第16話

「なあ、ビーチバレーってサンダルでやっていいのか?」

「まあ、他所も履いてやってるし大丈夫だろ」

「とはいえ、そのビーサンでやるのもどうかと思うよ、和也君」


 若宮さんの言う通り、篠崎は一人ビーサンを履いている。多分、そのままビーチバレーをすれば、足の親指と人差し指の付け根の間のが大変なことになるだろう。


「それ言ったらお前らだって、その穴いっぱいあいてるサンダルだと、砂入って大変なことになると思うぞ」


 一応、自分好みにアレンジできるおしゃれサンダルなはずなのに、穴がいっぱいあいてるサンダルって表現をされると、急にダサく感じるのはなんでなんだろう。


「じゃあ、みんな裸足で1セットだけやるか」

「さすがに何回もやると、この辺は濡らされてるとはいえ、足の裏やけどして日常生活に支障でそうだもんね」

「ペア分けどうする?」

「戦力的に考えるなら篠崎君と壮太は別チームかな」


 えっ、マジで? 俺、篠崎と比べ物にならないくらい体力ないよ? パワーバランスだけ考えるなら、篠崎対他3人でいいまである。


「じゃあ、私は和也君に付こうかな。戦力的にもその方がバランスいいだろうし」

「負けた方は買った方に昼飯奢りな」

「おい、待て。ハンデを要求する。陸上部のエース様と帰宅部の俺とじゃ体力が違いすぎる」


 何も賭けないならまだしも、やたらと高くつく海での昼飯を賭けるなら、なんとかしてハンデの一つか二つ貰いたいもんだ。


「じゃあ、サーブそっちからで」

「それだけか? もう一声頼む」

「じゃあ、何ポイントか」

「和也君」

「すまん、これ以上は無理だ」


 駄目だったか。まあ、こっちからサーブ出来るだけマシか。まあ、篠崎も体力温存するみたいなこと言ってたし、何とか勝負になることを祈るか。


「芽衣、バレーって得意か?」

「体育の授業でやったことあるくらいだし、普通かなぁ」

「じゃあ、若宮さん狙っていくしかないか」

「ななちゃんには悪いけど、そうする方がよさげだね」


 コートの端でしていた作戦会議を終え、俺はコートの中心へと戻る。向こうは準備万全なようで、すでに構えている。

 芽衣はボールを高く上げると、少し遅れてジャンプ。空中でビーチボールをはたく。はたかれたボールは、ビーチボールとは思えない速度で、相手コートに吸い込まれていく。


「えっ?」

「どう? 壮太」

「普通ってなんだっけって言いたくなるくらい上手いじゃん」


 もう、芽衣がサーブしてるだけで勝てるレベル。こんなのが普通って、女子の体育のバレーはきっと壮絶すぎる戦いなんだろうなぁ。

 さらに追加で5点ほど芽衣がサーブで点数を稼いだところで、芽衣のサーブしたボールが向かい風にあおられ威力を落とし、さらに風に流され篠崎のもとへ。もちろん篠崎は平然と返してくる。

 芽衣が何とかしてくれるだろうと思っていたが、辛うじてはじいただけのボールがふわふわと空中を流れてくる。それを何とか、芽衣の打ちやすそうなところにあげる。しかし、芽衣のアタックはさっきほどのサーブのほどの威力はなく、かろうじて若宮さんが取ったのを、篠崎が思いっきり打ち返してくる。


「ごめん、壮太」

「大丈夫だ。それにしても容赦ねぇ」

「そりゃ飯がかかってるからな。というか、菜々香狙うように指示出しといて、それはないだろ」

「聞いてたのかよ。まあ、そうでもしないと勝てないと思ったからな」

「そうかよ」


 ボールとともに高く飛んだ篠崎は、それが当たり前のことだと言わんばかりに、ジャンピングサーブをバシバシ決めてくる。

 高校生のバレーはジャンピングサーブが標準なのかな? いや、でも俺の知る限り篠崎はバレーもやったことなかったはずだし、ビーチバレーともなるとなおさらだろう。陸上部のエースともなると、それくらい容易にできるもんなのかね。というか、ラリーらしいラリーが1回しかないのはなんで?

 続けざまに篠崎のサーブが入り、芽衣が稼いでくれた点差はなくなろうとしていた。


「ヤバいよ、どうしよ」

「取れないし、何とか風向きが変わることを祈るしか」

「まあ、めっちゃ強いし、しょうがないか」


 対策は思いつくはずがなく、再び篠崎はサーブのためにボールを高く上げ、その身も高く飛びあがる。何とか取りたいと思い、ボールの動きを読もうとするが、隣のコートから芽衣の方へスマッシュが飛んでくるのが目に入る。芽衣は篠崎のサーブを見るのに集中して全く気付いていない。


「芽衣っ!」

「えっ」


 俺が声を上げたことで芽衣は気づいたみたいだが、篠崎のサーブがちょうど放たれたこともあって、反応できそうにない。このままでは、芽衣の顔面直撃は免れないだろう。

 俺は何とか体を動かし芽衣を押して、芽衣とボールの間に割って入る。まず頭部に衝撃が、そして、バランスを崩し倒れる途中、とどめと言わんばかりに背中に叩きつけられたような衝撃が走る。


「ちょっ、そ、壮太」


 一連の衝撃が終わり目を開けると、真っ赤に染まった芽衣の顔がすぐ横にある。距離にして10数センチといったところか。俺は芽衣の上に少しだけ覆いかぶさるように、倒れこんでいた。ラブコメ漫画じゃないんだから、こんなテンプレじみた展開はやめてほしい。いや、ラブコメ漫画だったらラッキースケベくらいにはなるか。


「すまん、芽衣」


 とりあえずこのままって訳にもいかないので、芽衣の上から跳ねるように立ち上がると、ボールが直撃した二か所が若干痛む。


「すみません、大丈夫ですか」

「ああ、大丈夫ですよ。どうぞ」


 ダメージがデカかった背中をさすりつつボールを返す。


「雨音君、大丈夫?」

「すまん、雨音。大丈夫か?」

「かろうじて。少し休めば平気になると思う」

「しかし、見事だったよね。きれいに芽衣ちゃんの代わりに、ボールに打たれたのもだけど、そのあとの和也君のサーブが吸い込まれるように背中を貫いたのも」

「貫いてはないでしょ。貫いてたら、今頃開いた風穴から臓物出てきてるから」

「貫けなかったけど、背中がボール型に真っ赤だな」


 お前がやったんだぞ。ってかマジで痛い。体力残しとくって言ってたのに本気でやったろ。それともこれくらいは本気じゃないのか?

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