第17話

 このまま続けるのも微妙だ、ということでビーチバレーはあの後すぐに終わり、俺と芽衣は一足先にビーチパラソルの下に戻った。気まずい空気が流れている。

 篠崎と若宮さんは少し早いが昼飯を調達しに行った。背中に思いっきりボール打ちこんだ詫びとしておごってくれるらしいが、正直ここで芽衣と二人待つ方がしんどい気がする。早く帰ってきてくれねぇかなぁ。

 そういえば、芽衣との沈黙がこんなにしんどいのはいつ以来だろうか。やっぱり、最近は沈黙すら心地よいと思っていたんだな。

 

「……さっきは、その、ありがと」


 沈黙に耐えかね、口を開いたのは芽衣だ。


「ああ、うん。俺も悪かった。その、押し倒したみたくなっちゃって」

「いや、私庇うためだったし」

「そうか」


 再び沈黙。気まずさは抜けきらず再び微妙な空気が流れる。


「お待たせ。買ってきたよ焼きそば」

「悪い、結構混んでた」


 それから間もなく、二人が袋を持って帰ってくる。


「篠崎に任せたが何買ってきたんだ?」

「カレーと悩んだんだが、焼きそばにした」

「なぜその二択」


 いや、なんとなく、海と言えば焼きそばってのは分からなくもないが、カレーはマジでなんでなんだよ。


「いや、こう野菜とかほとんど入ってないし、海の家だからってシーフードが入ってるわけでもない。微妙な感じが絶妙なまでに海っぽいと思わないか」

「海の家やってる人には悪いけど、篠崎君の言うことなんとなく分かるかも」


 言われてみれば、海の家のものってなんとなく具材少ない気もするな。


「でも和也君、海の家行く途中で目に付いたハンバーガーショップに行こうとしたんだよ」

「いや、トンビに襲われて持ってかれるのに若干ビクビクしながら食うのも海っぽいなぁって。あと海の家はどれも高いんだよ」

「私が言いたいのは、格好の事だよ」


 篠崎は今、俺と同じようにサーフパンツ系の水着に適当なTシャツを1枚着ている。割と海にはよくいそうな感じの格好だ。対する女性陣は水着の上からパーカーを羽織っている。

 なんというか、こう、パーカーの下からちらちら見えるビキニは少しばかり刺激的だ。


「まあ、この格好では入りづらいかも」

「トンビにビビりながらっての分かるけど、あれは人が襲われてるのを見て、夏の海を感じるものであって、襲われるのはたまったもんじゃないと思うぞ」

「雨音、お前たまにアレな面が出るよな」

「ほっとけ。それより食おうぜ」


 いただきます、と手を合わせて割り箸を割る。先ほど話したように具材が足りないが、まあ仕方ない。


「ところで、夏祭りでも食いそうな焼きそばを選んだのは何でだ?」

「スイカが貰えるからだ」

「スイカ? ICカード?」

「そうじゃなくて食い物の方。なんか子供向けにスイカ割りイベントをやるみたいで、そこで割ったスイカを焼きそばについてる券と交換してもらえるらしいんだ」

「スイカ割りか。なんか海っぽいな」


 まあ、俺たちは出来ないんだが、と残念そうに返してくる篠崎。

 海と言えばスイカ割りみたいなイメージがあるが、実際することってそうそうないし、なんとなく残念がるのも分かる気はする。


「でもアレか。確かに雨音が言う通り、この後の夏祭りの事考えたら、カレーの方がよかったかもな」

「まあ、夏祭りで焼きそば避ければいいだろ」

「それもそうだな」


 大して量も入っていなかった焼きそばは、あっという間に無くなった。そして、スイカ割りがそろそろ始まるということで、海の家のあたりに移動する。


「すごい人だな、人混み酔いしそう」

「いくら雨音が人混み苦手とはいえ、そこまででもないだろ。でも、スイカ割りなんてなかなかしないし、結構な親子が集まってるのかもな」

「夏の海といえばって感じはするけど、全然やってるとこ見ないもんな」

「まあ、目を隠して棒を振り回すんだから、混雑している海水浴場ではなかなか出来ないだろ」


 確かに危ないもんな。今だって、海の家の横のスペースに三角コーンとコーンバーで囲われた場所を作り、一人づつその中に目隠しをして入って、外からの声を頼りにスイカを割りをしているし。


「ってか若宮さんと芽衣は?」

「足りなかったからなんか買ってくるって言って、海の家の列に並んでる」


 二人を探そうと背にある海の家を見ると、相当な長さの列が形成されている。儲かってそうだな、海の家。


「列長いな。俺も並んどけば良かった」

「あの二人の事だしなんか買ってきてくれるだろ。買ってきてくれなかったら俺らも並べばいいし」

「さすがにあの列に並ぶくらいなら、食わない方を選ぶわ」

「マジで?」

「どうせ二人の着替え待つ時間があるから、そこでなんか軽く食べる」

「そういえばそんな時間があるな。っていうか、その時間も考慮に入れると、ほとんど海で遊べなくね?」

「まあ、遅くとも4時とかまでだな」


 マジかぁ、と分かりやすく落ち込む篠崎。そんな篠崎には悪いんだが、俺には海での遊びなんて、海でちょっと泳ぐか、砂に誰かを埋めるくらいしか思いつかないんだけど。


「お待たせ。タコのから揚げとか買ってきた」

「夏祭りの露店にありそうなものばっかりだから、そうじゃないの探すの大変だったよ」

「まあ、被りそうなラインナップではあるよな」

「とりあえず食べながらスイカ割れるの待つか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る