第71話 生きた鎧。

ドズ、ザク、ガッガッガッ。


いくつもの装甲を傷つける音が重なる。


咄嗟に腕でガードしたので胸部のコックピットを傷つけられずに済んだ。


しかし、手足の駆動系がやられて機体が立ってられずに膝をつく。


その機体の前に黒騎士が降り立つ。その体から黒光りする触手を何本も生やして、その触手を使って体を支えながらゆっくりと降り立った。


「くそ、いきなり黒光りする触手が出てくるとか反則だろ。」


「いえ、いきなり頭部から火を噴く人も反則かと。」


「こっちはロボットだからいいの。それよりやつは人間か。」


「分かりません。黒騎士の甲冑の中を見たモノはいませんので。ですがあの触手はたぶん私と同じようなモノです。」


「ウルトゥムと同じ?…あぁ、あの触手でできた皮か。つまりあれも寄生型の魔法具ってことか。」


「いえ、正確には魔法具ではありません。アレはたぶんボリア帝国の至宝、生きた鎧と言われる「レン」です。」


「なに、てっことはあの黒騎士は中に人がい入ってるんじゃなくて、鎧の方が勝手に動いてんのか。」


「もしくは中に人が入っていても寄生されて自由なんてなくなっているか、ですね。」


「完全にSAN値チェック案件じゃねぇか。道理で嫌な予感がすると思った。」


「ミツル、急いで撤退を。彼の鎧が本物であるなら帝竜と互角というのも本当です。あの鎧は初代のボリア皇帝の愛用だったといい、帝竜たちを実力で従わせたとか。」


焦るウルトゥムの言葉に同意してさっさと逃げ出したいところだが、いまだ黒騎士から生える触手の何本かが機体に食い込んでいる。


「まだ抵抗するか。それとも皇女の居場所を吐く気になったか。素直に吐くなら見逃してやってもいいぞ。」


黒騎士が金属をこすり合わせるような不快な声で聴いてくる。


「くっ、」


結構ヤバい、この機体では戦闘はおろか逃走も無理だろう。


だからといってウルトゥムを差し出すわけにはいかない。


この黒騎士の纏う邪悪な気配から、ウルトゥムを捕まえれば裏切り者としてどのような扱いをするか考えたくもない。


「ミチル、ここはワタシが出て行けば――――


「だめだ。ウルトゥムは逃げてくれ。今から脱出装置を起動してウルトゥムを逃がす。」


「いえ、それでは黒騎士が逃がしてくれるはずが。」


「同時に機体を自爆させる。その破片に紛れて脱出だ。」


「だからそれだけで黒騎士が―――


「俺は残って最後まで戦う。そうすればここにウルトゥムがいたことがばれない。」


「それなら私も一緒に戦います。」


「ウルトゥムには大事な役目があるだろ。」


「え?」


「俺の子供を産むんだろ。だから生きてくれ。帝都に入れば隊長がいる。あの人にかかれば黒騎士もどうにかなる。」


「何を言ってるんですか。まだちゃんと子供だって出来てないのに。」


「だから、ちゃんと生きて帰るから。ここをしのげればいいんだ。別に勝つ必要はない。だからここは俺に任して先に行け。」


正直こんなこと言ってる時点で俺は覚悟を決めているのだが、オタク文化の知識などないウルトゥムにとってはこの上なく格好良く見えただろう。


「分かりました。約束ですよ。ちゃんと帰ってきて子種を下さい。」


一言余計だ。


そして俺は脱出装置と自爆装置を起動した。


ドゥッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァン!


「くっ、敵わぬとみて自決するとは……愚かな。」


爆風から顔を守りながら吐き捨てる黒騎士に答える声があった。


「はっはっは!所詮は野蛮なボリア帝国の飼い犬、大和が誇る自爆の美学が分からんかぁぁ!」


爆炎の中から俺は進み出て改めて黒騎士と対峙する。


「待たせたな。これこそ正真正銘の新型、真の甲型機動甲冑だ。」

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