第13話 入部決定
「霧島、あんたまたそれやってんの?」
ちょうど霧島先輩にアグリコラのルールを一通り教えて貰った頃、部室に声が響く。
声のした方を見ると教室の入り口に気の強そうな女子生徒が腕組みをしながら立っていた。
ロングの黒髪で背が高く、黒タイツを穿いていて目鼻立ちも整っており『女教師』という雰囲気があった。
委員長タイプとでも言うのだろうか、いかにも真面目そうな印象を受ける。
上履きの色と霧島先輩に対しての言葉づかいからその人が2年生だとわかった。
うちの高校は1年は青、2年は緑、3年は赤と学年色が分かれているためだ。
「げっ、
「霧島まさかあんた、無理矢理後輩を付き合わせてるの? パワハラ最っ低。いつまでそんなくだらないことやってんの」
「くだらないとは何だ! アグリコラは世界大会もあるんだぞ!」
まじか、アグリコラって世界大会とかあるんだ。
意外とちゃんとしたゲームなのかもしれないアグリコラ。
と言うか霧島先輩のそのアグリコラに対する執念は何なんだろうか……
「そんなカリカリしてると、しわが増えるぞおばさん」
「誰のせいだと思ってんのよ! ずっとそんなのやってばっかで」
えぇ……なんか始まってしまった。
ギャーギャー言い争いを始めてしまった二人を俺と可憐はポカンと眺めていたのだが、須藤先輩の額にはピンクのハートが浮かんでいる事に気付いた。
ふむふむ、二人は犬猿の仲なのかと思っていたけど、そういうことですか、なるほどなるほど。
俺は他人に向ける感情も見ることができるため瞬時に理解できて思わずニヤニヤしてしまう。
完全に須藤先輩は霧島先輩に
これが俗に言うツンデレってやつか。
生ツンデレを見れた俺はちょっと感動した。
*
「騒がしくしてごめんね、2人は一年生だよね。私はボランティア部副部長で2年の
「1年の
「同じく1年の
しばらくして口喧嘩が落ち着いた先輩と俺たちは自己紹介をした。
当然アグリコラは中止である。
そのせいか霧島先輩は完全にすねてしまっていた。
「可憐ちゃんと純也君って呼ばせて貰うね。とりあえず、部長が来るまで私がこの部の説明をするわ」
色々ありすぎておなかいっぱいになりかけていたのだが、部活の見学に来てからやっと見学っぽくなってきて一安心する。
「君たち、そんな短気ですぐに怒るゴリラの言うことなんて聞かなくていいんだぞ?」
するとそこで
霧島先輩の額には唇をとがらせた顔文字のようなマークが浮かんでいるため、須藤先輩のことを悪く思っているわけではないのだと思う。
単に拗ねているだけなのだろう。
霧島先輩は子供っぽいと言うかなんと言うか……
「なんですって霧島」
あ、やばい気配。
「短気ゴリラの言うことなんて聞かなくて良いって言ったんだよ」
「ド陰キャ根暗コミュ障オタク野郎に言われたくないわ。この年になっても現役中二病で痛すぎるし、前髪長すぎてキモいし、そもそも丸めがねとか似合う見た目してないのによくそんな格好で堂々と学校に来れるわね。ゴリラとか短気とか言うんだったら一度鏡見てから言って頂戴――(以下自主規制)」
また口論が始まった。
まあ、これが2人にとっての日常なのだろう。
って言うか須藤先輩辛辣!
一方的に言葉のサンドバッグにされている霧島先輩は戦意を喪失して固まってしまっている。
「……でも眼鏡外して前髪切ったら結構格好いいっていうのもムカつくし、オタクだけど運動も勉強もできる所とか、
……ん?
これはもう好きだって言ってないか?
そして意外なことに霧島先輩は高スペックだった。
ちょんちょんと制服の袖を引っ張られて隣を見ると可憐が目をキラキラさせながら鼻息荒くこちらを見つめていた。
口元が「ω」の形になっていて、何だか魔法少女になるように契約を迫ってくる地球外生命体みたいだ。
「純也さん、純也さん! あれはそういうことですよね! ですよね! いやぁ、先輩方がそういう関係だったとは……これが俗に言うツンデレってやつですか。私、こういう展開大好きです!」
思考が乙女な可憐は興奮した口調で口論? している二人に聞こえないように話かけて来る。
可憐は別に鈍感ではないため、彼女にも今の会話だけで須藤先輩の霧島先輩への思いは伝わったようだ。
「大体、霧島。あんたはいつも……」
須藤先輩はそこで言葉を切ってからしばらくフリーズ。
そしてボンっと音が出そうな勢いで赤面した。
先ほど頭に血が登って勢いで放ってしまった言葉の意味が少し冷静になってわかったのだろう。
そして俺と可憐の方をちらりと見るとさらに真っ赤になった。
図らずに人前で公開告白をしてしまったような物なので相当恥ずかしいのだろう。
須藤先輩の目に涙がたまり、黒目がぐるぐるし始める。
「ちっ違っ……くはないんだけど、今のは勢いで言っちゃったからちゃんと言いたかったていうか、えーっと、その……うぅ」
須藤先輩は覚悟を決めたのか霧島先輩の反応を上目遣いで伺っている。
「もうこれ告白ですよね! 霧島先輩も絶対今ので気付きましたよね! これでスルーなんてしたらもはや人間じゃないですよね! 霧島先輩はどう答えるんでしょうか?」
そういうフラグを立てるな。
あと、その言葉は俺にも刺さるから辛い。
「霧島先輩はさ、喧嘩中で頭に血が登って冷静に考えられないから返答にはあんまり期待しない方が……」
俺は必死に霧島先輩をフォローする。
だって
「は、はあ? 俺ド陰キャ根暗コミュ障オタク野郎じゃねえし? め、眼鏡だって好きでかけてるんだから平気なんだもん。周りからどう見られたって俺は俺だからそんなことを言われたって全然気にしてねーし。須藤のばーかばーか!」
さっきから霧島先輩のライフはもうゼロなのだから……
前半に言われたことのショックで後半は全く聞こえていなかったのだろう。
「……俺、そんなに眼鏡とか髪型とかダサいって思われてたのか……」
ついには涙目でそんなことをボソボソ呟いている。
当然額には真っ赤な泣きマークがくっきりと浮かび上がっている。
そんな霧島先輩を可憐は目ハイライトが消えた目で冷ややか見つめていた。
やめて! 俺まで泣きそう。
「……霧島、もしかしてあんた泣いてるの?」
「は? な、泣いてなんかねーし?」
「今袖でぬぐったでしょ?」
「……」
「……」
「……もう帰る。明日覚えてろよ!」
霧島先輩はそう言い残すと走って行ってしまった。
この様子だとやはり先ほどの須藤先輩の言葉は届いてないようだ。
豆腐より弱いメンタルの霧島先輩が今の状況で須藤先輩のデレに気付けないのは仕方のないことだと思う。多分。
須藤先輩は気持ちがまだバレてないことに安心したのかさっきより少し元気になっていた。
「ごめんね。また騒がしくしちゃって」
須藤先輩は俺達の方を見るとまた顔を真っ赤に染めた。
おそらく先ほどの告白に近い言葉を聞かれたことを思い出したのだろう。
『///』マークが額にくっきりと浮かんでいる。
「須藤先輩! 決めました。私
「へ?」
俺の意思は?
こうして俺は体験入部を飛ばして半強制的にボランティア部に入ることになった。
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