幕間 気になる彼と遂に付き合うことになった件

報告という名の惚気はお風呂場で

 シャワーを浴び、今日の事を思い出して鼻歌を歌いつつ、浴槽で足を伸ばしくつろいでいると、扉がガラリと開く。


「お姉ちゃん、私も一緒に入るね」


 そんな呑気な声と共に入ってきたのは、唯織だった。


「えっ、どうしたの?」

「私も今日は夏祭り行ってて、さっき帰ってきたところなの。お姉ちゃんのお風呂長いし、上がるまで待ってから入ったら、日が変わっちゃうじゃん。そしたら、お母さんが入っちゃいなさいって」


 長風呂な莉沙は2時間半とか入るって言ってたし、1時間半も入らない私は短い方だと思ってたけど、唯織的にはそうでもないらしい。まあ、たまにはいっか、と思いつつ一応、えー、と言ってみる。


「いいじゃん。たまには姉妹水入らずも」

「いや、私たち部屋一緒だから毎日似たようなもんじゃん」

「それもそっか」

「まあいいけど。ところで、夏祭りって遊園地で話してたやつ?」

「そうだよ」

「なんか進展あった?」


 普段あまりされることのない、唯織のそういう話は姉としても一女子高生としても興味が尽きない。


「ま、まあ、無くは無かったのかな」

「えっ、なになに?」

「お姉ちゃん、近い」


 思わず前のめりになってしまった体を浴槽に戻す。


「で、なにがあったの?」

「いや、お姉ちゃんが期待してるほどの事はないよ」

「私が何を期待してると思ってるのさ」

「キスとか」


 先ほど壮太にしたことを思い出して、顔のあたりが熱くなる。


「ちなみに、なんでそう思ったの?」

「お姉ちゃん、雨音さんとめっちゃイチャついておきながら、付き合ってないとか言うじゃん」

「そんなことないし」

「それよりお姉ちゃんは雨音さんと進展あった? 一緒に花火大会行ったんでしょ」


 思わず嫉妬したくなるような、長く綺麗な黒髪を洗いながら、唯織がそんなことを聞いてくる。


「えっとね、壮太と付き合うことになったの」


 私は深呼吸をしてから、そう言った。口に出したことで、私は壮太の彼女なんだと改めて自覚し、嬉しさから表情筋に力が入らなくなる。


「今更感がすごいけど、とりあえずおめでと。でも顔がだらしないよ」

「しょうがないじゃん、嬉しいんだから」

「で、どっちから告白したの?」


 唯織はこちらを向いたかと思うと、少し前のめりになって、目を輝かせながらそう聞いてきた。


「壮太から。花火大会に誘ってきたのも壮太だし」

「今日はどんな感じだったの?」


 唯織はさらに目を輝かせる。

 そんなに前のめりになったら、シャンプーがお風呂に入っちゃうから。


「最初は駅前で待ち合わせしたの。浴衣とか髪型とか結構気合い入れたら、大人っぽいし綺麗だ、って褒めてくれたの。それから、優しく手を取ってエスコートしてくれたんだけど、下駄履いてる私に合わせてくれるし、自然に車道側とか人が多いほうに立ってくれるじゃん。あと壁ドンもされた」

「壁ドンってあの?」

「そう。事故みたいな感じだったんだけど、壮太の顔がすぐそこに来てね。もうドキドキだよ」

「う、うん」

「で、そのあと露店を回ってから、花火見る場所に移動したんだけど、見やすい有料スペース取ってくれてたの。そのあとは、花火がクライマックスになったところで、壮太が私の事を呼んでね、好きだって言ってくれたのね。シンプルだったけど、だからこそ本音って感じがしたの」


 あの時の壮太の真剣な顔が、鮮明に思い出され思わず足をばたつかせる。


「お姉ちゃんお風呂のお湯無くなっちゃうよ」

「ごめん」

「でも、お姉ちゃんからじゃなくて、雨音さんからなんだ。なんか意外かも」

「まあ、そうかもね」


 唯織の言葉には頷いておく。結果としては壮太が告白してきたけど、もし告白されなかった場合は、私から告白する気だったのだから。夏休み前に言ったこと覚えてる? 私ね、壮太が好きなんだ。だから私と、みたいな感じで。


「お姉ちゃんがガンガン攻めて、雨音さんが気圧されながら、おっ、おう、っていう方が何か想像できるもん」


 酷い言いようだ。私に対しても壮太に対しても。ただ、夏休み前のはそうだったので反論できない。


「で、お姉ちゃんはなんて答えたの?」

「わたしも、壮太が好きって」

「へー、そうなんだ」


 そう言いながら唯織はシャンプーを洗い流し始めた。シャワーの音で少し会話が途切れたが、唯織はまた口を開いた。


「そういえば、お姉ちゃんが雨音さんを知ったきっかけって何だったの? 言っちゃ悪いけど、お姉ちゃんと雨音さんって違うタイプじゃん」

「去年の文化祭実行委員会だよ」

「へー。でも、お姉ちゃんそういうの積極的にやるタイプじゃないよね」


 さすがは妹。13年も一緒に生活しているだけあって、私のことをよく分かってる。


「誰もやりたがらなかったからじゃんけんで決めることになって、私が負け残ったの」

「じゃあそこで負けてなかったら、関わらないまま終わってたのかもね」


 確かにそうだなぁ、と唯織に言われて思ってしまった。もしちょっとでも違っただけで、今のようにはならなかったと思うと、たまらなく嬉しくなってしまう。


「お姉ちゃん、だから顔。その顔、雨音さんの前でしたらアレだって」

「気を付けてるんだけど」

「じゃあ、どうしようもないね。で、文化祭実行委員会になってどんな感じのとこに惹かれたの?」


 一息ついて、もう1年近く経ってしまった文化祭実行委員会の話を始める。

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