第72話 真が付くのは伊達じゃない。

甲型機動甲冑は甲種兵装の一種である。


そのコンセプトは使い手の個性に合わせたワンオフの機体と人体の融合による、人機一体の戦士とすることにあった。


しかしその完成形は戦争時には影も形もなく、開発のための実験機が実戦投入されて戦果を挙げた。というくらいのものであった。


戦争が終わった今、その技術は戦争の為ではなく平和利用されるはずだった。


だがここに、


戦争が終わってもなくならない争いの為に、1体の完成品が降り立ったのであった。


その全身は銀色に輝いている。


例えるなら銀色の全身タイツを着た男性に、いくつかのユニットが付いている。そんな感じである。


その銀色の表面が波打つと、


ギュゥゥゥゥン、という音と共に色形を変えていき、最後は鎧兜を装着した十全になった。


これが本当の甲型機動甲冑の姿である。


開発コンセプトを実現したこの機体の本質は、超極小の機械の集合体である。


ナノマシン、と言われることは平成の日本に住む人ならわかるだろうが、この世界ではまだ一般には知られていない概念である。


それを、ミチルの元居た世界でも実用化されていない技術を実現せしめたのはこの世界だからだろうか。


十全には開発に関わるドラマは分からないが、特甲技研が並々ならぬ努力で作り上げたことを感じられた。


甲型機動甲冑を形作るナノマシンは細胞の隙間からしみこむことで装着者の体内を機械に作り替えることができるのだ。


これにより人体は人体には出来ない拡張性と高出力を可能にした。


機械は機械ではできないコンパクトかつ多様性のあるハードを構築することができ、かつそれを制御する頭脳を獲得できたのである。



「――――ふん、まだ悪足搔きをするつもりか。」


黒騎士は爆発の中から現れた得体の知れないモノに警戒心を募らせていたが、出てきたのがただの地球人だったことに拍子抜けをしていた。


「っはん、コレが悪足搔きかどうかはその身で味合わせてやるよ。」


「大人しく皇女の居場所を吐いていれば苦しまずに済んだと後悔させてやる。」


不快な金属音で応える黒騎士に十全は内心で笑っていた。


その皇女様と結婚した男が俺だって気が付いてないのか。しかもついさっきまでここにいたっていうのにな。


十全は黒騎士にかかって来いよ、と手招きをする。


それに黒騎士は地面を踏み砕く突撃で応えた。


ガッギィィィィィィィィィン!


突撃から繰り出された黒騎士の斬撃を十全は居合で受け止めた。


剣と刀のぶつかり合いによって衝撃波が生まれる。


十全が握る刀は十全にとって曰く付きの刀である。


この刀に触ってしまったせいで東雲家から勘当されることになった。


だが、


だからこそ今の自分がある。


その刀でもって確かな強敵の一撃を受け止めた。


(カウンターを入れるつもりだったが、そうは安くないか。)と思いながら黒騎士の剣を押し返そうと体を前に押し出す。


黒騎士は片手で持っていた剣を両手持ちにして体重をかけてくる。


十全も空いた左手を刀の峰に添えて押し返す。


ギリッ、ギリギリギリッ。


(パワー負けしてない。)


つばぜり合いで2人の顏が近づく。


「?」


十全がふっと疑問を持ったところを――――


黒騎士から生えた触手が側面から噛みつくように伸びて来た。


十全はそれをバックステップで回避して、すかさず片手突きを繰り出した。


平成育ちの男子ならみんなが知っているような有名なあの片手突きだ。


突きは黒騎士の触手の間を抜け、黒騎士の兜の眼窩に決まる。

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