第3話 一度意識してしまった俺は幼なじみにすらいつも通りに接することができない
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
盛大にため息をつきながら俺は机に伏せる。
最近悩んだり元気がないときは机やテーブルに突っ伏していたため、こうするのがすっかり癖になってしまっている。
もう机と結婚しようかな。
「すっげーため息だな
隣の席の机に腰を掛けてケラケラと笑いながら話しかけてきたのは中学からの友人の
現在は朝のホームルーム前で、登校してきた他のクラスメイト達は雑談をしたりスマホを弄ったり各々好きなことをして過ごしている。
俺もいつもなら会話に混ざるのだが、昨日から衝撃的な事が立て続きに起こっているため精神的にそんな余裕はない。
「優人はいつにも増して元気そうだな」
「わかっちゃう? 聞きたい? 理由聞きたい?」
優人の顔をじっと見ると優人の額には赤色のスマイリーフェイスのようなニッコリマークが浮かんでいた。
俺は図形や記号だけで無く、絵文字や顔文字のような形でも感情を見ることができるらしい。らしいと言うのは最近『共感覚』について調べ始めてからこの事に気づいたからだ。
昔は図形しか見えなかったはずだったが、いつの間にか顔文字なども見えるようになっていた。
この能力も体や精神の成長とともに成長するのだろうか?
おそらく感覚的に相手の感情が自分の記憶の中にあるものの形やマーク、記号として現れるのだろう。知識が増えたから見えるものも変わったのかもしれない
まあ、絵文字の方がわかりやすくてありがたい。
感情の度合いを表す色は誤差があったりまだ分かっていないことも多いが、基本は
青<水色<緑<黄<オレンジ<赤
のように寒色系の色は度合いが低く、暖色系の色は高い度合いになっていることは分かっている。
ただ、今朝見た
額に浮かび上がる顔文字も絵文字も見た通り機嫌や喜びを表すため、優人に何か良いことでもあったのだろう。
まあ、マークを見なくても表情や口調から簡単にわかるのだが。
「あんまり興味ないかな」
「冷たっ! そこは何があったのかくらい聞いてくれよ」
適当にあしらおうと思っていたが赤色だったニコちゃんマークが青色まで変わってしまったので少し可哀想になり尋ねてみることにした。
「そんで、なんで今日はそんなテンション高いの?」
「え? やっぱ気になる?」
青色だったニコちゃんマークが再び真っ赤になる。
どれだけ聞いてほしいんだよ。
「実はな、今日登校中に宮崎さんに挨拶したらにっこり笑って返してくれたんだよ」
「……は?」
優人がどや顔で自信たっぷりに言い放つ。
全く意味がわからん上に顔がムカつく。
「ま、純也みたいな非モテDTはキョドって話しかけられないだろうがな! はっはっは!」
あ、やべ、イライラしてきた。
「ぶん殴るぞ」
「え?」
「いや何でも無い。で、それだけ?」
いかんいかん。つい本音が漏れしまった。
「それだけとは何だ! 俺は宮崎さんの声が聞こえただけでご飯を3杯は食べれるぞ? あんな間近で宮崎さんの笑顔を見れた日には世界を救える気がする」
優人は急に真顔になり、ガチのトーンでそう言い放つ。
軽い冗談や誇張して話す人には三角形が、悪気のある冗談や全くの嘘を話す人にはバツ印が見えるはずなのだが優人の額には全く見当たらない。
こいつ
入学してからひと月あまりで学校一の美人と噂され、この学校ではでは知らない人はいないと言われるほどの有名人である。
それだけの美貌を持ちながら人当たりも良く、クラスの中心的存在なのだとか。
そんな彼女に思いを寄せる男子は多く、この1カ月で何人も告白をしているが告白に成功した人は未だにいないという。
とやかく言う俺も何度か廊下ですれ違ったことがあるが、思わず見とれてしまう程に魅力的な女性だった。
腰まで伸びた長い髪は綺麗に手入れされ、一挙手一投足に気品のようなものまで感じた。
「そんなに宮崎さんが好きならもう告白しちゃえば良いじゃん」
「いやいや、おまえ入学してから何人が振られてるの知らないのか? 俺の知ってる限りでも軽く数十人は超えてるぞ?」
「はぁ?! そんなにいるのか?!」
予想を遙か上回る人数に思わず声が裏返ってしまった。
「まあな、それに俺には宮崎さんに近付こうなんておこがましい真似できないよ。俺は宮崎さんを遠くから眺めてるだけで幸せだしな」
俺は悟ったように澄んだ瞳で遠くを見ながらそう語る友人が将来ストーカーにならないか心配になった。
いっそ早く告白して玉砕した方がこいつのためになると思うんだが……
「何の話してるの?」
若干トリップしてる優人の話を呆れながら聞いていた俺は、背後から聞こえてきた聞き慣れている声に思わずドキリとしてしまう。
「お、
そう、
それに加えてまだ入学してから席替えをしていないため席は出席番号順になっている。
そして
香織は先程までクラスの女子達と話していたのだが、いつの間にか自分の席に戻ってきたらしい。
今朝の件があり、なんとなく気まずい俺は振り向いた彼女と目が合って反射的に視線をそらしてしまった。
生まれてから一度も恋愛経験が無い俺にとって、誰かから好意を受ける事には慣れておらず、どうしたら良いのかわからなくなってしまったのだ。
悔しいが俺は優人の言うとおり非モテDTの腰抜け野郎なのである。
「ああ! 可憐ちゃん? あの子すっごく良い子だよね」
そんな俺の事は知るよしもない香織と優人は楽しそうに会話を続ける。
「なぁっ?! もう名前で呼び合う仲だと? 羨ましい」
「えっへん いいでしょー?」
そんな二人のやりとりをどこか上の空で聞いていたのだが
「純也も羨ましいよな?」
「へ?」
急に話題を振られて気の抜けた声が出てしまった。
「え! じゅんはああいう子がタイプなの?」
だが、逆に他のことを考えられなくなり自然に会話に入ることができた。
「話したことないからよくわからないな」
「そうかそうか、純也はまだ宮崎さんと話したことがないのか。うんうん残念だなぁ。俺は今日挨拶してもらえたからなぁ」
俺の肩に手を置いて優人がドヤ顔で自慢してくる。
うぜぇ
「あ、私それなら可憐ちゃんの連絡先知ってるよ?」
「ダニィ?! 羨ましすぎるぞ」
「紹介してあげようか?」
「神だ、神がここにおられる。一生ついて行きます」
「優人、おまえさっき宮崎さんに近付こうなんておこがましい真似できないとか言ってなかったか? 自分は宮崎さんを遠くから眺めてるだけで幸せだとか言って」
「そうなの? じゃあ紹介できないね」
「それとこれとは話がちがぁぁぁう」
そう言って血涙を流しながら香織に土下座をする優人に心の中で、いつも通りに話せるきっかけを作ってくれた感謝をした。
今度何か奢ってあげよう。
……いや、めっちゃうざかったからやっぱやめよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます