第4話 部活に入っていない俺は放課後に勉強しかすることしかない
俺は高校では部活に所属していないため、放課後は基本的に図書室で勉強している。
友達からはよく意外だと言われるが、この高校へは入試トップで入学することができた.
そのくらい勉強は得意なのだ。
元々集中すると周りが見えなくなるほど熱中する性格のため、勉強は性に合っているのかもしれない。
同じように運動にものめり込むタイプだった俺は中学時代は陸上部に所属していた。
100m走は県ベスト3位になった事もあるぼど部活に精を出していたのだが、その性格が災いしたのか練習で追い込みすぎてしまった事よって左足を故障。そして、ちょうど一年ほど前の中学3年の4月には部活を引退することになってしまった。
中学最後の大会に出場できなかった俺は悔しさや後悔、未練をバネに全て勉強にぶつけるようにしてつらい時期をなんとか乗り切った俺は、その事がきっかけか勉強をする習慣がいつの間にか体に染みついてしまっているのだ。
この高校は運動部が盛んなため放課後の校舎は人気が無く、とても勉強に集中できる。
それに図書室は普段あまり使用されない旧校舎にあるため、利用する人がほとんどおらず基本的に自分だけしかいない。俺にとっては最高の環境だ。
今日もいつものように一人で勉強をしていると
「すいません。隣いいですか?」
と突然声をかけられた。鈴を鳴らしたような透き通った声だ。
てっきり誰も来ないと思ってテーブルに広げていた参考書を急いで隅に寄せる。
図書室には利用者がほとんどいないため、勉強ができる大きさのテーブルは1つだけしかなく、そのテーブルを占拠してしまっていたのだから申し訳ない。
「すいません。どうぞ」
そう言って振り返るとそこには学校一の美女と噂されている、あの
*
「私は1年の宮崎可憐と申します。失礼ながらお名前をうかがってもよろしいですか?」
「俺は
よし! 自然に言えたぞ……多分
ポーカーフェイスで落ち着いている風に装っているが内心は緊張しまくっている。
それもそのはず、テーブルには椅子が4つあるのだが彼女は対面ではなく隣に座ったのだ。
女子に免疫のないDTの俺にとってこれは刺激が強すぎる。
どもらないで自己紹介できただけでも褒めてほしいくらいだ。
彼女との距離が近いため、きめが細かく化粧もしていないのに白く透き通るような肌や長いまつげ、ほどよく肉付いた形の良い唇、高校生とは思えないほど成長した胸が意識しなくても目に入ってしまう。
それにすごくいい香りがする。
これが俗に言う――
美人には香織と楓で慣れていたと思っていたのだが世界は広いものだ。
耐えきれなくなって目線をテーブルの上に開かれた彼女の参考書にそらすと奇妙なことにタイトルは
『0から始める
『
『
『
と全てが中学生向けだった。
「1年生なんですか?! 数学Ⅱ・Bの参考書をお持ちだったので、てっきり上級生かと思ってしまいました」
「今は部活をやってないからね。時間があるから予習をしてたら結構進んじゃって」
受験が終わった後も勉強を続けていたらいつの間にかかなり先の予習まで終えてしまっていたため、先ほど図書室で借りてきたのだ。
「頭がいいのですね! そう言えば入学式の時にスピーチをされていませんでしたか?」
主席で合格した人が入学式でスピーチを行うため、確かに俺は入学式でスピーチをした。
緊張で良く覚えてないけど。
「よく覚えてるね」
「やっぱりそうでしたか! 素晴らしいです!」
やば、めっちゃうれしい。照れる。えへへ。
こういうときに一番勉強してて良かったって思う。
「そう言う宮崎さんだって中学の内容から復習するなんてなかなかできないし凄いと思うよ。勉強熱心なんだね」
「いや、決して勉強熱心という訳ではなく……お恥ずかしながら中学の頃は体が弱くてずっと入院をしていたので、全くと言ってもいいほど学校の授業を受けられなかったんです」
なるほど、道理で彼女の中学の話題を聞かないわけだ。
入学してから1月で数十人から告白されるような人がいたら中学時代からかなりの話題になっているはずだもんな。
「え、でもこの高校に入れたなら十分な学力があるんじゃ?」
俺の通っている高校は県内でも割と有名な進学校だ。偏差値は60を越えているはずだが。
「中学3年の秋頃に退院してから中学3年分の勉強を始めたのですけど、当然間に合わないので入試に出やすい所だけの対策をして、何とか合格はできたと言う感じですね。でも、付け焼き刃の知識だけでは今後の勉強に響くと思いまして」
「それを勉強熱心って言うんだよ。っていうか秋から中学3年分の勉強始めたの?!」
「はい、入院生活が長かったので……なので教科書の入試に出やすいところしか勉強してないです。このページのこの辺りは全く手をつけていなかったので全然わかりませんし」
マジかよ。この話が本当なら彼女はとんでもない化け物である。
「そこ難しいよね。俺で良ければ教えてあげようか?」
「本当ですか?! ありがとうございます!」
こうしてその日は宮崎さんに勉強を教えることになった
*
「こんなに遅くまでありがとうございました! ものすごくわかりやすかったです」
宮崎さんとの勉強が終わったのは校舎が閉められる20時だった。辺りはすっかり暗くなっている。
「如月さんは自分の勉強があったにも関わらず、時間を頂いてしまいすいません」
「気にしないでいいよ。俺の場合は習慣みたいなものだし。またいつでもわからないところがあったら教えるよ」
「本当にいいんですか?! 実は次の単元のページによくわからないところがあったのですが」
「じゃあ明日教えてあげるよ。明日時間空いてる?」
「本当ですか? ありがとうございます! 全然空いてます。では明日も図書室で待ってます!」
そう言う彼女の額には赤色のニコニコマークが浮かんでいた。
彼女は元から勉強が好きなのだろう。
初めは緊張してなかなか彼女の顔を見れなかったが、彼女の人柄の良さもあり、今はだいぶ打ち解けて彼女の感情が見えるようになった。
話す前は遠い存在だと思っていたが話してみると、とても親しみやすい人だ。
「あ、そうです如月さん。いつまでも苗字で呼ばれるとなんだか他人みたいなので、私のことは宮崎さんではなく可憐と呼んでください。もしくはあだ名で」
え、無理無理。
いくら打ち解けたとは言っても俺にはハードルが高すぎる。超えられる気がしないレベルの高さにセットされたハードルなのだが……
「……わかった。俺も純也で構わないよ」
だが、満面の笑みで話す彼女の前で断ることはできなかった。
「わかりました。では純也さんまた明日!」
この事を他の男子に知られたら俺、陰湿な虐めを受けそうだな。
というか宮崎さんと図書室にいることを知られるだけでまずいんじゃないか?
もしもバレればこの学校はおろかこの辺りの高校の男子の大半を敵に回すことになるだろう。
とりあえず優人だけには知られないようにしよう。
*
家に着くと楓が不安そうな顔をして待っていた。
「兄さん! 遅いから心配しちゃったよ。遅くなるんだったら連絡してって言ったのに」
「ごめん、勉強してたら遅くなっちゃって」
「嘘でしょ。だって女の匂いがするもん」
え、女の匂い? そんなのわかるの?
「冗談です」
目が笑っていなかった。
「それに何回電話かけても出ないし」
急いでスマホを確認すると数件の着信履歴が表示されていた。
「本当にごめん! 全然気づかなかった」
「次からはちゃんと連絡してよね?本当に心配したんだから」
楓はそう言うと自分の部屋に行ってしまった。
今朝、衝撃の事実が発覚してから楓の感情はできるだけ見ないようにしようと決めた。
感情を見て、変にギクシャクしたくなかったからだ。
それでもある程度はギクシャクしてしまうことは覚悟していたが心配していたほどではなくて一安心した。
楓との向き合い方は……明日考えよう。
とりあえず今日は大量の情報が入ってパンク寸前の脳をゆっくり休めることにする。
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