第191話 領内紹介。3
庭の噴水を眺めながらも玄関に続く庭の他の景色にも目を向けるチャオ。
季節は秋から冬に差し掛かろうという時期なのに、庭には寂しさというものが無い。
色づく葉をたたえる木々もあれば、今こそ咲き誇る花々もあった。
どこか郷愁を誘う暖かな光景が庭には作らており、その庭の中にはこれまた彫像が立っていた。
噴水と同じ白い材質で作られている天使のような女の子たちが庭を駆け回っているようだった。
「これらは楽園をイメージしたものですか。」
「楽園ですか。そうとも言えますが、そうでもないとも言えます。」
「と、いいますと。どういうことですか。」
「これらは身近な幸せを表現してもらいました。これらを楽園と呼ぶならば、私たちが目指している平和こそ楽園になります。」
「楽園を作る。……身近にあるもの。そして平和ですか。」
チャオはしばし足を止めて庭を眺めはじめた。
……
………………
…………………………
「子供たちの、…………子供たちが笑っているようです。」
「チャオさんにも聞こえますか。」
「はい、子供たちが飢えることなく、戦火におびえることなく、無邪気に笑っていられる平和。それをあなた方は作ろうとしているのですね。」
「自分はチャオさんもその仲間だと思っていますよ。」
「僕ごときができるでしょうか。」
「どうしてその様に自分を卑下なさるのですか?」
「ぼくはしょせん温室育ちの王子様。戦争も民の貧困も知らずに育った世間知らずです。」
「自分でそうおっしゃるからにはそう思えるような体験をなさったのですね。」
「そうです。戦争は終わった、世界は平和になった。そう言われていたのでぼくは遊び半分で街に繰り出しました。そこにはお城で聞いていたような優雅さはあらず、ただでさえ食料が少ないのに、戦争から帰って来た兵士たちの食い扶持でさらに貧しくなる人々が居ました。兵士の皆さんも傷だらけで健康と言える人の方が少ないほどでした。それでも帰ってこれたことを喜ぶもの、帰らぬ人に涙する者達、それらを始めて目の当たりにしました。そんな中で着飾ってのんきに遊びに出て来た自分が愚かな道化師に見えてしまいました。ふふ、人々を笑顔にできるなら道化師の方がましだ。ある人にそう言われたりもしましたよ。ですのでぼくはぼくのやり方でみんなを笑顔にしたい。そう思って仕事を学び始めました。そしたら大和の全権大使などにされましたが、これはぼくの願いを叶えるまたとない機会だと思いましたよ。今は。」
そう言ってチャオは十全の方に向きなおると手を差し出してきた。
「改めて、ぼくを仲間にしてくださったことに感謝をします。甘ちょろい若造ですがあなた方の期待に沿えるように全力をもって答えたい。できればもう一度握手をしてもらえませんか。」
そう言うチャオに十全は笑顔で手を取り固い握手を交わしたのだった。
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