第69話 黒騎士

ギャア!ガッガッガッガッガッガッ!


機体に衝撃が走る。


突然飛び出してきたものを最初は熊かと思った。


それぐらいの大きさだったのだ。


だが、その黒い影から突如剣が生えて(文字通りニョキッと生えて来た)切りかかってきたのである。


咄嗟の防御が間に合った。


機体の走行モードから白兵モードへの切り替えの早さも新型になって早くなっていたおかげだ。


4輪のバイクから人型の上半身が生えたかのような中途半端な状態での防御だった。


「くっ、パワー負けしてる。」


1合の打ち合いでこちらが不完全な受けだったとしても、弾き飛ばされたのは相手より大きなこちらの機体だった。


人型への変形が完了した機体の胸にあるコックピットで俺は愚痴を吐く。


「巨人相手にも押し負けないのに、……あの黒いのは何なんだよ。」


正直強敵との戦いとかは好きな方なのだが、なぜだかかあの黒いのと戦うのに嫌な感じがする。


特務機動中隊で俺を何度も殺してくれた仲間たちとは違う苦手感だった。


そいつは2mくらいの高さをしている全身真っ黒な甲冑に身を包んだ騎士だ。


俺のオタク感性だったらテンションが上がりそうなデザインのはずなのに、何故だろう、すっごく生理的な悪寒を感じてしまう。


「黒騎士。」


そう後ろでウルトゥムがつぶやいた。


「あれってボリア帝国のお客さんですか。」


「ええ、ですが招かれざる客です。」


「ならば早々にお引き取り願いましょうかね。」


そう言って俺は武器を構えた。


こちらが5mあり向こうは2mと、倍近くの身長差があるのに、対峙する黒騎士には怯えどころか気負う様子もなく自然体で構えている。


「気を付けてくださ。黒騎士はボリア帝国最強の騎士です。その強さは帝竜にも匹敵するとされる皇帝の側近です。」


それは気を付けたらどうにかなる話なのでしょうか。


そう聞き返したいところだけど、意地があるんだ男の子には。だからぐっと飲みこむ。


じりじりと構えを維持したまま間合いを詰めていく。


黒騎士が持つ剣は幅広のツーハンドソード、禍々しい装飾の入った剣を黒騎士は片手っで構えている。


対してこちらは甲型機動甲冑用に鍛造された日本刀。身長5mの人型が扱うだけあってその長さは相当なものだ。


斬り合えば間合いはこちらが圧倒的に有利。


しかし、黒騎士は自分から間合いを詰めてくることはなく、じっとこちらを凝視するだけだった。


じりじりと間合いを詰めて、俺の有利な間合いへと至った。


「黒騎士といったか、名前を名乗ってくれるかい。」


剣を交える前に俺はそう聞いた。


黒騎士、と呼ばれていても本名ではないだろうから、しっかりと名前を聞いておきたかったのだ。


ウルトゥムとの戦いでボリアにも敵に名乗る文化はあると分かっていたから。


「黒騎士か……その呼び方、誰に聞いた。と、訊ねるまでもないか。」


黒騎士からは金属をこすり合わせたかのような、およそ人らしい声では無い声が響いた。


「ワシは黒騎士、ただそれだけだ。それよりも貴様、我がボリアの皇女の居場所を知っているか。」


黒騎士からの返答では名前は聞けなかった。


「聞いてどうする。」


「返してもらいたいだけさ。あれでも皇族、これ以上恥をさらしてほしくはない。」


「そう言われて、はいここに居ます。とでも答えると思うか。」


本当にここに居ますけど。


「ならば力ずくで吐かせるのみ。」


黒騎士から闘気があふれ出す。


それを合図に俺は攻撃に出た。

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