第15話
「えっと、この人は?」
困惑気味の唯織ちゃんに、祐奈を紹介してやる。
「妹の祐奈だ」
「これの妹をやってる、雨音祐奈です」
お兄ちゃんのことこれ、とか言うのやめてね。お兄ちゃん泣いちゃうよ。いや、泣かないけど。
「えっと、廣瀬唯織です」
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、もしかしなくても廣瀬さんの妹さん?」
腕をぐいと引かれ、耳元でそう聞かれる。腕痛いよ、強く引っ張りすぎだから。そのうち脱臼しちゃいそう。
「ああ、そうだ」
「ふむふむ」
値踏みするように、じっくりと唯織ちゃんを見ている祐奈の頭にチョップを放つ。
「ちょっと、痛いよ」
「値踏みするように人を見るな。ごめんね唯織ちゃん」
「えっ、ああ、大丈夫ですよ」
「祐奈、好きな本一冊なら買っていいから、これ買ってきてくれない?」
専門書と気になる新刊を入れた買い物かご、0が4つ書かれたみんな大好きな紙幣、そしてポイントカードを渡す。
「えっ、いいの?」
「分かってるだろうけど、三千円くらいする画集とか買うのはやめてくれ。漫画とか小説とか千円くらいで買えるものにして。あと、お釣りとレシートは後で返してね」
おっけー、と言って俺の手元の物をかっさらい、代わりに先ほど買ったであろう物が入った紙袋を俺の手元に残して、漫画コーナーへと向かっていった。
「参考書が欲しいんだよね?」
「あっ、はい。そうです」
唯織ちゃんと共に参考書や問題集が置かれたコーナーに向かう。
「一応参考までに聞いておくけど学校の成績ってどれくらいかな?」
「定期試験は8割くらいで、200人中20位くらいをふらふらって感じです」
「自力でそこまでできてるなら大したもんだと思うよ。とりあえずこの辺かな」
祐奈に勉強を教えるときに使っている参考書と、少し難易度の高い問題集をいくつか棚から取り出す。唯織ちゃんはペラペラと参考書と問題集を流し読みしている。
上位1割にいるなら、これくらいがいいと思うんだけどどうだろうか。
「買ってきたよー」
祐奈が戻ってきた。本がぎっしり詰まった紙袋を渡される。当たり前だが荷物持ち要因として連れてこられたので、先ほど渡された紙袋は回収されない。ついでに釣り銭が返ってこなかった。返してくれって言ったのに。レシートはグシャッとなって紙袋の中にいた。
「何してるの?」
「おすすめの参考書教えてほしいっていうから、いくつか選んでたところだ」
唯織ちゃんが見ている参考書には、見覚えのあった祐奈だが、問題集には見覚えがない。というか、それをやるレベルじゃないから渡してない。
「お兄ちゃん、私この問題集やってないけど大丈夫?」
顔色が悪くなる我が家の受験生。おい、大丈夫かよ。受験会場に行ったら不安で倒れちゃうんじゃない?
「いや、お前の場合はこれやる前に基礎固めなきゃ意味ないだろ」
青い顔色のままこくこく、と頷く祐奈。なんとも居づらそうだ。うちの高校に来たいらしいが、どうなることやら。
「手持ちが微妙なのでとりあえず参考書だけにしようと思います」
「問題集解けそうで俺のお古で良いなら、問題集の方はお姉さんに渡しておこうか?」
「いいんですか?」
身をずいとよせて食いついてくる辺りは、お姉さんにそっくりだな。
「使わなそうだし、構わないけど」
「じゃあ、お願いします」
お兄ちゃん、私は? 私を見捨てないで、と言わんばかりに涙目を向けてくる祐奈。毎晩勉強見てやってるじゃねぇか。
「さて、じゃあそろそろ俺らは買い物に戻るから。勉強、頑張ってね」
サクッと会計を終え、ペコペコと頭を下げている唯織ちゃんと別れた。
「おい、祐奈元気出せ。昼飯食べたいとこでいいぞ」
「ほんと! お兄ちゃん大好き」
やっすい好きだなぁ。俺としては
「しかし偉いよな」
「唯織ちゃんのこと?」
「ああ。姉弟が多いし、受験が被る廣瀬さんに心配させたり、気を遣わせたりないように自力で勉強してるんだと」
「えっ、私の一個下で、私と同じ参考書見てたの?」
嘘だあぁ、と言いあからさまにテンションが下がる祐奈。
「まあ、参考書は一定以上なら、あれが一番分かりやすくまとまってるからな。しょうがない」
「そうだとしても、だよ」
「部活やってて、定期試験は上位一割キープしてるって言ってたからな」
あぁー、何も聞こえない、と言って耳を両手でふさぐ祐奈。成績がすごく良いとは言い難いが、平均よりは少し上にいるのだが、比べる相手が悪い。
「落ち込むのもその辺にして、何食べるのか決めてくれ」
「はーい」
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