第70話 甲型機動甲冑VS黒騎士

最初の一歩。


引き足はしっかりと地面を掴んで、差し足は滑らせるように前に出す。


重心を維持したまま上半身を前に倒すようにする。


出すのは突き。


自分より小さいものに対する初撃はできるだけ動作の小さいもので攻める。


中には初撃で大ぶりの攻撃を用いて相手の動きを誘う者もいる。


しかし俺は隙の無い動きで様子を見るのが常石。


素早く動作の少ない攻撃で相手の判断の間を減らす、これで相手の判断速度を図るのだ。


普通に当たるなら問題ない。それで終わりだろう。


避けたり防御されたりしてもその動作に焦りがあったりバランスを崩すような場合も問題ない。焦る事の無いように落ちついて1手1手攻略しながら、切り札に対抗できるようにしておけばいい。


普通に対処できる相手は油断ができない。


相手の動きと状況を読んで戦術を組み立てていかなければならないだろう。


しかし一番厄介なのが―――――――


黒騎士は突きに対して間合いを詰めて来た。


こちらの動きのタイミングを読まれて間合いを変えてくる相手、特にこの黒騎士のように近づいてくる相手は―――ヤバイ。


特務機動中隊での訓練でも俺が最初ボコボコにされた相手はみんなそういう奴だった。


とは言え、散々ボコボコにされてきたのは無駄ではない。


若干苦手意識があるがそういう相手に成れているのである。


最初の突き。これをできるだけ力を入れずに当てることだけに限定しておくことで、こういう相手に対しての対応する余裕を残しているのだ。


俺は前に出していた差し足に力を入れて地面にしっかり踏ん張ることで前進をキャンセルする。


それと前に出していたを上体後ろに戻すことで重心を後ろに下げ、後ろに引いていた引き足を軸足にするために身体の軸を変える。


「ふぅ―――っ。」


一連の動作の初めに素早く息を吐いて姿勢を整える際に鋭く息を吸う。


これで突きから突きをキャンセルした動きの残心は完了する。


これで黒騎士の次の動きに万全に対処できる。


黒騎士はこちらと比べて間合いが狭い故残心が間に合ったが、その踏み込みは鋭く速い。


そして重い。踏み込んだ足が地面を砕いている。


ダァッッン!


と、そこから黒騎士は飛び上がり切りかかってきた。


「狙いは頭か。」


今の状況で小さいものが倍以上に身長のあるモノに挑むセオリーは足元から崩すか、このように飛び上がったりして頭部をつぶしに行くかの2つである。


これは地球人が体の大きな異星人に挑むときの経験から来るものだ。


ジャイアントキリングの基本と言っていい。


だが、地球人は自分たちが挑むだけでは無く挑まれることを想定した技も磨いてきている。


自分たちより小さきものを侮らない。


しっかりと脅威と認識することで技の制度は上がる。


ブゥゥーーーン。


頭を狙った黒騎士の攻撃が空を切る。


こちらは重心を落とし、軸足にした足の屈伸で体を引き下げたのだ。


飛びかかっての攻撃だが相手がデカいとつい下への注意がおろそかになりがちだ。


その死角に入り込んだ。


そして俺は前に出していた足を抜いて、(分かりやすく言うと伸ばした足を手前に戻すことだ。)重心の下に持ってきておいた。


攻撃を空振り宙に浮いたままの黒騎士は今無防備だ。


そこをしゃがんだ時のバネを利用して斬り上げる。


ピタッ。


「なに、刀の上に乗っただと。どこのマンガだよ。」


黒騎士は斬り上げた刀の上に足の屈伸で勢いを殺して乗って見せたのである。


俺はその光景に驚いて動きが止まってしまった。


そこを黒騎士は刀の上を走ってきて頭部に攻撃を仕掛けて来た。


ドッォルルルルルルルルルルルルルルルルル!


「!」


「見たか、これぞ新装備ヘッドバルカン。」


機体の頭部、左右のこめかみにある小口径だが連射性のあるバルカンが火を噴いた。


至近距離からの予想外のカウンターを黒騎士はまともに受けた。


「やったか。」


て、言っちゃたもんだからそこか反撃が来た。


「あっ、やっちゃた。」


後悔先に立たず。やっちゃったと気づいた時には黒騎士から黒光りする触手が何本も飛び出して、こちらの装甲に突き刺さってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る