第13話
「なんかみんな元気ないよ」
「暑いからだろうね。日陰でダレてる」
「モフモフなせいで熱がこもってそうだよね」
そう聞くと、急に可愛いい動物から、可哀そうな動物に見えてくるな。
「日陰で涼んでるのを邪魔してまでふれあうのもな」
朱莉ちゃんくらいの子が餌を買って、動物たちに渡しているが、動物たちが起き上がって食べに行くようなことはなく、起き上がったと思ったら水を飲んで、また元居た場所へと戻る。
なんというか、夏バテ気味の人間によく似ている。動物も夏バテするんだなぁ。
「朱莉、どうする? 動物さんたち、お疲れみたいだけど」
「ほっとくー」
ほっとくって、おい。まあ無理に構おうとするよりはいいだろうけどさ。
俺は小声で、朱莉ちゃんにアイス食べさせても平気か? と芽衣に聞いてみる。
おやつには少し遅いし、夕飯を食べなくなったり、お腹が弱かったりするなら、食べさせないほうがいいし。
芽衣は少し考えてから、オッケーサインを出してくれたので、やる気を感じさせない動物たちを眺めている朱莉ちゃんに提案してみる。
「じゃあ、アイスでも食べに行くか?」
「アイス!? おねえちゃん、食べていいの?」
「うん、いいよ」
機嫌を取り戻し、何なら今日一番の機嫌で、アイス、アイス、とリズムに乗って口ずさむ朱莉ちゃん。
「あんまり家だとアイス食べないのか?」
「食べないね。味で揉めるし、誰が何個食べるかでも揉める。で、誰かが誰かの食べて更に揉めるってのが繰り返されて、ついに買わなくなっちゃった」
「なるほど。それでこんなに上機嫌なのか」
両の手を俺と芽衣と繋いでいるのに、そんなのお構いなしと言わんばかりに、朱莉ちゃんはぶんぶんと腕を振りまわしている。
「でも、まさかメリーゴーランドに乗ってる時より上機嫌とはね」
ソフトクリームの移動販売と、アイスの自動販売機が見えてくる。朱莉ちゃんは、まっすぐソフトクリームの方へ進んでいく。
「いらっしゃい、何にするかい?」
「バニラがいい」
「じゃあ、キッズサイズのバニラとチョコを一つずつ。壮太はどうする?」
「抹茶のキッズサイズで」
「抹茶とバニラがキッズでチョコが普通のだね。900円だよ」
俺は誕生日に芽衣から貰って以来、愛用している財布から全員分を支払い、出来上がったソフトクリームを受け取る。
「お金、後で私と朱莉の分渡すね」
「いや、別にこれくらいなら、臨時で小遣い貰ったし」
そう言って、何とか芽衣に財布をしまわせ、三人で近くのベンチに腰掛ける。
「そういえばなんで壮太はキッズサイズ?」
「いや、朱莉ちゃん一人だけ小さいサイズなのは、可哀そうかなって思っただけだ。自分だけ小さいのだと嫌だろ?」
「全然、私気にしてなかった」
「俺が気にしすぎてるだけかもしれんがな」
俺の目線の先には、言葉を発するのも忘れて、美味しそうにソフトクリームを食べている朱莉ちゃん。周りの様子など見えてなさそうだ。
「私の一口食べる?」
「じゃあ、貰おっかな」
「あーん」
「えっ?」
「だから、口開けて」
「あ、ハイ」
あーしさんに勝らずとも劣らない視線を向けられ、素直に口を開けると、スプーンに乗ったチョコソフトが俺の口に運ばれる。
それ、さっきまで芽衣が使ってたスプーンじゃない? と思った時には既に時遅し。役目を終えたスプーンが口から出ていくところだった。
「チョコもおいしいでしょ?」
「ああ、うん」
味なんて分かるはずもなかったが、本人は気づいていないみたいなので、適当に返事をしておく。しかし、アレだな。あーんって、するのもだけど、されるのもめっちゃ恥ずかしいのね。
キッズサイズなのもあって、残り僅かのソフトクリームをコーンごと頬張る。口の中がパサつくのはこの際しょうがないだろう。
芽衣と朱莉ちゃんもアイスを食べ終え、朱莉ちゃんのご要望の下観覧車へとやってきた。
「まだ観覧車に乗るには早い時間だけあって、空いてるな」
「まだ夕暮れって感じもしないもんね」
時刻は5時を回ろうとしている。5時半に再集合ということも考えればこれが最後の乗り物になりそうだ。とはいえ、真夏の5時半はまだまだ明るく、芽衣の言う通り夕焼けは全く見れない。
「3名様どうぞ」
軽く頭を下げたから、観覧車に乗り込む。観覧車って止まらずに動き続けてるから、地味に乗りずらいな。止まってほしい。いや、でもそうすると、ものすごい頻度で止まる観覧車になっちゃうのか。
「朱莉ちゃん、今日は楽しかった?」
「うん、楽しかった」
「そりゃ良かった」
朱莉ちゃんは少し眠たそうにあくびをしていたが、それは今日十分に楽しんだからだろう。本人は何とかこの観覧車が1周するまでは起きていようとしているが、疲れが見え隠れしている。
「壮太は楽しかった? 私の家族に交じってだったけど」
「楽しかった。誘ってくれた芽衣のお母さんには感謝してるよ」
「そっか、良かった!」
「ああ、うん」
芽衣に満開の笑顔を向けられるのがどこか気恥ずかしくて、視線を窓の外へ向けると、もう頂上につこうとしていた。
「おお、そろそろ頂上だな」
「ほんとだ。朱莉、いい景色だよ」
俺の手を握っている朱莉ちゃんから返事はなく、代わりに規則正しい寝息が聞こえる。
「寝ちゃってるな」
「限界だったかぁ」
「まあ、しょうがないだろ」
「そうだね。今は景色を楽しもっか」
「そうだな。おっ、あの辺が家の近くじゃないか?」
「そうなの? それにしてもみんな小さく見えるね」
「いや、あのコースターだけはこっちと似たような高さじゃん」
「朝乗ったやつだね」
そうして、二人で今日の話をしていると、観覧車は再び地上へと戻る。
俺は寝てしまった朱莉ちゃんをおんぶして、芽衣とともに入場ゲート近くの広場に向かう。
広場で先に着いていた唯織ちゃんに、ゴーカートの係員と同じようなことを言われ、最後の最後に少しばかりあったが、長かった一日は幕を下ろした。
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