第3話 家の中で

まだお日様が見える時間に僕はハッと目が覚めた。

眠たいお目目をこすりながら辺りを見回すと同居人の女の姿が見当たらない。

男の方は早い時間にどこかに出かけてしまった。いつも太陽が登る時間に家を出て辺りが暗くなった頃に帰ってくる。たまに1日中家にいるが。

朝眠たいのに同居人の女が僕を抱き抱え、男が家から出るのを毎日見届ける。

オミオクリ、と同居人の女は言っていた。毎回僕にチューするのは良いが、顎のジョリジョリは綺麗にして欲しい。痛い。

ぐぅぅ。

足を曲げながら両腕を伸ばし、寝起きの伸びをしたところで僕はコロリと寝返りし、うつ伏せになった。

この寝返り、最近になってモノにした技なのだが、最初はかなり苦労したものだ。初めて出来た時、何故か同居人の男と女は大喜びしたもので、いつも手に持っている機械で僕を追いかけていた。

寝返りするのは非常に体力を使うのだが、そこまでチヤホヤされると僕も悪い気はしないので、つい何度もやってしまう。結果、今では簡単にできるようになったのだ。最近ではうつぶせの状態から両腕を地面につけ、顔を上げるポーズが大ウケするのでよくやっている。すふぃんくす?と呼ばれる僕の会心のポーズだ。

しかし、今はオーディエンスはいないので、僕はそのままコロコロと転がっていった。今回の冒険は家の外を出るのが目的だ。

そのためには、まず窓際まで移動しなくてはならない。僕はひたすらゴロゴロ転がり、目的のその場所に辿り着いた。

しかしここにきて問題が発覚する。

普段は気持ち良い風が通るよう窓が開いているのだが、どうも今の時期は窓を閉め切っている。あの気持ち良い風が僕は好きだったのでそれが入らなくなってしまい、残念に思った。

でもなぜかこの部屋は快適な温度を保っており、なんなら少し肌寒い時があるくらいだ。

そんな時は大体、同居人の女がなにやら男に大きな声で何か伝え、男は慌てて壁に取り付けてあるりもこん?と呼ばれるものを使っている。

あのりもこんと呼ばれるものはこの家にいくつかあり、僕は特に黒いやつがお気に入りだ。

なにはともあれ、窓が閉まっている以上この計画はオジャンだ。僕は次の作戦に移ることにした。それはいつも同居人の男がオミオクリされるドアだ。あそこからも家の外に出ることが出来るのは確認済みだ。そのドアに続く道は窓からは正反対の位置にあるので、僕はさっきの倍の距離をコロコロ転がっていった。

軽く目的地に着いた僕にまた別の問題が発生する。

段差があるのだ。

なんてこった。寝返りを完全にマスターし、すふぃんくすという見せ技まで会得した僕だが、まだハイハイはできていない。そんな僕にとってこの段差は絶対に超えることの出来ない壁なのだ。

悔しい。ここまできて僕の冒険が途絶えてしまうこともそうだが、自分の不甲斐なさに涙がこみ上げてくる。

僕は年甲斐もなく声をあげて泣いてしまった。

すると、部屋の奥から慌てて同居人の女が出てきて僕を抱き抱えた。

部屋の奥には僕が食べる白や緑のドロドロを作るときにこもる部屋が別にあり、どうやらそれらもそこで作っているようだ。

冒険に夢中で気がつかなかったが、ドロドロを食べる時間が近付いていたので、女は用意をしていたようだ。

泣き叫ぶ僕は抱き抱えられると幾分落ち着きを取り戻し、10秒後には女の笑顔に笑顔で返していた。

ここで予想外の出来事が起こる。

外に出たがっていた僕の気持ちを察してか、僕を抱き抱えたまま窓の外に連れていってくれたのだ。

思いがけず果たされた僕の冒険だが、まぁこうゆうのもありだろう。

窓の外は部屋の中と違い蒸し暑く、でもたまに僕の髪を撫でるように気持ち良い風が吹いていた。

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