第25話

 中間試験まで残すところ1週間、といった感じのある日の放課後。俺、篠崎、芽衣、若宮さんの4人は駅前の喫茶店が併設された図書館に来ていた。


「ところでなんで勉強会なんてやってるんだ? ここ一週間くらい教室でやってたのには何も考えず参加してたけど」

「雨音はそもそも勉強会って感じじゃないだろ。イヤホンしてひたすら問題解いてただけだろ」


 失礼な、ちゃんとお前の勉強も見てただろ。まあ、何を言っても聞き入れてもらえないだろうが。というか、勉強会って集まってそれぞれで勉強するだけじゃないの? お互い勉強してるから、同調圧力的な何かが働いて、勉強せざるを得ない空気を作るものじゃないの?


「そんなに勉強して何を目指してるのさ?」

「とりあえず主席。一回でいいから取ってみたいもんだ」

「ほえー、意識高いなぁ」


 次席ってなんか嫌じゃん。なんか一歩足りない感じが。


「いやー、外混んでるねぇ」

「うちの生徒がいっぱい居たよ」

「ここ借りといてくれた菜々香には感謝だな」


 プラカップを両手に部屋に戻ってきた芽衣と若宮さん。

 ここは図書館の一角、要予約のフリールーム。若宮さんが気分転換に他所で勉強したい、ということで予約をしてきた。試験前のこの時期は駅前のファミレス、カフェ、その他には試験を目前に控えた学生が集まり、夕飯時までテーブルを占領しているので、学校外で勉強となると近場の友人の家か、終業の予鈴と共に自転車を飛ばしてどこかで席を取るかが大半だ。しかし、偶然見つけたこの場所は要予約で急ぐ必要もない、ということで採用の運びとなったらしい。


「調子はどう?」

「俺は順調。範囲の基礎はほぼ完ぺきだし、もう少し応用やっときたいって感じだな」

「雨音君って頭良いよね?」

「上位常連とはいえ学年1位は取れてないし、まだまだだろ」

「ずっと次席のくせによく言うよ」

「よっ、万年次席」


 芽衣に篠崎、それは俺が気にしてるから、あんまり言わないでくれ。っていうか、芽衣に俺の成績教えたことあったっけ? まあいいか。しかし、篠崎に言われると煽られてる気がして腹立つな。


「次席ってめっちゃ頭いいじゃん。それもずっとってすご!」


 俺の上にずっと主席をキープしてる、もっとヤバいのがいるんだよ。委員長だけど。


「正確には一回だけ次席からすら落ちたから、万年次席ですらないんだがな」

「それでも10位以内には居たろ」


 あの時は委員長が満点逃してたから主席になるチャンスだったんだけどなぁ。まあ、過労死するんじゃないかってくらい働かされてたから、勉強に時間割けないくらいボロボロだったからしょうがないってことにしよう。


「そういう篠崎だって、いつも10位以内を守ってるじゃないか」


 下から数えてだけど。それでも篠崎より下がいるんだから、ある意味すごいもんだ。


「篠崎君のことは、ななちゃんに任せて私に教えてよ。私も苦手なのはそれなりにピンチだから」


 そんな自慢げに言うことじゃないでしょうに。というか、若宮さん困ってるぞ。


「で、何が出来ないの?」

「日本史」

「教科書を穴が開くまで読む、終わり。他は?」

「ちょっと」


 いや、正直暗記科目なんて教える要素無いから。ひたすら教科書読んで覚えるしかないと思うんだけど。あと現文も教えるの無理だろ。あんなのは授業聞いておけば7割くらいは取れるだろうに、あとはセンス。


「しょうがないだろ、覚えるしかないんだから。っていうかなんで選んだの? 他の取れよ」

「じゃあ数学で」


 まあ、それなら、と試験範囲を確認する。助けてくれ、といわんばかりの若宮さんの目が先ほどからずっと向けられているので、そっちも巻き込むか。

 にしても、ギブアップ早くない? 飲み物買いに行く前も見てた、とはいえだよ。


「三角関数の公式とかの確認するけど、どうする?」

「サイン、コサイン、タンジェントってやつだっけか? この間の休み明け試験であったな。俺は覚えてるぞ」


 そう言って、部屋備え付けのホワイトボードに公式を書きだす篠崎。お見事、この間教えたことはしっかり覚えているようだ。


「あってるけど、去年のは三角比な。今回のはその発展だ」


 顔色が微妙になる女性陣。篠崎も言ってたようにこの間の試験で範囲だったんだけど……。大丈夫?


「去年の範囲の復習からやるか」


 しばらくホワイトボードに要点を書きながら、それぞれの分からないところを説明したが、2つほど分かったことがある。女性陣は試験前に一夜漬けの要領で覚えては忘れるタイプらしく、ほとんど覚えていなかった。対する篠崎は覚えさえすれば忘れないようで、この間叩き込んだものは完ぺきに覚えていた。篠崎は授業真面目に受ければ、上位に入ってこれそうだ。なんで真面目に受けないで、俺に泣きついてくるんだよ。


「これどこで使うの? 絶対将来使わないじゃん」

「直近の試験で使うんだよなぁ」

「うぅ、いじわるっ」

「これまでの勉強会でなんで数学しなかったの。やってないから余裕なのかと思ってたわ」

「他は自信あるくらいになったから」


 それはいいことなんだけどさ、どの科目でも再試受けすぎると留年するよ。ソースは篠崎。去年の段階で再試受けすぎて、この間の試験の後で各教科の担当教員に言われたらしい。大丈夫かよ。

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