第31話

 放課後、またしても宮野先生に呼び出された俺と篠崎。


「なんすか、反省文ならもう出したと思うんですけど」

「せめて反省しているフリくらいしてみたらどうだ」

「昼休み返上して、飯テロ喰らいつつ反省文書いたのに足りないと」


 人には反省文書かせておいて、それを見ながら昼めし食うとか正気かよ、とあの場で反省文を書かされた面々の心は一つになったのだ。


「ようやく出来た彼氏が、この間、寝起きと共に家具と一緒にいなくなってた私の前で、君たちが青春の1ページみたいなことをしなければ良かったんだ。実家に帰れば、やれ結婚はまだか、孫の顔が早く見たい、と言われ続けた中で、ようやく出来た彼氏だったのにっ」


 ひでぇ、私怨じゃねぇか。しかも、若干涙目になるから俺らが悪いみたいじゃねぇか。そろそろ誰か貰ってあげて。お願いだから。

 俺は余計なことを言った篠崎に、どうにかするよう視線で促す。


「きっといい相手が見つかりますって、俺はもう見つけましたけど」


 おい、余計な一言。お前、若宮さんと一緒に帰れなくなったからって、ふざけるなよ。俺まで帰れなくなるじゃんか。

 がはっ、と血を吐き出さんばかりにダメージを受けて、机に突っ伏す宮野先生。


「大丈夫ですって。先生美人だし、すぐにでも結婚できますよ。相手に見る目がなかったってことで忘れましょ」


 何やってるんだ俺は、と思いながら宮野先生を慰める。まあ、一応本心だ。


「そうか?」

「えっ、ええ、まあ」

「そうか、やはりそうか。いやー、雨音は見る目があるなぁ」


 大丈夫だろうかこの人。ちょろいぞ。昨今流行のチョロインとて、こんなにちょろくはないだろ。そんなんだからダメ男に引っかかって、家具と一緒にいなくなられちゃうんだろうなぁ。


「話がだいぶ脱線したが、君たちだけを呼んだのは、ちょっとした肉体労働をやってもらおうと思ったからだ。一応君たちの提案で始まったのだろう?」


 正確には、篠崎の提案で始まり、篠崎のせいで宮野先生が水浸しになったのだが、余計なこと言って長引かせるのは面倒だしそういうことにしておく。


「そう身構えるな。次の授業で映像を使いたいんだが、教室では場所によって見づらくなってしまう。そこで、視聴覚室を使おうと思うんだが、あそこは少し物置になっているから、倉庫になってる空き教室にものを移すってだけだ」


 がっつり肉体労働じゃねぇか。しかも、少しって量じゃなかったと思うんだけど。去年のことだし今は違うのかもしれないけど。

 行くぞ、と言って席を立った宮野先生の後ろをついていく。俺も篠崎も逃亡しようと思った前科があるからなのか、ちょくちょく付いて来ているかを確認してくる。まあ、どちらかが逃亡しようとした瞬間、互いの足を引っ張りあうことになるだろうから、確認する必要はないのだが。


「少しってもんじゃないじゃないっすか」


 視聴覚室の机はどれも上に段ボールをいくつか載せている。

 これが少しって、もしかして先生は整理整頓ができない人なの? これが突然関わりが無かった父親に呼び出されて、よく分からない生命体から人類を守ることにになったと思ったら、上司と一緒に住むことになっちゃって、その上司の部屋に初めて入った時の中学生の気持ちか。これはもう、知らない天井だ、って言わないとだ。


「去年とほとんど変わってないじゃないですか。若干増えてるまでありますよ」

「君たちは細かいことばかり気にするな。いいから運びたまえ」


 さっきの落ち込み様はどこ行ったんだよ。どうして俺らに罰を与えるときは嬉々としているんだ。


「重たっ」

「そりゃ中身全部昔の学校行事の書類だからな」


 やる気なんて微塵も湧かないが、やらないと帰れないので黙々と作業に取り掛かる俺たち。

 これを運んでいると、文実を思い出すな。芽衣と今まで接点ないと思ってたけど、よく考えたら、芽衣と最初に喋ったのは文実になったときか。まあ、そこでは業務連絡したくらいだけど。



 腰を痛めながら、空き教室と視聴覚室を往復すること十何回。ようやく視聴覚室から段ボールが消えた。


「もう終わったのか」


 職員室に報告に行くと、パソコンをいじっていた先生がこちらにやってくる。


「一応終わりました」

「それはご苦労。解散でいいぞ」


 職員室を出て昇降口に向かう途中、窓を覗くと外は雨が降っている。

 昼間は雨が降るとは思えないほどの、快晴だったんだけどなぁ。数時間前に降ってくれれば、腰を痛めることも無かったろうに。


「ようやく来た」

「二人とも遅い」


 俺と篠崎を昇降口で迎えたのは、芽衣と若宮さんだ。


「一緒に帰ろうと思って待ってたんだよ。雨も強かったし」

「そうか。悪いな」

「早速だけど、和也、傘に入れて!」

「悪い俺も持ってないんだわ」


 梅雨だというのに、なんでこのバカップルは傘の準備もしてないんだ。相合傘がしたかったのかもしれないけど、両方忘れちゃダメだろ。そして、こっち見るな。


「壮太、私も忘れちゃって、その」

「芽衣もか……」


 みんな揃って俺を見てるけど、俺もそんなには雨具持ってないと思うなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る