第103話 決闘。3

 十全が土俵に上がる。

 大相撲に詳しくないからはっきりとは言い切れないが、この土俵はしっかりしている。

 上った際も足元の土は固く崩れることはなかった。

 これだけのものを一朝一夕に作るのは難しいだろう。

 だからコレはウィズが悪魔の力で造ったモノだろう。

 そのウィズが行司をしている――――てか服が結構こってんじゃないか。こんなかで一番ノリノリじゃないか。つまり、これは俺の満足感に関わっているってことだ。

「…………。」

 十全が黙って見つめる先、雫が土俵に上がて来た。

 向かい合う2人。

 共にセコンドから得物が渡される。

 使うのは刃こそついていないが、実戦で使うのと同じ形の刀である。

 本気で打ち合えば、当たり所が悪ければ死にかねないもの。

 それでも実際に剣を交えなければならない理由が雫にはあるのだろう。

 (俺はそれに応えなければならない。逃げてちゃダメだな。)そう思い、十全は雫に向き合う。

 互いに刀を構えて。

「見合って見合って☆はっけよ~い♪……思い残すことはない、ヤレ♡」

 そこは最後まで決めろよ。


 先手を取ったのは十全だった。

 これは彼にとって珍しい、――――否、懐かしい手だった。

 正眼からの馬鹿正直な真っすぐな打ち込み。それだけに早く、相手の急所をとらえる。

 しかしそれを雫は後ろに下がって躱す。躱しざまに下からすくい上げるような斬撃を残す。

 十全はこれを手堅く受け流す。

 雫は体勢を崩すことなくサイドスッテップで十全の側面に回り込む。

「のこったのこった~♡」

 十全は再度打ち込みに行くがこれも躱される。

 それもこれも十全と雫の得物の差だった。

「のこったのこった~♡」

 十全の刀が2尺ほど、つまり60㎝くらいのもの、対して雫は3尺余り、約1mほどの長さがあった。

「のこったのこった~♡」

 この40㎝の差が埋められない。

 雫の足腰はしっかりと鍛えられており、刀の振りに持っていかれることなく地面を掴む。

「のこったのこった~♡」

 さすがは守りの黒髪 玄武の娘。

 なかなかに攻めさせない。

「のこったのこった~♡」

「さっきから五月蠅~よ。」

「おこったおこった~♡」

 行司役のウィズがさっきから煽って来る。

 確実に十全を狙って声をかけているのだ。

 それに気を取られたところに雫からの攻撃が来た。

「くっ、」

 何とか防ぐが後ろに押される。

 (追いつめられる――――。)そう思った瞬間、攻撃に出た雫に隙が生まれた。

(そこ。)

 それは焦りだっただろう。

 目についた隙を反射的に突こうと攻撃をしてしまった。

 それもあっさりと躱される。

(しまった。誘われた。)

 そう思った時にはもう遅かった。

 打ち出した切っ先は雫の刀にからめとられた。

 巻き上げ。

 その名の通り刀を巻き付けるように取り上げ放り投げる技である。

 これにより十全の得物は手から離れて土俵の向こうへ飛んで行った。

 目の前には刀を正眼に構えた雫がいる。

「……降参は――――」

 刀を振り上げる雫。

「無しですよねぇ。」

 という訳で、十全は無刀取りの構えを取り意識を集中する。

「のこったのこった~♡」

 ウィズの声も遠くなってくる。

 そこで雫が動く。

 十全が間合いを詰めに行った――――ら。

 雫が刀を投げ出して抱き着いって来た。


「貴方が好きです。前から、――――そして今も。」


「あ。」

 そうこぼしたところで遅かった。


「決まりて☆すくい投げ~~~~~~~~♡」


 十全は綺麗に土俵の上に投げ転がされた。

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