第27話

 週を跨ぐ中間試験はあっという間に終わり、金曜の放課後。廊下の壁には成績が貼り出された。


「雨音君、どんなもん?」

「若宮さんか。書いてある通りだよ」


 張り出された成績の一番上には委員長の名前と700の文字が、その下に雨音壮太693と書かれている。残念ながら主席には届かなかった。全科目満点って何なんだよ。


「全科目99点?」

「それはむしろ難しいだろ。1点問題なんてないし、全部ニアミスってことだろ。発狂しそう」

「それもそうだね」

「他はどんな感じだって?」


 上から20位までが貼り出されるのはこちらの廊下だが、再試対象者は別の校舎の廊下に張り出される。篠崎はそちらに確認に行った。再試の数の確認ではなく、載っていないかの確認であると信じたいが、どうなったんだか。


「こんな感じだって」


 再試対象者が名を連ねて紙と、ピースする篠崎が写った写真を見せられる。篠崎のいい笑顔がウザいが、後ろの紙に知り合いの名前はない。


「再試は回避か」


 ちなみに若宮さんは、こちらの紙の真ん中らへんに名前が書いてあった。


「良かったよ、これで月曜日の問題なくできるし」

「月曜日のって何?」

「えっ、芽衣ちゃんの誕生日じゃん。だから私の家で祝おうって和也君と話してたんだけど、聞いてない?」

「何もかも初耳だけど」


 祝う話もだけど、月曜日が芽衣の誕生日だってことも。


「えっ?」


 ごみを見るような目で見られた。多分何もかもに芽衣の誕生日が含まれてるの分かったんだろうな。


「で、何するの? 予定は入ってないけど」

「詳しい事はあと。芽衣ちゃん来たし」

「はいよ」


 教室であーしさんたちと話し込んでいた芽衣が、少しこちらに顔を見せる。あーしさんたちは、先行ってるよー、と言って昇降口に向かって歩いて行った。


「皆どうだった?」

「俺は今回も2位。1位は変わらず委員長。今回も満点取ってた」

「私は13位だった」

「うわっ、二人ともすごっ」


 俺は主席を、若宮さんは10位以内を逃して、それなりにショックを受けているんだがな。

 しかし、よく考えたら若宮さんすげぇな。理系ほとんど全部覚えてなくて、一夜漬けで凌ぐって言ってたけど、しっかり点数取って名前が貼り出されるって。


「俺だって今回は再試無しだぜ」


 向こうの校舎からこちらに戻ってきた篠崎が、会話に加わってくる。


「私も点数上がってたし、あの勉強会ヤバいね!」

「なら良かったな」

「もうマジ感謝してるんだから。ほんとは何かこの後、打ち上げとかしたいんだよ。今日は莉沙たちとの先約があるから、難しいんだけどさ」

「それなら、月曜日に私の家でパーっとやろうよ、打ち上げ」

「いいね。絶対行く!」


 元気よく手を挙げ返事する芽衣。

 なるほど、打ち上げっていう体で予定押さえて、サプライズで誕生日祝うのか。賢いけど、芽衣が話し振ってこなかったら、どうするつもりだったんだろう。


「じゃあ、詳しいことはこっちで決めとくね」


 私も決められたらいいんだけど、ほんとごめん、と平謝りする芽衣。

 少し話すだけにしては、時間がかかっている気がする。あーしさんの機嫌が悪くなってないといいんだけど。


「あーしさんたち待ってるんだろ」

「そうだった。じゃあまた月曜日」


 手を振りながら走ってあーしさんたちを追う芽衣に、おう、とだけ返し二人に向き直る。


「で、月曜どうするの?」

「授業は午前中だけだから、私の家でお昼食べて、そのあとケーキ出してサプライズでお祝いみたいな感じにしようと思ってる。雨音君には、お昼ご飯と芽衣ちゃんへのプレゼントをお願いしたいんだけど」


 飯を作るのは別に造作もないんだけど、プレゼントがなぁ。最近の女子高生は何を欲してるの? 何がトレンドなの? 正直全然分からん。仕方ないし祐奈に頼るか。しつこく質問攻めにされる気しかしないけど、しょうがない。


「了解。昼はそっちに行って作ればいいの?」

「できればお弁当箱とかに入れて持ってきてもらえるといいかなって。授業終わって、私の家に着いてから作るってなると結構お昼が遅くなっちゃうし」

「なるほど、まあその方が俺も助かる。ところで、家の方は大丈夫なの? 迷惑じゃない?」

「私一人暮らしだから」


 一人暮らしか。うちも似たようなもんだけど、女子高生の一人暮らしってどうなんだ?


「俺は四人分の飯とプレゼントを用意すればいいんだな」

「そうだな。詳しいことは俺と菜々香で決めておく。ある程度まとまったら連絡するから、電話出ろよ」


 大型連休中、二人に遭遇した日の夜篠崎から電話が来たのだが、それを無視して爆睡したことを根に持ってるらしく、最近ことあるごとに言ってくる。


「はいはい、じゃあ、俺はそろそろ帰っていい?」

「いいよー、じゃあまた月曜に」

「美味い飯期待してるぜ」


 俺は足早にこの場を後にした。だってあいつら、無自覚に手をつないだり、いちゃいちゃしだすんだもん。目に悪い。

 しかし、芽衣の誕生日は次の月曜か。全然知らなかった。というか、あんまり俺芽衣のこと知らんな。芽衣は割と俺のこと知ってるのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る