背中をつたる。

「あー、その、なんだ。君の話はいろいろと聞いているんだが、何から話したらいいか分かんなくてな。まあ、これからも芽衣や、うちの家族をよろしく」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「じゃあ、今晩はこれで。また、時間が取れる時に話そう」

「はい」

　お父さんが車に乗り、それから間もなく、車が動き出す。

　お父さんとの会話は３分も無かったが、精神的にすごい消耗した。けど、まあ、身構えてたほどじゃなくてよかった。