第26話
勉強会を始めて数時間。図書館は閉館したので、俺らは夕飯を取るがてら駅前のファミレスに場所を移した。食べるまでは各々適当に勉強をしていたが、食後にまで勉強するやつはこの場にいない。
「ご飯も食べちゃって今更なんだけど、壮太はこっち来ちゃって大丈夫だった?」
「なんで?」
「祐奈ちゃんの夕飯作らないで平気なのかなぁって」
「祐奈なら試験終わったから打ち上げお泊り会だ、とか言って友達の家行ってるから大丈夫だ」
しかし、何かにつけて友達の家に泊りに行くよな。もしかして家に居づらい? 実は祐奈、俺の事そんなに好きじゃない?
「友達の家でお泊りかぁ」
若宮さんの方を見つめる芽衣。芽衣は家ではお姉ちゃんって役割だけども、それを忘れたいこともあるのだろうか。
「試験終わったらしよっか」
「やった!」
あっさりと泊りを許可する若宮さんに、思いっきり抱き着く芽衣。君たちいつの間に仲良くなったの? 早いよ、話すようになって3週間くらいしか経ってないんじゃない? これが陽キャのコミュ力か……。俺には到底真似できそうにない。
「試験終わった後の打ち上げか。いいな」
「なんでそんな何かにつけて打ち上げしたがるんだよ?」
君ら陽キャは、月の打ち上げ数が一定数を下回ると激痛を伴う、みたいな呪いでもかけられてるの? それなら俺一生陽キャになりたくないよ。まあ、なりたいと思ったところで、陽キャサイドからお断りされるんだけども。
「いいじゃんか。6月はイベントがなんも無いんだし」
「いや、期末試験っていう超重要イベントがあるだろ」
「それ重要じゃない」
「お前なぁ」
せめてそれなりの成績を取ってから言ってくれ。お前の場合は命綱無しの綱渡り状態なんだから。
「でも、6月って本当に何もないよね」
「梅雨だし、やる気湧かないから、ちょうどいいじゃん」
「いつもやる気なさそうじゃん」
ひでぇ。事実だけど、なんでそんな良い笑顔で言うかね、若宮さんよ。
「壮太はやる時はやるんだから」
芽衣、それそんなにフォローになってないから。母さんと似たこと言うなよ。俺が中学生の頃とかよく言われたぞ、あんたやる時はやる子だと思ってたんだけどねぇ、って。あれ、よく考えたら違くない? 母さん諦めちゃってるじゃん。2年越しで悲しい真実に行きついちゃったよ。
「試験始まってもないのに、次の試験の話考えるのはやめようぜ。俺は試験の後の話がしたいんだ。現実逃避したい」
「なんも無いんだって」
「じゃあ、やっぱり打ち上げしかないじゃんか」
「打ち上げしようよ、打ち上げ」
別に何もない月があったっていいと思うんだけどな。まあ、俺の意見なんて通らないんだけども。せめてもの抵抗として、俺はこう言い放った。
「まあ、全員揃うといいな」
「私、壮太を一人にはさせないからね」
顔を若干赤らめて、そう言う芽衣。なんでそんな勘違いさせるような言い方するの? 赤点取らないから、っていつもの調子で言ってくれた方が反応しやすいんだけど。
「ちょっ、無視はやめてよ。恥ずかしいじゃん」
「なんて反応すればいいんだよ」
「えっとー、俺も芽衣を一人にはさせないぜ、みたいな」
「芽衣ちゃん、恥ずかしくないの?」
「やめて、ななちゃん。私も言ってて、恥ずかしくなったから」
若宮さんは辛辣だな。ちゃんと手綱握っとけよ篠崎。会話する度
「そういえば、去年は体育で水泳があった時期じゃない?」
そういえばあったなぁ。なんかまだ泳ぐには寒い中始まって、本格的な暑さを感じて、プールに入りたくなるタイミングで終わったっけか。
「水泳か。2年以降は無いんじゃなかったっけ」
「和也の言う通り水泳は去年だけだよ。2年はプール開き前の掃除が一クラスだけあるけど」
なにその超嫌な分担。自分たちは使わないプールの掃除を一クラスだけやるって。可哀そうなクラスの人、ドンマイ。
「さすが生徒会役員」
「生徒会役員じゃなくても覚えておこうよ。あと、掃除するクラスを憐れんでる雨音君には悪いけど、うちのクラスだよ」
えっ、マジで? 使いもしないし、冬場よく分からん虫の住処になってたの掃除するの? サボろっかな。
「プールか。今回の試験後じゃまだ早いけど、期末後ならいいな!」
「それならもう夏休みでいいだろ」
「じゃあ、このメンツで行こっか」
おー、いいねー、と盛り上がる3人。
えっ、この面子で行くの? 陽キャの中に一人陰キャで俺だけ浮くじゃん、それに3人はルックスが強い。やめて、約束の段階で俺のライフはゼロよ。
「言っといてなんだけど、君たち気が早いよ。まだ5月だっての。二回の試験が残ってるから」
ブー、と篠崎と若宮さんからバッシングを浴びる。
「そのうち一回目の試験はもうすぐだし、解散にしよっか」
「もう、こんな時間か」
時計の短針は間もなく9を指し示そうとしている。解散するには良さげな時間だ。
結局、芽衣の一言で解散となった。
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