第192話 領内紹介。4

 庭の風景を楽しんでもらった後、チャオを屋敷の中へと案内する。

 屋敷に入ると。


「お帰りなさいませ。ご主人様。」


 メイドたちに迎えられた。

 真ん中の赤い絨毯の左右の端にメイドたちがずらりと並んで一糸乱れぬタイミングで頭を下げて出迎えてくれた。

 これにはチャオも驚いただろう。

 だが十全も驚いていた。

 だって、こんなマンガやアニメで見たようなお出迎えは今までされたことが無かったからである。

 そん訳で十全が驚いているとエントランスの中央にある階段をニャルに手を引かれたウルトゥムがゆっくりと降りて来た。

 人前に出るためのオトナモードのウルトゥム。

 そのお腹はすでにわずかに膨らみ始めていた。

 実は、検査では双子だということがわかている。

「ウルトゥム。何やってるんだよ。」

 十全はウルトゥムを見ると駆け寄り空いてるほうの手を取る。

「安静にしてないとダメじゃないか。」

「アナタこそ、御客人を放っておいてはいけませんよ。」

 ウルトゥムは優しく微笑みながら十全の手を取ってチャオの前に進み出る。

「ようこそいらっしゃいました。ワタシは松永・フルボッキ・十全の妻のウルトゥムというものです。」

 ウルトゥムは身重でありながらも貴人としての振る舞いでチャオを客人として迎えた。

 それが妻としての義務だと言わんばかりに。

「貴方が、――ボリア帝国皇帝の妹。」

「そんな肩書捨てました。」

 ニコリ。

 満面の笑みでもってチャオのセリフを否定するウルトゥム。

 それこそが自分の絶体正義だと言わんばかりに。

「は、はぁ。」

 その圧力にチャオも何かを察したみたいに冷や汗を垂らしながらうなずいていた。

「し、失礼しました。ぼくはカダス連邦ウルタール王国の大和親善大使のチャオ・チュールと言います。これより松永様にお世話になります。どうよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。ともに世界の平和と安寧に尽くしましょう。」

 チャオはわずかに腰を落としてウルトゥムに貴人に対する礼を取る。

「旦那様。お急ぎの御用が無ければ歓迎の食事を用意しているのですが。」

「ん。それはありがたい。チャオ殿。妻が食事の用意をしてくれたらしい。領内の案内の前に召しあがってもらえるかな。」

「ありがとうございます。喜んでご馳走にならせていただきます。松永夫人。」

 チャオのその返しにウルトゥムは嬉しそうに微笑んで十全の手を引く。

「ではこちらにいらして下さい。」

 そう言ってウルトゥムは自ら先導して食堂へ向かった。

 食堂に入るとすでにボリア帝国の使者であるクームとヤーガが席についていた。

 2人は十全たちがやって来ると席を立って挨拶を始めた。

「「私たちはボリア帝国から来たクームとヤーガと申します。ウルタール王国の使者とは同じ立場、どうぞよろ――――」」

「あんなのは飛べない駄鳥です。気にせずどうぞこちらの席に。」

「「ウルトゥム様!」」

 相変わらずボリア関係には当たりの強いウルトゥムによってはじめられたチャオの歓迎会ともいう食事会が始まった。

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