出会い 第二
「獣たちは種族を越えて纏まったりしねぇが、魔獣の言う事なら聞く。つまり、この山一帯は俺が纏めてんだ」
「へぇ、凄いな」
「お前、本当に変わった奴だな。普通もっと驚くだろう?」
「だから驚いてるって。僕たちは、魔獣の寿命を人間と同じだと思ってたからさ。二百年とか三百年なんて想像もつかないや。ササっていくつなんだ?」
「俺は百ニ十歳だ」
そして皿を綺麗に舐め取り、山菜鍋を食べ終えたササが続ける。
「だから俺はあいつらを助けに行ったんだよ。まぁ、失敗したけどな」
ササはシュンとうな垂れる。
「魔術が使えるのに、失敗なんてするか?」
「お前なぁ……」
ササが溜め息を吐くと、ケロウジもようやく思い出す。
「そうか、光草だ」
「そう、それだよ。お前たちがそれで柵をしてんだろう? あそこでも魔術が使えなかったんだよ。たぶん、煎じるかなんかして洞窟の壁や床にばら撒いてやがる」
「それでブツブツとぼやいていたのを僕に聞かれたのか」
「そういう事だ。飯の礼に襲わないでおいてやるから、俺の事も喋るなよ? そんでまた飯くれ」
なんという人懐っこい魔獣なのかとケロウジは驚いた。そして思い立って、これまでの経緯を話す。霊体の事まで全てだ。
ササはそれを黙って聞き、家の中をうろつくヒイロの霊体を見た。
「ササにも見えるのか?」
「あぁ。人間で見える奴がいるとは思わなかったが、魔獣には見えるんだ」
それから何事かを考え込み、開きかけては口を閉じる。その様子が少し気になりはしたが、気にしない事にしてケロウジはササに提案する。
「だから一緒にやらないか? それなら獣も奥さんも助けられるだろう」
「まぁ、そうだな。そうするか……」
ササは少し悩んでから「よし!」と言った。
「そんなら早速カラカサの屋敷に探りに行こうぜ。あいつ、前からあの洞窟に獣たちを押し込んで売り捌いてんだ。酷い目に遭わせてやる」
「そんなに前から何度もやっていたのか?」
悪い奴だなぁと言うケロウジに、ササは念を押す。
「お前はいい奴そうだが、完全に信じたわけじゃねぇ。今回は俺が利用してやるんだ。いいか? 変な動きをしたら魔術で脅かしてやるからな」
「分かってるよ。よろしくな、ササ」
そんな風に言われながらも、ケロウジはササを心優しい魔獣であると思う。それと同時に、魔術をこの目で見られるという期待に胸を躍らせてもいた。
その日の夜更け、ササとケロウジはカラカサの店の前までやって来ていた。
「ちょっと離れてろよ」
ササに言われ、ケロウジは一歩下がる。
ササが鍵のかかった戸を見上げる。すると、その体から青白い光があふれ出した。光はすぐに小さな玉ほどの大きさになり、鍵穴を包み込む。
「開いたぞ。次は俺たちだ。目を閉じてろよ」
「うん」
ケロウジはそう返事をしたものの、初めて間近で見た魔術に興奮してササをしっかりと見る。
感情があまり表に出ないケロウジの事なので、ササはそんな事には気付かずに魔術の光で自分とケロウジを包み込む。
それは青と銀色の光の粒だった。
それが膜のように体を覆い、シュワシュワと肌を撫でて消えて行く。
「あぁ、眩しくて目が痛い」
「バカだろう、お前。だから目を閉じろって言ったじゃねぇか」
「楽しくて忘れてた」
「お前、楽しんでたのか? 分かんねぇ奴だな」
そして、ケロウジがササに「何の魔術をかけたのか?」と聞くと、カラカサに見つからない魔術だと答える。
ケロウジはどういう事か分からず、自分の手を確認してみようとして動きを止めた。
右手を持ち上げ、自分の顔の前に持って来る。しかしそこには何もないのだ。
握ったり開いたり、振ってみたりするが手は見えない。
「手が消えた?」
ケロウジがそう呟くと、ササはプッと噴き出した。
「手だけじゃねぇ。姿が消えたんだよ。空気と同じ色にしたんだ。だから体はそこにあるが、誰にも見えない。けど声は聞こえるし、物にぶつかれば音も出るから気を付けろよ。バレたらお前だけ置いて行くからな」
その声はケロウジの足元の何もない所から聞こえている。
「気を付けるよ。それにしても魔術って便利だなぁ」
「お前、俺が嘘ついてお前に魔術でひどい事をするって思わないのか?」
「あぁ、思わなかったな。しないでくれよ?」
「分かったよ。全く……」
それからササは、銀青色の光の玉を自分とケロウジに一つずつ付けた。その光は魚が海を泳ぐような自然さで空中を漂っている。
「よし、家探しするぞ! 俺について来い!」
その威勢のいい言葉に、きっと今ササは得意気な顔をしているのだろうな、とケロウジは微笑ましく思う。
「あぁ。裏帳簿を探すぞ」
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