第12話 ボランティア……部?
「
「私、中学の頃はソフトテニス部だったんだけど、この学校のソフトテニス部って強豪だからかなり厳しいらしいんだよね。だから気後れしちゃって入らなかったの。そしたらこの部の部長が中学のテニス部の先輩で、凄い誘われてそのまま入ったって感じ」
「ええ?! 部長は香織ちゃんの中学校の先輩なんですね」
部室に見学来た俺は早速空気と化していた。
女子ってなんであんなにすぐ打ち解けられるんだろうね。
そろそろ会話に入らないと完全に空気になる予感がしたため、ずっと気になったことを二人に聞いて会話に混ざる。
「ずっと気になってたんだけど、香織と
「実は受験の時に会ったんだよね。」
思ったよりも前から知り合いだったみたいで驚く。
「受験の教室の席が前後だったんだけど、前の席で可憐ちゃんがオロオロしてたから声をかけたら消しゴムを忘れて来ちゃったみたいだったから私が予備のやつを貸してあげたの。それがきっかけで受験の日にお昼も一緒に食べて、連絡先も交換したんだよね」
「そうですね! あの時は本当に助かりました。もの凄く緊張してて、頭が真っ白になってしまっていたんですけど、香織ちゃんと話して緊張が解けて合格できました。私が合格できたのは香織ちゃんのおかげです」
「いやいや、そんな。照れるなぁ」
えへへ
あはは
――なんだこの空間は。
いつの間にが平和すぎて逆につらい空間ができあがっていた。
俺、もう完全に蚊帳の外だし。
「お、もう来てたのか神崎」
その時、部室の入り口から聞こえてきた声で俺は現実に引き戻される。
助かったようなもう少しこの空間にいたかったような……
声のした方向を見ると一人の男子生徒が立っているのが見えた。
「あ、
香織に霧島先輩と呼ばれた先輩はもさもさの髪の毛で丸いメガネをかけている、いわゆる“オタク”という感じの見た目をしていた。
「その子達は?」
「昨日話してた部活見学の子です」
「ほほう」
可憐にそう言われた途端、霧島先輩のめがねが鋭く光る。
なんだ? めちゃくちゃ怪しいぞ?!
「あ、そうだ神崎。そう言えばさっき奈々ちゃん先生が香織のことを呼んでたぞ」
「え? なんだろ。じゅん、可憐ちゃん、ちょっと職員室行ってくるね。霧島先輩は二人に色々説明してあげててください」
可憐はそう言うと部室を出て行ってしまった。
霧島先輩は小走りで職員室に向かう可憐の様子を見ながらにやりと笑うとこちらにゆっくりと近づいて来る。
先輩の額には真っ赤な
何をしようとしているんだこの人は!?
香織をわざわざ引き離すような嘘をついた先輩に恐怖が芽生える。
まさか、可憐狙いの人なのか?
そんな警戒をしていた俺に対して先輩から発せられたのは予想のはるか斜め上の言葉だった。
「二人とも、アグリコラって知ってる?」
*
〈アグリコラとは〉
ドイツ発祥のボードゲーム。このゲームは未開拓の農場を開拓したり、畑を耕作したり、作物を育てたりし、ゲーム終了時に最もバランスのとれた農場を作った者が勝利するゲームである。
〈プレイ人数〉
1~5人
〈ルール〉
~以下略~
「つまり、勝ち負けのあるボードゲーム版の農場育成シミュレーションゲームみたいなものだ」
霧島先輩はノリノリで解説する。
うん、率直な感想を言おう。
知らねぇ。
「マイナー過ぎるでしょ! 何なんですかこのゲーム!」
しびれを切らした俺は思わず先輩に突っ込んでしまった。
「でも、それとボランティア部に何の関係があるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。実は……何も関係がない!」
「「ええ!?」」
関係ないのかよ!
可憐もこれにはさすがに驚いたらしく声がハモる。
「だってみんなやってくれないからいつも一人でやるしかないんだもん。こういう時じゃないとできないじゃん? 今ちょうど邪魔する人誰もいないし」
香織に嘘をついて追い出した理由はこれか。
いつの間にか額の△マークは真っ赤なニコニコマークに変わっていた。
どんだけやりたかったんだよアグリコラ……
「じゃあ、いつもは独りきりでアグリコラをしてるんですか?」
「ちょ、可憐、そこは多分触れちゃダメな部分だと思うぞ……」
「え? あっすいません、そういうつもりじゃなくて」
可憐がそう謝るとさらになんとも言えない空気になってしまった。
あ、これ完全に俺のプレミだ。
「……言っとくが俺はソロだぞ?」
どこかで聞いたなそのセリフ。
「俺はヒトリコラが好きなんだ。たとえ1日2日オレンジになったってどうってことないぞ?」
ヒトリコラってなんだよ! ひとりでアグリコラをするって事なのか?
もう先輩の突っ込み所が多すぎて疲れてきたぞ……
あとやっぱり知ってるな、そのセリフ。
ちょっと変えてるけど超有名な
と言うか、額に浮かんでいる真っ赤だったニコニコマークがオレンジどころか真っ青になってるんですが。
あ、泣きマークに変わった。
「自己紹介が遅れたけど、俺は2年の
「言わせませんよ!!」
先輩の怒濤のボケに限界が来た俺は先輩にそれ以上言わせてはいけない気がしてついツッコんでしまった。
「冗談だよ」
ハハハと笑う霧島先輩の額には三角マークが出ていて安心する。
これを本気でやってたら速攻で帰っていたところだ。
「さっそくなんだけど、二人の名前を教えて貰ってもいいかな?」
「私は1年の
「あぁ! 君が噂の宮崎さんか! 通りで美人な訳だ」
「先輩、可憐を見たことなかったんですか?」
可憐はうちの高校以外でもファンクラブができるほどの人気ぶりだ。
正直顔くらいなら見たことがあると思ったのだが……
「まあね、それに俺にはこの
そう言って差し出された先輩のスマホの待ち受け画面はご注文がうさぎの銀髪のキャラになっていた。
ああ。なんだ、ただのロリコンか。
「君の名は?」
霧島先輩が俺の方を見てそう言う。
ちょっとさっきからネタが渋滞しすぎて対応できないんですが……
面倒になった俺は考えるのをやめた。
「自分も同じく1年の
「宮崎さんに如月君だね。覚えたよ。じゃあさっそくだけどアグリコラやってみようか」
こうして俺達は初アグリコラをすることになった。
あれ? ボランティアは?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます