第11話

 レストランに入り少し話していると、俺の左に座る朱莉ちゃんと、正面に座る拓弥君には、遊園地のキャラクターが描かれた旗付きのお子様ランチが一足先に運ばれてくる。

 今回の席順は右に芽衣、左に朱莉ちゃん。正面には拓弥君、その横にお母さん、唯織ちゃんがそれぞれ座っている。二人がご飯を食べ始め、その様子を眺めていると、お母さんから声を掛けられる。


「雨音君、午前中はどうだったかしら? 楽しめた?」

「おかげさまで、すごい楽しめましたよ」

「そう、それなら良かったわ」


 左手を引っ張られ、そちらを向くと不満げに頬を膨らませる朱莉ちゃんが見せてくる。


「ごめんなさいね。朱莉は身長制限で見てるのばっかりだったし、身長制限がないのは拓弥が行こうとしないから退屈にしてたのよ。ずっと、お兄ちゃんのところに行きたい、と言ってたくらいだし」

「ああ、なるほど。じゃあ、午後は僕が朱莉ちゃんと一緒に回りますよ」

「朱莉に合わせると、色々できないけど大丈夫?」

「コースターは乗りつくした感じがあるし、午後はゆっくり過ごしたいと思ってたので構いませんよ。それに僕は連れてきてもらっている身ですから。朱莉ちゃんは何乗りたい?」

「えーっとねー、メリーゴーランドとか」


 朱莉ちゃんは口に入っていたご飯をよく噛んでから飲み込むと、少し悩むそぶりを見せてからそう言った。

 口に物が入っているときに喋らないのは、廣瀬家の教育の賜物なのかしら? 篠崎や祐奈は平気で口に物入れたまま喋るから、今度やったら朱莉ちゃんはそんなことしないぞ、とでも言ってやろうか。


「じゃあ、ご飯食べ終わって最初に行くのは、メリーゴーランドにしよっか」

「うん!」


 食べるのをやめて、俺の腕にくっついてくる朱莉ちゃん。


「この間雨音君がうちに来た時も思ったけど、ほんとによく懐いているわね」

「ははは」

「壮太だけに朱莉任せるのはアレだし、私も一緒に回るから」


 朱莉ちゃんとお母さんの方ばかり向いて話していると、背を向けられていた芽衣が俺の右腕の袖をつかんでそんなことを言ってくる。


「それはいいんだけど、芽衣はコースター系とか回らないで平気なのか?」

「もう乗れないよ。1年分くらい絶叫コースター乗ったかもだし」


 1年分思ったより少ないのな。もっとたくさん乗るものだとばかり思っていたが。まあ、他のアトラクションとかもするなら、こんなものになるのかもしれんけど。


「えっ、お姉ちゃんも雨音さんも乗らないの?」

「あら、唯織は乗り足りないの?」

「うん」

「じゃあ、午後はこっちの3人でジェットコースター回ろっか」


 偶然にも午後はこの席順で分かれて回ることになった。みんなおおよそ満足そうだが、一緒に回れなかった拓弥君はほんの少し不満気だ。まあ、それでも黙々とご飯を食べているんだけど。

 拓弥君には、今度埋め合わせで一緒に遊んであげればいいだろう。


「お待たせしましたー」


 午後の予定が決まったところで、タイミングよく料理が運ばれてくる。

 お母さんと芽衣はミートソース、俺と唯織ちゃんはカルボナーラだ。なぜ皆パスタなのかというと、他のメニューが微妙だったからだ。まあ、本格的なレストランではなく遊園地にあるものだからしょうがないと言えばしょうがないが。

 手を合わせてから頂く。


「ゴールデンウィークに壮太が連れてってくれたところと比べるとアレだね。遊園地の中にあるのだと普通なんだろうけど」


 芽衣の一言にびっくりする。俺は何となくだが、パスタというとあの喫茶店のものと比べてしまうが、まさか芽衣もそうなっているとは。


「まあ、あそこのは普通に作るだけだと、あの味にならないしなんか秘伝のレシピがあるんだろ。いつか再現してみたいとは思ってるんだけど、どうしても一味足りないんだよね」

「まあ、パスタ専門店としてでも、やっていけそうだったもんね」

「あら、二人のデートの話?」

「ちょっ、お母さん」


 顔を若干赤らめ、焦る芽衣とその様子すら楽しんでいるお母さん。


「いいじゃない。娘の色恋話が聞きたいのよ」

「なら唯織だって気になる人に夏祭りに誘われたって言ってたよ」

「なっ、ちょっ、お姉ちゃん」


 突然、先ほど相談したばかりの事を言われて、食事の手が止まった唯織ちゃん。


「あらあら、そうなの? 後で色々話してもらおうかしら。唯織は芽衣と違って、そういう話はほとんどしないし」

「お母さんまで……」


 突然飛び火した唯織ちゃんと、お母さんの間で会話が弾んでいるが、物理的に間にいる拓弥君の顔が大変なことになってる。

 なんというか、拓弥君は苦労しそうだな。成長して色気づいたら、毎日質問攻めとかに遭いそうだ。

 そんなことを考えつつ、芽衣、唯織ちゃん、お母さんが3人で、話しているのを見ながら、朱莉ちゃんの面倒を見ていた。その様子を拓弥君が羨ましそうに見てたのは、間違いなく板挟みだからだろう。でも、すまない。俺はその三人の中に割って入る勇気なんて、持ち合わせちゃいないんだ。

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