第13話

 やたらと注目されて始まった一週間は、あっという間に終わり大型連休になっていた。


「お兄ちゃん、朝だよ!」


 いつもならボチボチ家を出始める時刻。布団の中で幸せに包まれていたところ、ドアが勢いよく開き祐奈がやってきた。

 ドアもうちょいゆっくり開けろ。そのうち壊れるから。あとノックちゃんとしようね、着替えてたらどうするつもりだったの?


「服買いに行きたい! 出かけようよ、デートだよ!」

「まだ8時だぞ。それにお兄ちゃんはね、夕方に帰ってくる父さんと母さんを労う英気を溜めてるところだから。一人で行きな」


 休みの日の朝だというのに超元気な祐奈。

 お兄ちゃんは疲れたんだよ。

 月曜日の朝の写真の一件から始まり、昼休みの弁当。火曜日には写真の一件で宮野先生に呼び出され、水曜日には生徒会の二人による生徒会への勧誘。宮野先生は事情を一から丁寧に説明すれば解放してもらえたし、生徒会の二人の勧誘もしつこくはなかった。とはいえ、宮野先生に呼び出されたせいで、写真の一件の噂は払拭されるどころか、広がったし、生徒会の2人は知名度抜群。一か月分、下手したらそれ以上の視線を3日で浴びて状態値マイナスだから。

 首を振って、布団を深く被る。まだ布団のぬくもりを享受することが許される時間だ。


「起きてよー、どうせ買い物には行くんでしょー。早く行って服見るだけじゃん」


 そう言いながら布団を足のほうから剥いていく祐奈。最終的に俺は顔だけを布団に埋めた状態になった。

 布団をどかして起き上がる。髪がいつにもましてボサボサなのは触らずとも分かる。


「着替えるから下行ってろ。お湯沸かしといてな」

「ラジャー、了解であります」


 敬礼をしてから、スタタタァという擬音が似合う感じに部屋を飛び出していった。



 着替えて顔を洗ってから、リビングに向かう。


「お兄ちゃん、おはよう!」

「おう、おはようさん」


 ティーバッグで入れた紅茶に、昨日多めに作っておいたサラダ、こんがり焼かれたトーストが机の上には並んでいた。


「待ってたのか。先に食べててよかったのに」

「いいの、いいの。お兄ちゃんどうせ起きてくるって分かってたから」

「左様で」


 起きなかったら、起きるまでいろいろやるつもりだったんだよ、などと恐ろしいことを祐奈は言っているが、聞こえなかったフリをしておく。


「「いただきます」」


 二人でそろって席に着き、手を合わせる。


「で? どこに行きたいんだ?」


 トーストを飲み込んでから祐奈に聞く。どこに行きたいかによって、どこで食材を買うかが決まってくる。


「あー、どうしよっかなー」


 決めてなかったのかよ、おい。


 そこも見たいし、あっちも見たいし、と言っていた祐奈の口から最終的に出てきた場所は、最寄駅から2駅ほど離れたターミナル駅前の大型商業施設だった。


「少ししたら出るか」

「オッケー、お兄ちゃん」


 ごちそうさま! というと祐奈は自分の部屋に戻っていった。



 それから20分ほど経っただろうか、洗い物を終えて少しばかりのんびりしていたところに祐奈がやってきた。


「どう? どう? 似合う?」

「あー、世界一にあってるよ」


 祐奈は赤いスカートに黒い半袖シャツ、小さなかばんを持ってくるくると見せるように回る。


「相変わらず適当だなー。それよりお兄ちゃん行くよ」

「まだ早いって、今行ったって開いてないでしょ」

「何言ってるの? 休み中は早く開くんだよ。ほら早く早く」


 俺のカバンを渡してくる祐奈。


「分かったから急かすな」


 祐奈に押されて家から出た。


「ねえ、お兄ちゃん。廣瀬さんとなんかあったりした?」


 駅までの道を歩いていると祐奈が話しかけてくる。


「どうしたんだ突然」

「いや、ゴールデンウィーク明けには廣瀬さんが飽きてるみたいなこと言ってたから」


 あー、そういえばそんなことも言ったっけか。


「先週祐奈が友達んちに泊まりに行った日に、たまたま駅前で会って飯食いに行ったのと」


 祐奈はぐっと身をこちらに寄せてきて、それか、それから? と興味深そうに聞いてくる。

 なんで中高生はこの手の話が好きなのかね? 別に人のことなんてどうでもいい、と思う俺は高校生としておかしいのか?


「あとはなんか弁当もらった」

「お兄ちゃん、お兄ちゃんの予想外れてるじゃん」

「いや、飯を一緒に食ったのは流れだったし、弁当に関しては飯食いに行ったとき、廣瀬の妹弟の相手してくれた礼って言ってたぞ」

「お兄ちゃん、いつもは捻くれて言葉の裏側探るのに、こういう時はなぜかすんなり聞き入れるよね」

「いや、お兄ちゃんも素直な一面がだな」

「そういうとこが捻くれてるんだよ」


 この、この、と言いながらわき腹をついてくる祐奈。


「だいたい罰ゲーム告白だぞ」

「いーじゃん、それくらい。お兄ちゃんが好きそうなラノベ? だったっけそういう感じの多そうじゃん」

「何もかも曖昧だな。というか、そういうのは作り物だからな」


 祐奈があからさまにため息をついたところで、俺たちは駅に着いた。

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