第2話 公園

ふぅ、ふぅ。

僕を乗せたベビーカーを運ぶこの男の息遣いが聞こえる。確かに、最近はミルクを飲む量だって増えたし生まれた時よりずっと大きくなったこともあり、僕の体重は3倍くらいにはなっているから重いだろう。彼にはもっと頑張って欲しいものだ。

ベビーカーを下ろし、僕の後ろから押す力を感じると、ベビーカーがずんずんと進みだす。

ガタガタ、と揺られさっき寝ていたのに少し眠たくなる。この振動はどうも心地よい。しかし、今の時期は別だ。なぜか最近、外に出ている間は全身妙に汗をかくし、上からの光がまぶしくて蒸し暑い。前にある機械からなにやら風は届くが、やはり少し暑くて寝辛い。

足下の隙間から見える空は青く広がっている。

時折、その青は向こうから僕を覗き見してくる人影で遮られる。一緒に住んでいる女の人だ。たまに男の人も覗いてくるが、彼らは決まって笑顔で僕を見てくる。

なにがそんなに楽しいのかはわからないが、僕も悪い気はしないので思わず笑顔になる。

そんなやり取りをしていると、ベビーカーの動きがふと止まり、また男の荒い息遣いが聞こえる。同時に、ベビーカーが持ち上げられる感覚があった。

ふぅ。

男が一息つくと、ベビーカーは再び地面に降ろされた感覚があった。

それとほぼ同時にベビーカーの天井が勢いよく開かれた。


まず最初に、一面の青が僕の目を奪った。

次に目に飛び込んできたのは見たことのない大きなおもちゃだった。そのおもちゃはいくつか種類があり、どれもカラフルで大変興味深いものだった。

僕がおもちゃに目を奪われている間、同居人の男はおもむろに僕をベビーカーから抱き上げた。

よーし、すべり台で遊ぼうか。

すべり台とは一体なんなんだ?そんなことを考える暇もなく、気づいてた時には大きなおもちゃの上に座らされていた。なにやらおしりが少し冷たいと感じた次の瞬間、すぅ〜という同居人を合図に僕は斜め下に滑り落ちた。

なんだこれは!何かわからないがすごい楽しいぞ!

僕が喜んでいると彼はまた僕を抱き上げ、さっきと同じ場所まで連れていき、また斜め下に滑り落ちさせた。上から下へただ滑るだけなのになぜこんなに面白いんだろうか。

すべり落ちる間も彼はずっと僕を掴んでいるので、厳密には移動させられているだけだがかなり楽しい。家では絶対できない遊びで非常にワクワクする。

これなら何度でも遊べる、と思っていたらふと抱き抱えられ、僕はこのすべり台とやらから引き離された。

何で離すの?!楽しかったのに。。

そんなことを考えていると、また別のおもちゃのところに連れて行かれた。

今度はさっきよりずっと小さい。同居人のおしりくらいまでの高さしかなく、絵本で見たことのある動物の形をしていた。確かオウマさんとか言っていたと思う。

どうやって遊ぶのだろうかと考えていると、同居人の男は僕をそのオウマさんに跨るように乗せた。

おしりの下が何やら不安定で、前後左右にクネクネと動く。しかしこの動きが妙に楽しい。

年甲斐もなく、思わずキャッキャッと笑ってしまった。

一通り楽しむと、また僕は同居人の男に抱き抱えられた。

そして、ベビーカーの上に再び座らさせられた。

もっと遊びたかったのに。

しかし、同時に何やら小腹が空いてきたような気もするし、なんだかお尻もムズムズする。少し眠たくなってきたし。

そういう意味では絶妙なタイミングでの撤収といえる。

行きと変わらないベビーカーの揺れ心地は、僕をまた夢の世界へと連れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る