第10話
文化祭1日目はあっという間に幕を下ろし、いつものように芽衣と帰ろうと思ったのだが、芽衣はあーしさんたちと足りなくなった紙皿、紙コップを買いに行くらしい。夏休み前は一人で帰るのが普通だったというのに、気づけば芽衣といるのが普通になってるってだいぶ変わったな、と自分でも思う。
久しぶりに一人で帰ってもいいのだが、篠崎に呼ばれてるからなぁ。
缶コーヒーを2本持って屋上へと続く階段を上る。校舎にはまだ多くの生徒が明日の出し物をより良くするため残っていた。
「よお」
屋上へと続く扉を開けると、すぐ横の壁に寄りかかっている篠崎がビクッと反応する。
「なんだ、雨音か」
「なんだってなんだよ。せっかく来てやったのに」
そういって缶コーヒーを投げるとかっこよく空中で掴んで見せてきた。そのキャッチした時のドヤ顔やめろよ。
「まずは昼間の件すまん」
「おう」
沈黙が少し。まあ、篠崎が俺を呼んだ理由はそれだけじゃないだろう、なんて思っていると、間もなく沈黙の代わりに篠崎が口を開く。
「しっかり断るってのはなかなかしんどいもんだな」
「知るかよ」
「お前が言ったんだろ」
「そりゃ、中途半端に断ってきた結果が湊なんだし、言うだろ」
「そうなんだけど、冷たいな。しまいには泣くぞ」
何が悲しくて、放課後の屋上で泣いてる篠崎の相手をしなきゃいけないんだよ。芽衣との思い出が汚れそうだから、締め出してやろうか。
「で、何の用だよ」
「廣瀬さんとの時間奪ったのは悪いけど、無視は酷くない?」
「芽衣はあーしさんたちと買い出し行ったから別にいいけど」
「さようで。なあ、中学の時のこと覚えてるか?」
中学の時か……。まあ、良くも悪くもいろいろあったし、少し思い出そうとしただけでも、脳がキャパオーバーしそうな量の記憶が溢れ出す。
「まあ、色々と覚えてるよ。どうせ、湊かその友達の話だろ?」
「ああ。まあ、そうだ」
篠崎は若干言いづらそうなので、缶コーヒーに口をつけて少し時間を作ってやるが、口を開こうとしない。上手い事まとまってないんだろうか。
「順を追って話してくれてもいいぞ」
「じゃあ、まあ。菜々香は生徒会だし、一人で文化祭適当にふらついてたら湊に会ったんだよ。けど、そんなにいい印象なかったし、スルーするつもりだったんだが、捕まってな。話がしたいっていうから仕方なく、ここに来たんだよ」
「それで?」
俺の問いに、コーヒーをグイッと煽ってから篠崎が答える。
「まあ、端的に言うと告白された。もちろん断ったけどな。今は彼女いるし、雨音にしたことを許せんからって」
「俺のやつ出す必要あった?」
「俺にとっては結構大事な理由なんだよ。雨音にしたことってのは、湊の友人に呼び出されて、待ちぼうけ食らった挙句、呼び出しを無視したってつるし上げられたやつとその後の嫌がらせ諸々な」
「ああ、俺が男女問わずクラスメイトからめっちゃ嫌われるようになった一連の原因な」
呼び出しの翌日だか、湊は教室のど真ん中で俺を糾弾した。湊の糾弾によって瞬く間に、
ちなみに、その後は沢山のお手紙をいただいた。どれも内容は呼び出しで、いくら待っても相手は来ない、という素敵なおまけ付き。まあ、3通目あたりから読まずに捨てたけど。
「そうそう。で、湊とその時のことを話したんだよ」
「なるほど?」
「あれ、お前もだけど、向こうも待ってたんだと」
「は? 意味が分からん」
俺はあの時、確かに手紙に書かれた場所に、屋上に行って待ってたんだけど。
「お前が読んだ手紙に書いてあったのは屋上だろ?」
「ああ」
「でも、姫野がお前を呼び出した場所は校舎裏なんだと。湊も一緒に待ってたらしい」
うん、やっぱり分からん。じゃあ、何? 俺が受け取ったのは誰かが書き換えたの?
「誰かがなんかしたんだろうなって結論になった」
「まあ、湊の話を信じるならそうだな」
「ただ、その後の呼び出しは湊が絡んでたみたいだけど」
まあ、最初の方は手紙の主が湊の派閥の連中だったし、なんとなくそんな気はしてた。とはいえ、向こうの都合も知った今考えれば、待ちぼうけをくらう気分はどうかい? とでも思ってやっていたのだろう。
「まあ、だから、その、なんだ。そこの誤解だけは解いといた方が良いのかなって思ったんだよ」
「そのために呼んだのかよ」
「まあ一応。呆れたか?」
「いや、なんていうか、よくやるなって」
こいつ、自分のストーカーまがいなことしたやつと俺との誤解とくために、わざわざ話し込んだのかよ。おかげで湊への苦手意識が少し減ったけど。
「そうか?」
「そうだろ。で、そのあとは?」
「理由を訂正して振りなおして終わりだ」
わざわざ2回も振ったのかよ。本人たちにとってはいいのかもしれんけど、そこだけ聞くと残酷な奴だな。
「じゃあ帰るか?」
「そうだな」
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